ベル




 それを最初に発見したのは小学生の女の子だった。


 公園の桜の木の枝に人間の拳くらいの大きさの「ベル」が実っていたのだ。


 もちろん最初は人為的に誰かがやった、ただのイタズラだと思われていた。ところが植物学者が専門的な調査を行った結果、それは確かに桜の枝から生えているものだということが判明し、世界中が驚愕した。


 ベルの部分は間違いなく金属で出来ていて機能的にもちゃんと音が鳴るような形状となっていたため、これは高度な科学技術を持つ組織が意図的に植物のDNAを改変したのではないかと見られたが、いったい誰が何の目的でこんなことを行ったのか、専門家たちも首を傾げるばかりだった。


 しかしこれはほんの始まりに過ぎなかった。


 何かのスイッチが入ったかのように世界各地でベルの実る樹が発見されるようになったのである。


 その数は日が経つにつれ加速度的に増えていった。


 昨日までは普通の樹だった木々にある日突然ベルがなる。それは次第に珍しくもない当たり前の出来事になっていった。


 ベルの木々に囲まれる生活に人類が慣れ始めた頃、その現象は次の段階に入った。


 植物ではなく動物の身体にもベル状のものが出来始めたのだ。


 人々は噂した。


 人間にこんなことが出来るわけがない。これは神のいたずらに違いない。


 そして瞬く間に世界中の動物たちにベルが生え始め、やがてそれが普通になっていった。


 ところが不思議なことが一つあった。なぜか動物の一種である人間にはベルが生えなかったのだ。


 人々はまた噂した。


 次こそは人間の番だと。


 しかしその不安、或いは期待は裏切られた。


 次にベルが実り始めたのは無機物だったのである。


 建物、家具家電、日用品、ありとあらゆる人工物にベルが生え始めた。


 人間だけがベル世界の仲間外れとなった。


 神様はいったい人間の何を試しているのか、人々は恐怖に近い感情を抱き始めた。


 そしてある日、それは何の前触れもなく訪れた。


 世界中に生えたベルが一斉に鳴り始めたのだ。


 からーんからーんからーんからーんからーんからーん。


 人間たちは耳を塞いだ。しかし無駄だった。


 世界を包むベルの音は振動となり人間そのものを激しく震わせた。


 遠のく意識の中で人々は確かに聞いた。地の奥底からやってくる大きな音の波を。


 そう、それは巨大な一つのベルとなった地球が奏でる音だった。


 次の日、地球と呼ばれる星があった場所はただの空間になっていた。


 もはや誰も見ることのない静かな月の光が塵となった世界を照らしていた。




               (了)







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