公園監視員のおじさんがやってくる

ちびまるフォイ

2度目のクビは突然に

仕事をリストラされていくあてもなく公園に流れ着いていた。


「はぁ……これからどうしよう……」


キャイキャイ騒ぐ子供を楽しそうだなぁと眺めていると

保護者が俺の視線に気づいたのか何かひそひそ話している。


公園という公共スペースですら、俺の居場所はなくなるのか。


すると、ひとりの男が歩いてきた。


「ちょっといいですか?」


「ああ、はいはい……。わかりましたよ、どうせ俺は不審者。

 公園であっても自由な時間を過ごしちゃいけないんですね」


「いえ、ちがいますよ。

 あなた公園の監視員をやってみませんか?」


「か、監視員?」


「もちろん給料も出しますよ。いかがですか?」

「やります!!」


即答だった。

制服と帽子を借りると、滑り台ほどもある小高い監視イスへと腰かける。


学生時代にやったプール監視員のバイトを思い出す。


「プールと違ってそんなに人もいないから楽だなぁ」


と、最初こそ思っていたが現実はもっと忙しかった。


公園にやってくる不審者はいないか。

遊具で危ないことをしている子はいないか。

禁止されているボール遊びはしていないか。

犬の糞はちゃんと持って帰っているか。


人の出入りこそプールよりは劣るが

公園で起きるトラブルの監視は多岐にわたりすぎて大忙し。


とはいえ、リストラされた身としてはこの忙しさがむしろ心地いい。


「必要とされるっていいもんだなぁ」


しみじみ思いながら公衆トイレの掃除をはじめていた。

そのとき、外からどすんと音がした後、子供の泣き声が聞こえた。


背中に氷を入れられたような寒気がして慌てて外に出ると

遊具から落ちたらしい子供がわんわん泣いていた。


「君、大丈夫かい!?」


慌ててかけよると、けがはスリ傷程度でたいしたものではなかった。

監視員に支給されている救急箱で処置をして事なきを得た。


……はずだった。


翌日、ふちが尖ったメガネをかけたマダムが公園にずんずんやってきた。


「あなたがここの公園の監視員ざますか?」


「え、ええ……なにか?」


「昨日、私のぼっちゃんがケガしたのざーます。

 あなた、そこで何をしていたのざます?

 ケガする前に注意するのがあなたの仕事でなくって?」


「すみません……」


「ぼっちゃんがけがをするこんな危険な遊具は撤去するざます。

 これ以上、不幸な子供を増やさないためにも! すぐに!!」


「え、ええ!?」


なんらか大きな力が動いたのか、公園の遊具は軒並み撤去された。

寒々とした公園にはテーブルだけが取り残されたように残っていて、

たまにカードやゲームをやる子供がやってくるだけとなった。


「ヒマだな……」


遊具が撤去され、公園そのものの魅力がなくなると

子供も大人もさびれた公園に足を運ばなくなって仕事はヒマになった。


監視員の上司がこの空き地同然の場所にやってきた。


「誰もいないみたいだね」


「ええ……まあ……」


「子供がいない場所に監視員を立てても金の無駄だ。

 このぶんじゃ、この公園の監視員の仕事も終わりかな」


「それじゃクビってことですか!?」


「しょうがないだろう」


せっかくありついた仕事だというのに、もう終わりだなんて。

この仕事のやりがいも感じ始めた時期にむごすぎる。


なんとか仕事を続けなくては。


「監視員としての仕事があればいいんですよね!?」


俺はもうただ見ているだけの監視員は辞めた。



翌日から、俺は自作の紙芝居をもって公園にやってきた。


「めっちゃこれ勇気いるな……」


慣れないことをするものだから、脇汗が致死量ほど出てくる。

下校時間に合わせて、誰に読むでもなく、それでいて聞こえるように紙芝居を読んだ。


まあ、誰も見てやしないけど。


それでも根気強く毎日毎日、同じ時間に紙芝居を読んでいると

子供がひとり、またひとりと増えていった。


「おじさんの紙芝居、毎回人が死ぬから面白いね!!」


「おじさんの創作だからね。人が死ななきゃ物語じゃないよ」


ぬるい童話では目の肥えたネット世代にウケないと思い、

思い切ったかじ取りをしてみて正解だった。


「おじさん、明日はどんな紙芝居を読んでくれるの?」


「明日はもう読まないよ」


「えっ、ネタギレ!?」


「明日また公園に来るといい」


次の日の公園への来場者数は過去最大となった。

紙芝居かと期待していた子供たちは「リアル脱出ゲーム」と聞いて、

ますますテンションが上がっていた。


昨日こしらえた謎解きゲームを園内で楽しんだ子供たちは

すっかり公園リピーターとして定着した。


「おじさん、明日は何をするの!?」


「明日は、人狼ゲームでもしてみようか」


子供はますます公園に集まり始めた。

危険な遊びもしないので監視員としても楽。


そして、ついにその日は訪れた。



「君は今日限りで、監視員をやめてもらう」



上司の宣告に「ついに来たか」と納得してしまう自分がいた。


「まあ……そうですよね、わかります。

 保護者から苦情でも来たんでしょう。

 公園で変なことを教えられているとかなんとかって……」


「会社緒判断だ。

 君の仕事への貢献度は認めるが監視員ではない」


「いままでお世話になりました……」


もうあの公園には気まずくなっていく気になれない。

これからどうしようか。ハローワークに行って仕事を探すか。

いや、しかし今この経歴を持って雇ってくれるところなど……。


「待ちたまえ」


「まだなにか? 監視員はクビなんでしょう?」


「その通りだ」

「だったらもういいじゃないですか」


「いいや、そうはいかない」


監視員の上司は本社からの辞令を見せた。



「君の功績が認められて、これから君は『人間遊具』として認可された。

 君さえよければ、これから各地の公園で遊具として行ってみないか?」


「いいんですか!?」


「これからは監視員ではなく、人間遊具として頑張ってくれたまえ」



その後、また新しい公園に配属されると

また以前のように公園のベンチに腰かけて子供たちを眺めていた。


人間遊具のスイッチを入れて立ち上がる。


「さぁ! 今日は何をして遊ぼうか!」

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