カドカワBOOKSでは駄目?――新レーベル立ち上げの理由とは
前回はカクヨム発のドラゴンブックが関わった小説を題材にして、ドラゴンブックの求めている作品像について考えてみました。
しかし、それらの作品は全てカドカワBOOKSより出版されています。
――この事実が、もしかしたら今回のコンテストと新レーベルの立ち上げに繋がっているのでは?
そう推測を立てた私は、一先ずカドカワBOOKSについて調べてみました。
――以下ニコニコ大百科より抜粋
カドカワBOOKSとはKADOKAWAが発行する単行本小説レーベルである。富士見書房が発行していたFUJIMI SHOBO NOVELSを引き継いでKADOKAWAのブランドカンパニー各社のWeb小説出身の単行本小説レーベルを統合して2015年10月10日に創刊。毎月10日発売。
――以上
(http://dic.nicovideo.jp/a/%E3%82%AB%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%AFbooks)
カドカワBOOKSはWEB発の小説を刊行している比較的新しいレーベルです。
有名な作品は先日アニメ化もされた『デスマーチから始まる異世界狂想曲』などでしょうか。カドカワBOOKSの公式HP(https://kadokawabooks.jp/)を覗いてみると、様々な作品が見られますね。
では、ここから考えを広げて思い付いた事を深堀りしていこうと思います。
①ジャンル
ここでカドカワBOOKSの特徴として思い付いたのが、WEB発の小説を専門としたレーベルである、という事です。そこから情報を探ってみると、『ラノベではなく新文芸というジャンルで展開を開始した』という事を見つけました。
カドカワ公式オンラインショップ「カドカワストア」にてこれについてのインタビュー記事(https://store.kadokawa.co.jp/shop/pages/special_articles_01.aspx)がありました。
この記事が投稿された時点ではまだカクヨムすら存在していませんし、WEB小説に対する姿勢・取り組み方を決めた第一弾の公式発表とも受け取れます。
インタビューでは「ラノベ」という大分類と同じように「新文芸」というWEB小説のジャンルを確立したいと話されていました。
これに対し、ドラゴンブック初となる小説賞を公募ではなくカクヨムを用いたWEB小説コンテストで募集している事から、新レーベルもWEB小説を中心にしていくつもりなのかもしれません。
コンテスト要項の賞について見てみると、大賞1名に加えて特別賞若干名の記載もあります。また、書籍化は検討となっていますが、担当編集が付く事は名言されています。
加えてコンテストの応募期限が7/31であるにも関わらず、中間選考に半月、結果発表までに約1か月という随分と駆け足の選考スケジュールになっています。
これは、急いで受賞者を決めなければいけない――つまり、新レーベルの立ち上げは決まったが、そこから出す作品と著者がまだほとんど決まっていないと推測できます。
この事から、今回のコンテストで新レーベルから出版する最初の作品と著者の大部分を見繕うつもりであると考えられ、各受賞者の該当なしとなる可能性が低いと予想できます。
また、コンテスト要項の序文では『新たな単行本小説レーベルを準備』と述べている事から、文庫本サイズ(A6判)ではなく単行本サイズ(B6判)――つまり、カドカワBOOKSの既刊本と似たような外観である事も予想されます。
上記のような考えにより、ドラゴンブックの新レーベルはカドカワBOOKSと似た『WEB小説を書籍化した作品群によるファンタジー特化のレーベル』であると考えられます。
②カドカワBOOKSとの差別化
KADOKAWAの公式サイト新文芸ページ(https://www.kadokawa.co.jp/shinbungei/)の様子を見るに、「ラノベに対する新文芸」という考え方が変わっていないという前提の下で考えを進めます。
現在、新文芸と題しているレーベルは「カドカワBOOKS」、「MFブックス」、「エンターブレイン」の3レーベルが存在しています。
MFブックスはなろう発のWEB小説がメインのレーベル。エンターブレインはなろうだけでなくエブリスタやアルカディア発のWEB小説も扱っているレーベルです。
しかし、この区分は原作の掲載元による分類であり、レーベルに見られるような「色」を感じさせるものでは正直ありません。
例えば、ラノベという区分の中でも電撃文庫やファンタジア文庫、スニーカー文庫など、各レーベルに特徴とも言うべき”色”があります。
新人賞などの公募に応募した事がある人は、どのレーベルに応募するかを考える際にレーベル色を意識する事は避けては通れない道ですよね。
しかし、そのような「レーベル色」というのは長年出版してきた実績から滲み出てくるものであり、創刊したばかりのレーベルでは中々分からないでしょう。
実際、最近は様々なレーベルが存在しているため歴史の浅いレーベル同士だと違いが分からないと思う方も多いのではないでしょうか。
レーベルの色を決める誰もが知っているような看板作品が出てしまえば印象もガラリと変わるでしょうが、そんな作品が分かるのであれば著者も編集も苦労はしません。(笑)
――では、あえてドラゴンブックが新レーベルを出す理由はなんでしょうか?
私は、それこそ先ほど述べたレーベル色を出したいからだと思います。
まあ、当たり前と言えば当たり前ですね。
つまり、「新文芸」というジャンルが今後確立すると推測し、ラノベと同じように新文芸の中でファンタジー分野を得意としたレーベルというものを創りたいのでしょう。
そういう意味ではドラゴンブックはおあつらえ向きに得意分野が分かっていますし適役かもしれません。
①と②を考慮すると、今回のコンテストを『新世代ファンタジー小説』と銘打っている意味も何となく透けて見えてきます。
恐らく、『ラノベとは違った方向へと成長をしたファンタジー』を求めているのでしょう。
そう考えて募集要項の「大人が興味を持つテーマ」や「現代社会の要素をファンタジー世界に反映した小説」という文言を見てみると、求めている作風はラノベよりもライト文芸に近いとも感じます。
「ライト文芸」は一般文芸とラノベの中間に位置するような作品群ですが、簡単に言えばラノベから萌えなどの要素を薄め、対象年齢を20~30代に引き上げたジャンルです。
「一般文芸は堅苦しくて読む気が起きないし、ラノベを読むのはちょっと……」といった一般層を取り込むのが目的と言えます。
また、そうした人達は、真新しさや流行というものに惹かれやすいイメージがあります。
皆さんの周りでもいませんか?
普段は本とか読んでいないのに、「流行っているからとりあえず」で読んでいる人。
ドラゴンブックの新レーベルでは、そういった人を含めた広い対象に「こんな面白いファンタジーがあるんですよ、知ってました?」とPRをするのが目的なのではないかと予測できます。
つまり!
「編集者と著者という限られた関係から生まれたラノベではなく、WEB発の自由な発想と意見から紡がれた新文芸」を雛形とし、『そこから発展したより広い対象へ、独自に発達したWEBファンタジー文化を届けるための新レーベル』――この考えが本コンテストの選考に臨む編集部の基本的な考えであると推測いたしました。
では、今では古典と呼ばれてしまうようなファンタジーは駄目なのかと言うと決してそんな事はなく、募集要項に挙げられている3点はどれか一つでも満たしていれば受賞になる可能性を示唆しています。
即ち、題材は古くとも描き方次第では今の時代にも通じる面白さがあるという事です。
北欧神話やギリシャ神話。アーサー王伝説の騎士道物語とかみなさん大好きでしょう?
ハリーポッターなんかコッテコテの魔法使いのお話ですけど、現代社会にファンタジー世界を上手く反映させてると思いますし、全世界的にヒットしました。
――「俺は純粋なハイファンタジーが書きたいんだ! ゴリゴリの剣と魔法の世界が大っ好きなんだよっ!!」というそこの貴方。
大丈夫です。
決して、ハイファンタジーは時代遅れなんかではありません。
ラノベで考えてみても最早伝説と言える「スレイヤーズ」や「ロードス島戦記」に始まり、今でも読まれて金字塔と言われているハイファンタジー作品はたくさんあります。
一般向けだと「指輪物語」、「グインサーガ」、「ゲド戦記」、「デルトラ・クエスト」や「ダレン・シャン」などが物凄い知名度と人気です。
ちなみに、私は「精霊の守り人」などの守り人シリーズや「サブリエル」、「ライラエル」、「アブホーセン」のガース・ニクス3部作なんかが好きでした。
あと、今冬にはロードス島戦記30周年記念として「完全新作;ロードス島戦記」(https://sneakerbunko.jp/lodoss30th/)の発売も決定しています。
そう。
むしろ、異世界転生・転移によって不遇の時代を過ごしてきた貴方の作品が、今、火を噴くチャンスであるとも言えるのです。
「これが私の――私たちの考える最高に面白い次世代ファンタジーだ!!」
ドラゴンブック編集部にドヤ顔で叩きつけてやりましょう。
これからの時代を切り開く小説は「これ」だと。
そんな想いで生まれた小説は、きっと誰かの心にも響くはずです。
まだ応募開始まで一月半ありますが、『あなたの想う最高のファンタジー』を読める事を一読者として楽しみにしたいと思います。
以上で「ドラゴンブック新世代ファンタジー小説コンテスト」に関する情報収集と分析を終了いたします。
ここまで本エッセイを読んで下さりありがとうございました。
貴方にとって何かプラスになる情報を提供できていたら幸いです。
次回は4/20(金)に開催される「カクヨムユーザーミーティングvol.5」について。
実は私、当選しているのです!
ミーティングレポートを本エッセイの番外編として投稿いたしますので、興味がある人は覗いてみてくださいね。
ではでは。
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