VSフレト7♪1¥4

二度の変身妨害に懲りずにシーラはまたも赤い何かを構える。無論、それが色々な意味でいけない事だと知っているジョフも容赦なくパフィンを投げ飛ばそうと彼女の腰に手を回す。


「パフィン魚雷!!」

「ぷぃいーーーー!?」


三度目の空中飛行に悲鳴をあげるパフィン。

しかし、宙を舞うその身体が何かにぶつかる事はなく、咄嗟に羽根を羽ばたかせては空中にふわりと浮かび上がる。


「…………あれ?」


地上にいるジョフと空中にいるパフィンは、目を点にして同じ場所に視線を移す。

いない。つい先程までそこにいたはずの、が。


確かにそこにいた。しばらく前から知り合いで、仲良く話をしたり、何か助けてもらったり、何か一緒にしたり、何か、何か、何か、


「あれ……あれ……」


思い出せない。ついさっきまで覚えていたはずの友達の顔が、声が、姿が。

突如として起こった不快この上ない謎の忘却。


不快感。やり場のない驚愕、悲しみ、怒り、困惑、その他の形容できない何か。


「ぎ……ぎギぎぎぃ……ぁッッ!!」


癇癪を起こし始めているジョフは目を見開き、血が出そうな勢いで強く頭を掻きむしる。幼い彼女にとってその感情はあまりにも強烈で涙を止める事ができなかった。


「ふぇ……ぇぇええぇえ……!」


地面に膝から崩れ落ちていくパフィンは、誰かが立っていたはずの場所を両手で弱々しく叩きながら泣きじゃくる。ぼろぼろと大粒の涙が誰かの影を作り出すのではないかとありえない期待がむちゃくちゃになった彼女の感情を支配していく。


思い出したい。思い出さなければいけない。しかし、まるで抗いようのない自然現象のごとく襲いかかったソレは一片の慈悲も見せないまま二人の記憶をどんどん蝕む。


「なんで……なんでぇ……!」


忘れる事そのものが有り得ない。なのに、まるで最初からいなかったかのように。


うっすらと靄のかかっている輪廓すら思い出せなくなる。そして


「ギヂヂヂギイィ゛イイッ

「…………え……」


唸り声が消えた。

その得体の知れない不快な感情を共有できる友達が、パフィンの視界から消え失せた。


「ど、どこですか!?どこに……っ……ぁ……どこぉ!!」


名前が、姿が、顔が、頭の中から一瞬で消え去る。

パフィンは助けを求めようと顔を上げた時、みんなの顔を思い浮かべようとした。


が、その時彼女の心身は恐怖一色に染まる。


「ぇ……え……!」


思い出せない。たくさんいたはずの友達、知人、パークの誰かや誰か。

まるで自分には最初から誰も知り合いがいなかったかのように、記憶の容量に不自然なまでの空きができていた。


「やだ!!やだ!!忘れないで!!」


何かから庇うように頭を両手で押さえ、うずくまる。それすらも嘲笑うかのようにソレはパフィンから記憶を消していく。


「やめでぇ……わずれないでぇ……!!」


ただ、泣きじゃくる事しかできなかった。

気付けば町の風景も薄暗くなり、遠くの光景が塗りつぶされるかのように白くなり始めている。


その時、不意に頭上から聞き慣れない声が響く。


「もっと引っかき回してから消そうかと思ったけど、自分でもビックリするくらい早く飽きちゃったな」

「……!!」


ソレは冷たい口調で言葉を紡いだ。今のパフィンにとってそんな事はどうでもよく、ただ孤独から抜け出したい一心で顔を上げる。


そこにいたのは


「出来損ないのニセモノ共。オレが一から作り直してやる」


どこにでもいる、ごく普通の若い男。顔に巨大な一つの目玉しかない事を除けば、何もかもが至極普通のヒトだった。


「なんで……セル



















そして、最後まで残っていた誰かの意識は、白く塗り潰される景色と共にプッツリと消え失せた。

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