第6話 エルフの市場

「ここがエルフの市場だ」


 翌朝、俺はトゥリンに連れられ村の市場に来ていた。


 市場と言っても、村の真ん中に二、三件商店があるだけなんだけど、ここでは市場と呼ぶらしい。


「こっちが食べ物で、こっちが雑貨。それでこっちが武器屋。武器とか防具とか魔法関連のお店だ」


「なるほど」


「私はカーバンクルを売ってくるからシバタは店の中を見てていいぞ」


「分かった」


 俺はサブローさんを抱っこしたまま雑貨の店を見て回った。


 首輪は頑丈なものがいい。

 出来れば、革か何かでできていればベストなのだが……店内を見回すも、それらしき物はない。


「やったぞシバタ、金貨1枚だって。さすが幻の獣だ。これ1枚で一ヶ月は暮らせるぞ!」


 トゥリンが弾けるような笑顔で俺に金貨を渡してくる。


「ありがとう」


 ――金貨1枚で一ヶ月暮らせる?


 俺は自分のポケットに金貨3枚が入っていたことを思い出した。


 あの女神、ああ見えて意外と気前よかったんだな。それとも金銭感覚が無いだけだろうか。


「それで首輪になりそうなものはあったか?」


 トゥリンがサブローさんの頭を撫でる。


「いや、それらしいのは無いな」


「そうなのか。市場ならあると思ったんだが。どれ、私も探してみよう」


 もう一度二人で店の中を探す。

 中には鍋や皿などの日用品やビーズで出来たアクセサリー、服などが雑多に並べられてある。


「シバタ、サブローさんの首輪もいいけど、その服もどうにかした方がいいぞ」


 俺は自分の服装を見た。


 犬の散歩中に死んだので、上下アディ〇スの黒いジャージのままだ。


 確かにこの格好は異世界では目立つかもしれない。


 でも動きやすいし汚れても平気だから便利なんだよな。


 俺はヘッヘヘッヘと舌を出してるサブローさんを見た。


「いや、先にサブローさんの首輪だ。俺の服は金が余ったら買うことにする」


「フーン」


 俺たちは雑貨の店を出た。


「とりあえず隣の店も見てみよう」

 

 二人で武器屋に入る。


 中には大小様々な弓やナイフ、魔法の杖が飾られている。


「む、こっちに革製品があるな」


 角のコーナーでは、皮で出来た盾や鎧、小手がズラリと棚に並んでいる。


「何かお探しですか?」


 店主の眼鏡をかけた女エルフがやってきた。


 俺が振り向くと、店主はサブローさんを見てビクッとする。


「この犬……いや獣に付ける首輪を探している」


「はあ、左様でございましたか。では、この鎖はどうでしょうか?」


「鎖?」


「ええ。モンスターや使い魔を使役するための鎖です」


 店主が鎖を取り出す。確かに縄より鎖の方が切れにくいかもしれないが、見た目がなんだか重々しい。


「見ててくださいね? ほら、もし使い魔がこちらの言うことを聞かない時は、ここを回せば首の鎖が締まり、中からトゲが出て、使い魔を痛めつけて言うことを」


「却下だ」


 そんな痛そうなのサブローさんに付けられるか!


「シバタ、これはどうだ?」


 トゥリンが棚の上に飾ってある赤い革のベルトを指さす。


 人間がつけるベルトなのて少し長いが、二重に巻くか切ればいいし、何か変な赤い宝石もついてるけど、それも取り外しできそうだ。


 太さも頑丈さも申し分なさそうだ。何より色が上品な赤で気に入った。


「よし、それを買おう」


 俺が言うと、店主はオロオロと慌てだした。


「しかし、それは人間用ですし、レッドドラゴンの皮を使った高級品で、獣には勿体無いですよ! 金貨2枚もしますし……」


 金貨2枚か。


 確か金貨1枚で一ヶ月は暮らせるとか言ってたな。


「よし、買おう!」


 俺は即答すると、ポケットから金貨を2枚出した。


「お前、金持ちだったんだな」


 トゥリンが目を丸くする。


「手持ちはさっきのカーバンクルの分も合わせて金貨4枚だが、サブローさんのためだ、仕方がない」


 俺が言うと、トゥリンもうなずく。


「そうか」


「えっ……えーっ!? 本当にいいんですか!?」


 店主は未だに戸惑っている。俺は強引に店主の手に金貨2枚を握らせた。


「しつこいな。いいと言っている」


「似合うぞー、サブローさん!」


「ワン」


 トゥリンが意気揚々とサブローさんの首にベルトを巻き付ける。


「じゃあな! ありがとう」


 店員さんに手を振り、俺たちは武器屋を後にした。



◇◆◇



「おかえり、二人とも」


 離れに戻ると、ギルンが待ち構えていた。


「村中ですごい噂になってるぞ。幻の黄金獣を飼い慣らした謎の男が村に来ていると」


「そんな大げさな」


 なんでまたそんな話になってるんだ? たかが柴犬だぞ。


 ふと誰かに見られてる気がして窓の外を見ると、窓からエルフの子供が二人こちらを覗いている。


 エルフの子供たちは俺と目が合うと「幻の黄金獣がいたぞ!」「思ったより間抜けな顔!」とか叫びながら逃げていった。失礼な!


 俺が窓から外を見ていると、丁度ギルンが歩いてきた。


「やあ、買い物に行ってきたんだって? 体調はもういいのか?」


「ああ。もうすっかり」


 沢山の果物を抱えて部屋に入ってくるギルン。トゥリンが胸を張りドヤ顔で答える。


「サブローさんの首輪を買ったんだ」


「へぇ」


 ギルンはサブローさんの首輪をマジマジと見ると、さっと顔色を変えた。


「おい、これもしかしてレッドドラゴンの革じゃないか?」


「知らんけど高かった」


「おいおい。勿体無いなー」


「そうなのか?」


 俺はサブローさんの頭を撫でた。

 サブローさんは座布団の上で背を伸ばし、誇らしげにお座りしている。


 よく分からないけど凄いのだろうか。


 俺は赤い首輪に縄を通した。


「よし、首輪もついたし、このまま外に出てみよう。サブローさんもそろそろオシッコしたいはずだ」


 縄に繋いだサブローさんを連れて外に出る。


 柴犬というのは綺麗好きで室内や自分のねぐらの近くで用を足すのを嫌う。


 そのため室内で粗相をすることは滅多に無くトイレトレーニングの楽な犬種ではあるのだが、いちいち外に連れ出さないといけないので面倒ではある。


 外に出て茂みに向かうと、サブローさんは近くに生えていた木の匂いを真剣な顔でフンフン嗅ぎ始めた。


 サッと足を上げるサブローさん。慣れない場所で我慢していたのか、かなりの量をジョバジョバと出す。


「長いな」

 

 やっとオシッコが終わったかと思うと、芝生の上でサブローさんがいきなりしゃがみこんだ。


「んっ!? サブローさんまさか」


 ヤバい、ウ〇チだ!


「トゥリン!」


「なんだ?」


 建物の影からヒョコリと顔を出すトゥリン。


「余ってるシャベルとか袋ってあるか? 無ければ買ってきて欲しいんだが」


「分かった」


 足をプルプルさせ、いきみだすサブローさん。


 だがお尻からウ〇チを出そうとしたその瞬間、サブローさんは困った顔をしてこちらをチラリと見た。


「ん?」


 何か視線を感じ振り返ると、そこには野次馬と化したエルフたちが数人、サブローさんがウ〇チをする様子を覗き見ている。


 やはり見られていると出しにくいのだろうか。サブローさんは、いきんだその姿のまま固まった。


「シバタ、うちには使ってないシャベルが無かったから買ってきたぞ」


 トゥリンが戻ってくる。


「わざわざすまない」


 トゥリンから袋を受け取ると、やけにずっしりと思い。不思議に思いシャベルを取り出すと、そこには黄金のシャベルが入っていた。


「トゥリン、このシャベル金ピカなんだが」


「ああ。一番高いのを買ってきた。金貨1枚もしたぞ。あとこれ、麻袋」


 自信満々なトゥリン。俺は頭を抱えた。いやいや、ただ犬のウ〇チを処理したいだけなんだが。


「あ、ありがとう」


 とりあえずトゥリンに金貨1枚を渡す。



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柴田犬司しばたけんじ 18歳


職業:勇者

所持金:金貨1枚

通常スキル:自動翻訳、血統書開示ステータス・オープン

特殊スキル:なし

装備:柴犬

持ち物:散歩綱、レッドドラゴンの首輪 new、黄金のウ〇チシャベル new、麻のウ〇チ袋 new



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「見ろ、出したぞ!」


 ギャラリーの声にサブローさんの方を見ると、丁度健康そうな形の良いウ〇チをコロンと出したところだった。


 スッキリとした顔のサブローさん。


 すかさず金のシャベルでサブローさんのウ〇チを拾い上げると、一人のエルフが声をかけてきた。


「あの、それ……要らないんだったら下さいませんか?」

 

「えっ? って、サブローさんのウ〇チ?」


「はい、そうです! 世にも珍しい黄金の獣の糞ということで、何かご利益がありそうなので」


 それを見た他のエルフたちもサブローさんのウ〇チに群がり始める。


「ずるいぞ! 俺にもお獣様のおウ〇チをお分けください!」

「私にも! その聖なる御糞を下さい!!」



 どうやら、なぜかサブローさんのウ〇チが大人気になってしまったようだ。



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◇柴田のわんわんメモ🐾


◼リードと首輪・胴輪(ハーネス)


・首輪やハーネスはきつく締めすぎず指が1本入るくらいの隙間を空ける。リードは1.6~2mくらいのものが良い。散歩の際はそれを手にぐるぐる巻き付けて短くして持つ。


◼糞の後始末


・犬を散歩させる時は必ずシャベルとビニール袋を持ち糞を持ち帰ろう。持ち帰った糞はトイレに流すかゴミに出す(このルールは自治体によって違うのでよく確認しよう)

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