歴史
飽きられた。
だから捨てられたのだ、海に。
彼はロボットだった。
ある子供の友達になるという役目を与えられていたが、その子が青年といえる歳になるとお役御免となったのだ。
彼が捨てられてすぐに嵐が起きた。激しい風と波に押し流されて彼はある島に流れ着いた。
小さな島だった。人間が住んでいない島。それでいて人間たちの生活の残骸がたくさん流れ着く島。
見渡すばかりゴミばかり。彼には話し相手が居なかった。孤独。次第に耐えきれなくなった。
彼はゴミを拾い集め始めた。大量のゴミ。その中から使えそうなものを少しずつ揃えていった。
長い時間が掛かった。そしていま彼の目の前に一体のロボットの姿があった。島に流れ着いた電化製品やパソコンを使って彼が作り上げたものだった。
彼はスイッチを入れた。「彼女」の目に光が宿った。
彼は話し相手を手に入れたのだ。
それからさらに長い時間が流れた。ある日、彼女は突然こんなことを口にした。
この島にやってくる鳥たちには雛という存在がいるのになぜ私たちは二人きりなの?
彼はまた長い時間を掛けてゴミを集め続けた。
さらに長い長い時が過ぎ、いつの間にか、島には二体の大きなロボットと無数の小さなロボットが暮らすようになった。
そしてまた長い長い、時の風が島を通り過ぎていった。
いつしか彼女は動かなくなった。彼も自分の体が限界に近づいていることを悟っていた。
横たわる彼を囲うようにたくさんの子供たちとその伴侶、さらに孫といえる小さなロボットたちが集まっていた。
目の光が次第に弱くなっていく。彼は最期の言葉を吐いた。
我々は増え過ぎた。さあ、島を出ろ。お前たちを待っている広い世界がある。
彼は動かなくなった。
やがて島に大きな石碑が建てられた。
名も無き偉大な父と全ての家族を愛した慈愛深き母の生涯を記した石碑。
今や島に残るのはそれだけだった。鳥だけがそれを見つめていた。
彼と彼女の子供たちがどこに向かったのか。そこでどうなったのか。誰にもわからない。
ただ、この島に確かな歴史があったことを石碑は語り続けるだろう。
(了)
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