おじさん、帰る②
大した言葉も交わさず、男は二人に軽く手を振りながらガイドに促されるままその場を立ち去っていく。
「おじさんは大事な用があるんで、そろそろお別れしないと。二人とも、もらった飴は仲良く分けてくださいね」
ガイドと共に小道を歩いて行く男。その後ろ姿が小さくなっていき、いよいよその背中は林から伸びる木の葉の影に隠れそうになる。
その時、気まずい空気の余韻が原因で呆然としていたパフィンは大きく息を吸い込むと、金切り声にも取れる程の大きな声で男に呼びかける。
「……おじさあぁーーん!!」
「でっちぃ!?」
突然の叫びに驚いたジョフロイネコが弾けたかのように空高く飛び跳ねる横で、パフィンはそれに構う事なくさらにあらん限りの大声を続ける。
「またぁーー!!来てくださあぁーーい!!おじさんの飴ちゃーーん!!またもらいたいでえぇえーーーーす!!!!」
水辺エリア全体に響き渡るような大声が、山彦となって空の向こうへと消えていく。
大声を出したことで少しばかり呼吸が乱れたパフィンは、間もなく静寂が訪れる空間にポツリと佇む。
遠くから水の流れる音だけが聞こえる小道の向こうから、言いようのない寂しさが姿の見えない怪物のように忍び寄ってきたのを感じたパフィンは、少し俯き気味になりながらもきびすを返そうとする。
両手に一杯の飴を抱えながら頭の羽根を広げ、空へ飛び立とうとする。その時だった。
“また来るよー”
とてもとても小さな声。でも、その耳に確かにハッキリと聞こえた低く優しい男の声。
ハッと顔を上げたパフィンは、くるりとステップを踏むように回転しながら器用に空へと舞い上がり、ちょうど地面に落ちてきていたジョフロイネコをキャッチすると再び大きな声で遠くに向かって明るい調子で声を張り上げる。
「約束ですよおぉーー!!」
目を白黒させるジョフロイネコを抱えながら空の上で満足げに笑うパフィンがうっかり落とした大量の飴は、その包み紙が陽の光を反射したことでキラキラと雨のように降り注ぐ小さな光となって地上へ落ちていった。
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