予防接種
今日は朝からずっと憂鬱だった。
なぜって、年に一回の予防接種の日なんだ。
僕は注射が嫌いなタイプだ。いや、もちろん大好きなんて人はいないだろうけどね。
正直に言うよ。痛いのが怖いんだ。
でも僕たちの健康を守るためには大事なことだって先生が言っていたから我慢してやらないと。
昨日、先生はこの予防接種がいかに大切なものか一時間くらい掛けて説明してくれた。
日本は数十年前に深刻な問題を抱えていたんだって。
それは他人と上手くコミュニケーションが取れない人間が急激に増加するという現象だった。
原因はひとつじゃなくて様々な要因があったようだけど、とにかく人数が多くて深刻な問題だったみたい。
そこで国を挙げての研究が始まって、あるひとつの発見がなされた。
ある種の化学物質が脳に作用して他人との関係時に生じるストレスを激減させることが出来るらしいんだ。
それから偉い先生たちの議論が始まった。結論が出るまで数年掛かったらしい。
そしてその結果が今日の予防接種というわけだ。
未だに反対意見は根強くて、反対派の人たちからは「よぼっちせっしゅ」なんて揶揄されているらしいけど、まあ、国のルールとして「やる」と決まっている以上は仕方ないよね……。
ああ、そんなことを考えているうちに僕の番が回ってきた。
うわあ、結構大きな注射器だな。針も長くて痛そう。
うう、痛い!
……ん、終わった?
なんだよ、大したことないじゃん♪
ビビって損した気分だなあ。
あ、はい、お世話になりました、先生。
うん、そんなに痛くなかったです。
さすがはロボットのドクターですね。
それにしても今の時代、教師や医師だけじゃなくて、ほとんどの仕事をロボットがやっていて知らない人間と会う機会なんてめったにないのに、こんな予防接種、本当に必要なんだろうか?
でも絶対ミスをしないロボット先生が言うことなんだから間違いないよね。
(了)
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