VSフレトラマンシーラ 1
それからというもの、パフィン達は調査に出向いてきたアーノルドらパークガイド達に発見され、ジープに乗せられて緊急避難エリアへと向かっていた。
密林を走るジープの中で、シーラは線が抜けたように泣きじゃくりながらアーノルドに抱きつき、爆発アフロがようやく元に戻ってくるもまだ外側がはねているジョフは不機嫌そうに顔をしかめ続けている。
そして、未だに意識が戻らないタビーは一番後ろの席を動かして人一人が横になれるスペースを作り、そこに寝かされている。
「アリスぢゃあぁん……もう死ぬかと思っだあぁ……」
「よしよし、怖かったわね。アタシ達が来たからにはもう安心よ」
「アーノルド。日本語になるとカマっぽくなるのやめね?」
「ッッア゛リスとお呼び!!」
天然パーマ気味の短い金髪に少し縦長な面持ちの若い男、クリス・ポータルはハンドルを握りながら気持ちが悪そうに毒味のある言葉を投げかける。
そしてパフィンはと言うと、膝立ちで席の上から窓の外を覗き込み、通り過ぎる光景をキョロキョロ忙しなく見渡していた。
「あら、パフィンちゃん。そんなに外見てたら車酔いしちゃうわよ?」
アーノルドの言葉を気にもかけないパフィンは、ひたすらに外を見つめ続ける。
密林の中に見知った人影があるだろうかと見回し続けるが、人の形をした生き物が視界に映り込む事はなく、あるのは無造作に生い茂る草木やそこに住まう虫や獣の姿ばかり。
やっぱり外にはいないのだろうか。もう一度避難エリアをしっかり探すべきなのだろうか。
未だ姿を見せない事に諦めるように席に着き直そうとした時だった。
「あっ……あぁー!!」
甲高い声をあげるパフィンに一行が驚いたように視線を集中させると、目を大きく見開いた彼女が慌てたように羽根を小刻みにパタつかせながら席の上で跳びはねているではないか。
「お、おい、いきなりどうした?」
「だ、誰か!誰か外にいまーす!」
「クリス、止めなさい!」
驚くクリスをよそにパフィンが外を指差すのを見たアーノルドがクリスに停車させるよう指示する。
ジープが停まり、アーノルドはパフィンと一緒になって外の景色をガラス越しに目を細めて注意深く睨みつける。
少しした後、ハッとした顔になると同時にジープのドアを勢いよく開け、その大柄な体格からは想像もつかない程の瞬発力で外へと飛び出す。
「アリスちゃん!?」
「おいアーノルド!大丈夫かよ!?」
「クリス、ステイ!アンタ達もそこで待ってなさい!あとアリスとお呼び!」
あっという間に茂みの向こうへと走り去るアーノルドを止める間もなく、一行はジープに取り残される。
それから少しばかりの時間が経ち、しんと静まり返る車内。
アーノルドの向かった先をじっと見ていたクリスが沈黙を気まずく感じてジョークの一つでもかましてみようかと口を開きかけた時だった。
アーノルドとの会話用に持たされていたトランシーバーから音が鳴った事に気付いたクリスは、何かあったのかと訝しげに電波を交信させる。
「こちらクリス。何かあったのか?どうぞ」
『こちらアーノルド!状況を話す暇はない!俺の事は置いていけ!今すぐ車を飛ばせ!!今すぐだ!!』
「お、おい!一体何が__」
突如トランシーバーからけたたましく響くアーノルドの怒号。困惑するクリスが聞き返そうとするが、それを遮るようにトランシーバーから歪な電波音が鳴り響くと、若い男のような声が囁くような音量で聞こえてきた。
『ザンネン。もう遅いよ』
明らかにアーノルドの声帯から出るそれではない。
おぞましい何かを瞬時に察したクリスは、ジープのレバーを目にも留まらぬ動きで操作をするとアクセルを一気に踏み込む。
「え……ち、ちょっと!アリスちゃんがまだ……!」
「ヤバイ事になった!とにかくすぐに戻る!」
「ヤ、ヤバイ事って何でち!?」
「分からん!だがここにいるのは危険だ!!」
ジープが急発進した事にシーラとジョフが声をあげるが、クリスは構う事無くジープを飛ばしていく__はずだった。
「警告。警告。前方ニサンドスターノ数値異常個体ヲ確認。速ヤカニ別ルートヘノ迂回を実行シテクダサイ。警告。警告____」
助手席のラッキービーストが警告音を鳴らすと同時にジープは緩やかにスピードを落としていく。
クリスは頬を伝う汗を拭う事も忘れ、見開いた目で前方を凝視する。
何事かと顔を出すパフィン達も、クリスが見る方に視界を移すと同時に表情が一気に強張っていった。
そこにいたのは、人の形をしているが黒と銀のまだらに近い模様が全身に行き渡り、顔と思しき箇所にはギョロリと大きな一つ目。
ポーズを取るようにゆっくりと手を上げていくそれは、僅かな間を置いてファイティングポーズを取る。
そして、何よりそれは
「セルリファイッ!!」
人が放つそれと何ら変わりない声を発し、クリス達が乗るジープに向かって全速力で走ってきた。
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