日曜日

町田海

四月十三日

しんとした部屋の中で、

隣の部屋のベランダにかかっているだろうハンガーが風に吹かれて鳴らす音だけが聞こえてくる。


この部屋に越して来て1週間。

もう二十歳になるというのに、依然心は高校生の頃のままだ。


この一年間、

私は浪人というある種の自由を味わった。

宅浪だったから起きる時間も寝る時間も何にも拘束されない。

ただ、将来への漠然とした不安が常につきまとう以外は、

とても、解放された一年だった。



この部屋には何かが足りない。

その空白な部分がわたしを心地よくさせる。


大きなベランダからは街を見下ろせる。

海は見えなくとも、どこまでも続くような気がするこの大きな道路の表情を、

わたしはいくらでも見ることができる。

他に何を求めることができようか。



わたしは欠陥品だ。

高校生の時から薄々気づいてはいた。

ただ、それを認めるのが怖かったし、

その必要もないと思った。

大きくなるにつれて、

"普通"になるものだと思いたかった。


自分を否定するから苦しいのだ。

わたしは欠陥品だ。

それはもう、仕方のない、

誤魔化すことのできない事実なのだ。



何かが足りないこの部屋で、

欠陥品のわたしは暮らしていく。

いつかここを出るその日まで、

わたしはわたしを充電するのである。


たくさん本を読んで、たくさん泣こう。

東京でわたしを待つ彼氏のとこに月一で行って、きちんと愛を確かめあおう。

自分の存在意義を見失いそうになるたび、

わたしはそうやって確かめるのだ。

わたしは決して不必要な人間ではなく、

ましてや、欠陥品などではない、と。


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