第20話 四天王の封印

「おい、パグ作、パグ作!!」


 俺は道端で大きなイビキをかきながら眠っているパグ作を叩き起した。


「んあ? もう朝か?」


「違う。魔王四天王の封印が解けたっていう噂があるけど、何か聞かなかったか?」


「いや、何も。ずっと寝てたし」


 困り顔でお腹をボリボリかくパグ作。

 駄目だこりゃと途方に暮れていると、村の入口から真っ黒なドーベルマン型のコボルトが走ってきた。


「四天王の封印が解けたぞー!」


 ラブさんはドーベルマンに声をかける。


「ドーベルさん、封印が解けたって本当ですか?」


 ドーベルマンはキリリとした顔で頷いた。


「ああ。魔王軍四天王のうちの一人を封印した岩が先程突然割れたらしい。中からは恐ろしい魔物が出てきたって話だ」


「魔王四天王……」


 俺が呟くと、トゥリンが困惑した表情で俺の腕を引っ張る。


「何が起きているんだ?」


「どうやら、魔王四天王の一人の封印が解かれたらしい」


「えっ」


「とにかく避難しましょう」


 ラブさんが再び寝ようとしたパグ作を叩き起こす。


「でもなんで急に封印が解けたんです?」


 不思議そうにするモモ。


「分からない。もしかして俺たちの……いや、俺のせいかも」


 復活した勇者に対抗するために、封印された四天王の封印をあのゾーラとかいう奴が解いたのだとしたら……。


 この混乱は俺のせい?


 俺はギュッと拳を握りしめると、ドーベルに声をかけた。


「悪いけど俺たちを四天王の封印が解けたっていう場所まで連れていってくれないかな」


「えっ?」


 ビックリした顔をするラブさんとドーベル。


「もしかすると、封印が解けたのは俺のせいかも知れない。だとしたら、俺が四天王を倒さなきゃ」


「あなたは」


 ドーベルは、俺の顔とじっと見つめると、サブローさんに視線を移した。キラリと光るサブローさんの黒い瞳。


 ゴクリと唾を飲み、頷くドーベル。


「分かりました。案内します。パグ作は、ブル村長に連絡を」


「わ、分かった」


 急に話を振られてビクリとするパグ作。だが事態が事態なので、パグ作にしては機敏な動作でブル村長の元へと走る。


「みなさん、ついてきてください!」


 俺たちも、封印の岩の元へと急いだ。



◇◆◇



「ここが四天王の一人が封印されていたという場所か」


 封印の岩があった山の麓には、もう既にマスティフ系の屈強なコボルトたちが四天王を倒そうと集まっていた。


「様子はどうです?」


 ラブさんが、知り合いと思しき大きなコボルトに声をかける。


「ああ。どうやら四天王は目覚めたばかりで本調子じゃないのか、今のところ岩の上でじっとしているらしく、特に村を襲ってくる様子はない」


「そうなんですか」


「上の奴らの話によると、今の隙に奇襲をかけた方がいいんじゃないかって」


「なるほど」


「ところでそいつらは?」


「魔王退治に向かう冒険者だ」

 

 「ふぅん」


 すると、一匹の大きな土佐犬に似たコボルトが因縁をつけてきた。


「冒険者ァ? 何でェ、ヘンテコなパーティーだな」


 俺たちの顔を一人一人眺める土佐犬。と、その動きがサブローさんの前に来た瞬間ピタリと止まった。


 後ずさりし、焦りの表情を浮かべるピットブルを、サブローさんはつぶらな瞳でじっと見ている。


 周りに沢山コボルトがいて緊張しているようにも見えるが、とにかく無表情で微動だにしない。


 それが大物のように見えたのだろうか、土佐犬はゴクリと喉を鳴らした。


「な、何だこいつは……良くわかんねーけど、凄まじい力を感じる!!」


「そのお方はかの犬神様にそっくりでしょう?」


 ラブさんが言うと、土佐犬は目を見開いた。


「なんと、あの犬神様がついているなら百人力だ」


 そうこうしているうちにマスティフの一団が動き出す。


「どうやら本格的に討伐に乗り出すみたいだな。あんたたち、一緒に来てくれ!」


「ああ」


 マスティフたちについて山道を登っていく。と、何やら黒っぽい影が上空に現れた。


「……何だ?」


「ヤツだ!」


 ドーベルとラブさんの顔が険しくなる。


「あったぞ、あそこだ!」


 山道の階段を上がると、頂上に巨大な岩が現れた。



「ご主人あれ」

「亀裂が!」


 モモとトゥリンが指さすその岩は、中央に巨大な割れ目が入っている。


「あの岩は四天王の一人『キメラ鳥人ジンギ』を封じていたんだが、つい最近見張りの者が見に行ったら、亀裂が入っていたんだ。それが日に日に大きくなり、今日になって中から黒い霧が出てきて」


「ガフッ!」


 と、階段の上から、大きなマスティフがボヨンボヨンと転げ落ちてきた。


「どうした!?」


 たるんだ皮膚が分厚いためか、さほど怪我は負ってなさそうだが、顔色は真っ青だ。


「ヤ、ヤツだ」


 フゴフゴと話すマスティフ。


「ヤツ?」

 

「四天王の封印が解けたんだ!」


 すると俺たちの後からヌッと大きいコボルトがやってきた。


「なんだ情けない」


 黒い筋肉質のボディにお相撲さんのまわしを付けたその土佐犬コボルトは、他の土佐犬コボルトと比べても一回り大きい。


「あなたは……横綱!?」

「コボルト相撲の覇者、横綱土佐乃浦さんだ!」


 ドーベルが叫ぶ。

 コボルト相撲なんてものがあるのか。

 横綱……ってことは強いのか?


「四天王が蘇っただ? あんな鳥っころ、俺が一発で片付けてやるぜ」


 意気揚々と階段の上へと向かっていく横綱。


 ――が。



「キャイーーン!!」



 先程意気揚々と駆けて行った横綱が階段の上から転げ落ちてくる。


「横綱ーーっ!!」


 階段の下に転げ落ち泡を吹く横綱。


「や……やめておけ……あいつは化け物だ!」


 ビクビクしながら言う横綱に俺たちはつばを飲んだ。


「い、一体どんな化物が待ち受けているってんだ!」


 心臓がやかましく鳴るのを抑えながら階段を上がる。


 ギリリ、とトゥリンが弓矢を構えると、マスティフたちも一斉に弓矢や剣を構え出したドーベルは腰に刺していた剣を引き抜く。俺もウ〇チシャベルを袋から取り出した。


 やがて頂上にたどり着くと、割れた岩の上に一匹のモンスターが舞い降りた。


 なびく金の長髪。顔は人間に似ている。背中には翼が生え、牛のような角にカンガルーのように長い尻尾。手足はまるで馬のようだ。


「お前が四天王のジンギか?」


「いかにも。お前が勇者の生まれ変わりだな」


 真っ赤な口でニヤリと笑うジンギ。真っ赤な舌と鋭い牙が見えた。


「村のみんなの敵――!」


 頭に血の上ったマスティフの一人がジンギの足にかぶりつく。


 が、ジンギはそれをフンと鼻で笑うと馬の脚で蹴り上げた。


「――キャン!」


 マスティフの体が先程の横綱と同じように宙を舞い、階段を転げ落ちる。


「はあ。犬っころの相手はもう飽きた。そろそろ骨のあるやつと戦いたいたいよ」


 ニヤニヤと笑う四天王の一人、ジンギと目が合う。



「――なあ、勇者?」


 俺は金のウ〇チシャベルをギュッと握りしめた。




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◇柴田のわんわんメモ🐾


◼ドーベルマン


・茶や黒の短毛で引き締まった体つきの大型犬。聡明で訓令しやすいことから軍用犬や警察犬、警備犬として活躍。


◼マスティフ


・主に番犬・闘犬として使われている犬種群。さまざまな国で改良されているが、どれも大型で筋骨隆々、力が強い。


◼土佐犬(土佐闘犬)


・四国犬にマスティフやグレート・デーンなどの洋犬を掛け合わせてできた闘犬で、体重80~90kgにもなる筋肉質の超大型犬。相撲の化粧まわしをつけた姿が人気だが、ヨーロッパでは『危険犬種』として飼育禁止の国もある

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