第6話 ー時転の章 6- 俺の属性は力士らしい

 百夜ぴゃくや姐さんたちと別れ、一行は宿舎を目指す。信長の本拠地は津島と隣接する勝幡しょばた城とのことだ。こんな名前の城、聞いたこともない。本当、高校の日本史は役に立たないな。漫画やゲームのほうがよっぽど詳しいんじゃねえのと思えてくる。


 そうこう思ううちに、なにやら、長屋が並んでいるとこに着く。その近くの武家屋敷に、俺とひでよしは通される。


「おッス。戻ったッス、だれかいないッスか」


「ん、どうした、利家としいえ。今日の募兵はもう終わったのか?」


 30歳くらいのおっさんが俺たちを出迎える。


「おいおい、なんだこいつ。なんで裸なんだよ」


 こっちが何故なんだと言いたいくらいだ。転生くんだり、いきなり町中で荷物をおろか服まで取られたんだ。そして、今、ぱんいち姿だ。おれの人生、ハードすぎるだろ。せめて、なにかいいチートがほしいとこである。


「なにブツブツ言ってんだ。お前ら砂だらけじゃねえか。とりあえず水垢離みずこりでもしてこい。そんなんで上にあがられちゃたまらん」


 言われるままに、庭の井戸の前に連れていかれる。そして、おもむろに、ひでよしも着物を脱ぎだす。俺は何が始まるのかと思い、つったっていたところを、真正面から、桶で水をぶっかけられる。


「ぶっは。ちょっと、なにしやがる。冷たいだろうが!」


「み、水垢離みずこりです。これで汚れを洗い流すの、です」


「冷てえええ。おいやめろって、おおおい!」



 散々、水をぶっかけられ、きれいさっぱりした俺とひでよしは、屋敷の中に通される。なんか、この時代に来てから変な試練ばっかりだな。もっとこう、姫さまとのラブロマンスがあるんじゃねえのかよ。


「また、なんかブツブツ言ってんな。おい、利家としいえ。本当にこんなやつ、殿とのが採用したのか?」


「そうッスよ、信盛のぶもりさま。死なせないように注意しろって言ってたッス」


 信盛のぶもりと呼ばれた男は、ははあんと言う。


「お前ら、農村から出てきたばかりか。殺しはまだか?」


「い、いえ。わたしは、いくさ場に駆り出されたことがあるので、すでに済ませてい、ます」


 ひでよしの口から信じられない言葉を聞いた。もう、合戦にでていただと。そんな話は聞いてない。


「おい、ひでよし。どういうことだよ。おまえ、人殺しをしているってのは」


「ん?そんなのいくさ場に出れば当たり前だろ。お前もやることになるんだ、何言ってやがる」


 信盛のぶもりは不可思議なものを見るかのように俺を見つめてくる。


「なるほど。このご時世に、その歳になっても、殺しどころかいくさ場に行ったこともないっていうのか。そりゃ殿とのも不思議がって、興味がわくわけだ」


「そうみたいッス。どこのボンボンかと思えば、村から飛び出してきたあたり、世間の目に触れされたくなかったかもッス」


「なにかあるのかもな。このボウズには」


 なにかあるかは、こっちが聞きたいくらいだ。得意な相撲は、ひでよしに勝てないことで完膚なきまでに自信を喪失している。


「まあいい。おい、ボウズ。その格好じゃ、さすがにあれだ。服をもってくるから、そこで待っとけ」


 すっかり子供あつかいだ。そりゃ、見た目30近いおっさんのあんたからしたら、ボウズなのは間違いないが、釈然としない。


 10分後、着物を持って、信盛のぶもりが戻ってくる。


「お待たせ。そういえば、名前をまだ聞いてなかったな。俺は佐久間信盛さくまのぶもり殿とのから200人の兵を預かっている」


「わ、わたしは、中村出身のひでよしです。こ、こちらのものは、飯村いいむら出身の彦助ひこすけです」


彦助ひこすけです。よろしくお願いします」


 信盛のぶもりに対して礼をする。すると、信盛のぶもりは、ふむと言いこう告げる。


「お前ら、弓矢はだめとしても、槍くらいは使えるよな。突く、払う、叩く。これだけだ」


 俺は正直に信盛のぶもりに言う。


「いや、実は槍すら持ったことがないんだ。相撲一辺倒だったんでさ」


「ああ、そうか、お前、いくさ場にでたことないって話だもんな。まあ、すぐに覚えるから安心しろ。明日から、みっちり鍛えてやる」


 俺はふむふむと聞きつつ、着物を着る。なんだこれ、相撲取りが着る浴衣じゃないのか。


「お、似合ってるじゃない。ここには力士出身のやつも多い。そいつら用にゆったり目の浴衣があるんだ。ちょうど背丈にあうのがあってよかったぜ」


 あとそれととばかりに、なにやらジャラジャラと音をならしながら袋を渡してくる。


「これは支度金だ。5貫入ってる。槍とか、いくさ場での鎧は貸しだすが、日常品や服、メシはとりあえず、それで賄ってくれ。くれぐれも、博打でスルんじゃねえぞ」


 5貫っていくらだろう。たしか2000貫で2億円ってのは聞いたことあるから、逆算して、え、え?


「おいおい、50万円もくれるのかよ。織田家はすげえな」


「それだけじゃないぞ、一カ月ごとに、給金で2貫出す。給金の分だけしっかり働いてくれよ」


 支度金に50万円、月に20万円。高校、出たての俺にとっては大金だ。俺、飛ばされた先が尾張おわりでよかったよと、このときはまだ思っていたのだった。

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