ルール
俺は朝からずっと緊張していた。
いよいよ新シーズンが始まる開幕試合の日を迎えたのだ。
俺はルーキーながらオープン戦での活躍が認められて、なんとセカンドとしてスターティングメンバー入り、しかも一番打者として試合に出られることになった。
なんとしても監督、コーチ陣にアピールしてレギュラーの席を獲得してみせるぜ!
おっと、そうだ、その前にちゃんとルールの確認をしておかないと。
ここ数年プロ野球のルールもいろいろと改正されたからな。
さて、まずは表の守備なわけだが、今年からそれぞれのポジションに付く前に観客に向かって一芸を披露しなければならなくなったんだよな。
これまでも球団のマスコットやチアガールたちがパフォーマンスを行ってきたけど、これからは選手もプレー以外のことでもお客様を楽しませなければならないってことになったらしい。
幸い、俺はモノマネが得意だ。怒った時の監督のモノマネでもしておこう。
まあ、ちょっと、後が怖いけど。
えっと、次に守備に関して五年前くらいに重要なルール変更があった。
グラブは両手に嵌めなければならないんだ。
怪我の防止という理由らしいが、これによってプレーはかなり変わったよな。
なにせ送球がかなり難しくなった。以前のようにシュッと投げることは不可能になり、ふわっとしたトスをするしかなくなったからね。
最初はピッチャーもって話だったらしいけど、さすがに無理だということで却下されたんだっけ。
それに盗塁し放題になったもんでランナーを出したらその時点で失点を覚悟しなくちゃいけないから、投手は大変だ。
良かった、俺、セカンドで。
あ、でもエラーした時にマイク渡されて謝罪させられるのはちょっと勘弁してほしいよな。
ま、守備の変更点はこんな感じかな?
じゃあ、攻撃時のルール変更点について見返すか。
まずネクストバッターズサークルでの行動について。
次の打席を待つ打者は自分の出番が来るまでの間、ずっとバットを使った芸を見せなければならなくなった。
これも守備につく時の一芸披露と同じ理由でお客様を楽しませるためだ。
バットを使った芸というものがどういうものかというと、それは個人の判断に任されている。
バットを複数使って器用にジャグリングをする選手もいれば、鉛筆回しの要領で豪快にバットを回してみせる選手もいる。
俺は、というと、そこまで器用ではないので、ぐるぐるバットでもやって笑いを取りに行きたいと思う。
あ、それと、攻撃時にもうひとつ重要な変更点があったんだった。
ボールを打ったランナーは競歩で一塁まで進まなければならないんだ。
そして運良く二塁まで走れそうな時は一塁からスキップで行くことが出来る。
さらに三塁まで行けそうな時は二塁から後ろ向きにバック走で走らなければならない。
なぜこんなルールになったのか。
「見てて面白いから」
そういう理由らしい。
おっと、もう時間だ。そろそろ試合の準備をしなければ。
それにしてもなんでユニフォームの規定が「十二単(じゅうにひとえ)」になったんだろ? これも面白いからか?
うわあ、やっぱ動きにくい……。
(了)
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