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生き生きとした兎の絵がある。百年前、この大地を駆け回っていたのだろうか。私がインクで描かれた毛皮を撫でると、吹いてきた風の下で、その身体がぴくりと震えた。
革張りの高そうな帳面である、紙もそれなりのものが使われていて、保存状態はとても良かった。殆ど水を通さないような固い土に埋まっていたのも幸いして、雪解け水で痛んでいないのは非常に有り難い。
これを主に書いたのはイテリという名前の女性だったらしい。今の私と部下の関係に少しだけ似ているだろうか、私達は軍属などではないが。この日記の中に出てくるエルディオスという人は画家を目指していたのだろうか。現在よりも融通の利かなかったであろう時代だ、もう少し後に生まれていたならば、才能を見出されていたかもしれない。
少し目を離して、息をついた。部下がちらりとこっちを見て、すぐに自分の仕事へ戻っていく。太陽は低く中天にかかり、朝よりも温かくなってきたと感じた。
あとどれくらいこの記録は続くのだろう、とふと思って、裏表紙に返して後ろからパラパラと落としてみたら、帳面の殆どが白かった。ついさっきまで読んでいた所を探り当ててから残りを確認すると、記録はあと四日分しかない。
短いのには理由がある筈だ。何があったのだろう。
私は九月二十一日の記録を読み始めた。
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