第21話 巨大犬あらわる
俺たちが四天王の一人、キメラ鳥人ジンギと対峙していると、背後から二匹のコボルトがヌッと現れた。
「てめぇか、この町で色々としてくれたというのは」
「ふてぇ奴だ。やっちまおうぜ」
2メートルを超す長身に筋肉質の体。今まで見たコボルトの中でも格段に大きい。その規格外の二人を見て、ドーベルが目を見開く。
「グレート・デーン! それに、チベタン・マスティフ!」
ジンギはフン、と鼻を鳴らす。
「なんだ、まだ仲間がいたのか。見たところ大きさはかなりのものだが、所詮コボルト頑張ったところで無意味だ」
「それはどうかな!」
「ガルルルルル」
チベタン・マスティフとグレート・デーンがザンギに飛びかかろうとした瞬間、ジンギの体から光がほとばしった。
「な、何だ、あの光は」
「見ろ、シバタ!」
トゥリンが俺の袖を引く。俺はトゥリンの言わんとしていることが分かり、息を飲んだ。
「ああ。どんどんデカくなっていく!」
光に包まれたジンギの体が2m、3m、4mとどんどん大きくなっていく。
巨大化なんてアリか!?
「ふん、小癪な!」
グレート・デーンが全長5mに巨大化したジンギの足にガブリと噛み付いた。
「デカくなった所で鳥は鳥だ!」
チベタン・マスティフもそれに続く。
だが……
「フン、なんだそれは。全然効かぬぞ!」
高笑いするジンギ。
グレート・デーンとチベタン・マスティフは必死でジンギの足にしがみつく。
「今だ! 矢を放て!!」
グレート・デーンの声に合わせて、後からやってきたマスティフ系やブルドッグ系の犬たちが一斉に矢を放つ。
「わ……私も!」
トゥリンもそれに合わせて矢を放った。
「コボルトの強さは牙でも爪でもない! 仲間と協力し、連携することこそコボルトの強さだ!!」
イヌ科の動物は、単体の強さではライオンや虎などのネコ科動物には適わないのだという。
しかし群れを率い集団で狩りをすることで、イヌ科動物たちは厳しい自然界を生き延びてきたのだ。
コボルトたちが必死に放つ矢。
が、ジンギの口元には余裕の笑みが浮かぶ。
「ハリケーン!!」
ジンギが羽をはためかせると、周りに大きな旋風が巻き起こる。
ジンギに届く前に力なく地面に落ちる矢。
「うわああああっ!」
「ぐおっ」
グレート・デーンとチベタン・マスティフはジンギの足から振り落とされると、地面に転がった。
「あんなデカいの……適いっこない」
ドーベルマンが地面に膝をつく。
俺は唇を噛んだ。
「くそっ、
「クン」
小さく鳴くサブローさん。
「サブローさん?」
俺はサブローさんの顔を見た。何だかおかしい。お座りしてるサブローさんの顔が、俺の真横にある。
「サブローさん、なんかデカくなってない?」
「ワウ」
見間違いじゃない。サブローさんの体が、ムクムクと大きく膨れ上がっていく。
「さささサブローさん?」
「サブローさんが……巨大化してるです??」
戸惑うトゥリンとモモ。
「何っ!?」
俺が戸惑っていると、サブローさんはみるみるうちに体高10mはあろうかという巨体に成長した。
「な、なんだと!?」
ジンギが目を見開く。
俺は叫んだ。
「サブローさん、
ドシン、と音がし、サブローさんの右手が空を切る。ジンギは自慢の羽で飛び上がりスレスレのところでサブローさんの巨大な手をかわした。
おしい。もう少しだ。
「おかわり!」
声に反応し、今度は左手を出すサブローさん。が、今度もジンギはスレスレのところでサブローさんの前足をかわす。
「あっ、おしい!」
悔しそうにするトゥリン。
「もう少しなんだけどな。何とかしてあいつの動きを止めないと」
「そうです!」
モモが取り出したのは、小さな袋だ。
「何、それ」
「モスマンの鱗粉です! 何かに役立つと思って取っておいたんです!」
自慢げに胸を貼るモモ。いつの間に!
思い出しただけで鼻がかゆくなってくる。
「待て、そのままだと風の抵抗で上手く飛ばない」
俺は袋に石を入れるときつく袋の口を縛り上げた。
「これで投げてみてくれ」
「分かったです! てーーーーい!!」
モモは、ジンギに向かって、思い切り鱗粉の入った袋を投げつける
少し遠いか?
だが、俺の懸念を袋はグングンと加速しジンギの所へ飛んでいく。
そうか、獣人と人間とじゃ筋力が違うから……!
「みんな、口と鼻を覆うんだ!」
トゥリンが叫びながら弓を構える。俺たちが慌てて鼻と口を覆うと、トゥリンは袋に向かって思い切り矢を放った。
パスン!
袋に矢が命中し、ジンギの目の前で弾ける。
袋の中に入っていた鱗粉が、風に乗って辺りに散らばる。辺りに漂う黄色い鱗粉。
「うわっ、なんだこれ!!」
ジンギが目を痒そうに擦りだす。
作戦成功か!?
だが、鱗粉の直撃を受けたのはジンギだけではなかった。
「ハッハッ……ブックシューーーン!!」
飛び散るサブローさんの唾液と鼻水。
「うわああああっ!」
「ね……ネバネバする!!」
コボルトたちの阿鼻叫喚。
「や、やってしまったです……!」
青くなるモモ。
「いや、あれを見ろ」
俺は顔にかかった鼻水を拭きながら前を指さした。
そこには、ドロドロの鼻水を全身に浴び、まるでゴキブリホイ〇イに捕まったみたいに粘つく地面の上でもがいているジンギの姿があった。
もしかして、今がチャンス!?
俺は声の限り叫んだ。
「サブローさん、
「きゃん」
サブローさんは反射的に目をカイカイしていた手を地面に叩きつけた。
ドシン!!
地響きと共に地面にめり込むジンギ。
サブローさんの足元がキラキラと光る。
サブローさんが足を離すとジンギの体はキラキラと煌めく砂粒となり、風に吹かれて天へと登っていった。
「倒した……のか!?」
俺はキラキラと砂なって消えていくジンギを見ながらホッと息を吐いた。
「ああ! そうだよ!」
「やったです!」
抱きついてくるモモとトゥリン。
そうか……倒したのか!
――が
「クククククククク」
上空に真っ黒な雲が現れる。
そこから響きわたる不気味な声。
「この声は……!」
聞き覚えがある。確か、もう一人の四天王、ゾーラとかいう奴だ。
「フフフ……ジンギがやられたか。だが奴は四天王の中でも最弱。倒したからと言って調子に乗らないことだな!」
「何っ!?」
「逃がすか!」
トゥリンが雲に向けて矢を放つ。だが雲にまっすぐ向かったはずの矢は虚しく空を切る。
「貴様らがそうしている間にも、魔王様は着実に力を取り戻しつつある。魔王様が完全に蘇った時、その日からこの世界は新たな闇の時代を迎えるのだ……フハハハハ!!」
薄雲が晴れ、空は徐々に元の青さを取り戻していく。
「四天王……そして」
そして、魔王。
小さく口の中で呟く。
魔王……一体どんな奴なんだ?
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◇柴田のわんわんメモ🐾
◼グレート・デーン
世界一大きな犬として知られ、立ち上がると身長170cm位になるが、性格は温和で優しい。寿命が短く5~7年程しか生きないと言われている。
◼チベタン・マスティフ
・ライオンのような首周りの毛が特徴のチベット原産のマスティフ犬。チンギス・ハーンが、3万匹のチベタンマスティフ軍団を連れて遠征した話も有名。中国では富の象徴ともされ過去には2億の値がついたこともあった。
◼大きな犬・小さな犬
・世界で最も体高の大きな犬はグレート・デーンのゼウスくんという犬で、肩から足先までの高さが111.8センチメートルという記録。2本足で立たせると223cmになったとか。
・体重の最も重い犬はイングリッシュ・マスティフ(マスティフ)のゾルバくんで155.58kg
・最も小さい犬は、チワワのミラクルミリーちゃんで体高9.65cmでジュースの缶より小さい。体重は4g。
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