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「それを言うならレモン、では?」

「あーっあーっそうだっレモンだ! グレフルじゃなかったぁ! 間違えた!」

 あっはっはぁっ! と笑うと胸を押さえて肩を揺らした。飲んでいるとねぇ、しょうもないことで大爆笑したりするよね。分かる分かる。

「でもさぁっ、あれってなんでレモンなんだろうね」

「ファーストキスのこと?」

「そうそう、なんでか知ってる?」

「知らない」

 俺も知らないなぁ。そう言えばなんでレモンなんだろ?

「マスターはさ」

 レモンの事なら分からないよ?

「ファーストキス、どんな味がした?」

「・・・え?」

「だから、ファーストキスってどんな味がした? レモン?」

「いや、レモンではなかった、ような?」

「ような?」

「・・・ふふ、これ以上は有料です。それではキセさんはどうしたか? ファーストキス、レモンの味がしました?」

 キセさんにオウム返しで訊いてみると、ふ、と小さく笑って簡単に答えた。

「海の味がした」

「海、ですか?」

「そ。比喩とかじゃなくてしょっぱい海の味」

 ・・・ファーストキスがイルカ、とか、そう言う?

「違う違う、この子がそんなファンタジーなわけないじゃん」

 や、そこまでは言ってないけど。

「そんなことない、ある意味ファンタジーよ。だって海で溺れて人工呼吸されたのが初めてだったんだから」

「え、そんなことが!?」

 だから海の味ってこと?

「小学生の頃なんだけど、海で溺れちゃってライフセイバーのお兄さんが心停止した私を助けてくれたんだよね。今は人工呼吸はせずに心臓マッサージだけで充分なんだけど、その頃はセットでしていたらさー。だから、私のファーストキスはそのお兄さんってわけ」

「確かにそれはある意味ファンタジーですね」

「そうでしょ? それに私が看護師になったのもお兄さんに憧れてだし、こうやってこの仕事に就いていなかったらアオちゃんとも出会えなかったわけだし、めっちゃファンタジーじゃん。あの時助けられて本当に良かったわぁ」

「ちょ、くっつくな、重い」

「あおちゃーん」

「キセこらっ」

 今この時があるのは、キセさんの努力があったからには違いないけれど、そのキスが無ければ違う道に進んでいたかもしれないと思うと、俺にはそんな素敵なキスは一度も無かったなぁ、なんて。ちょっと思ってしまったりして。キスひとつで変われるなんて、何かのドラマみたいに素敵だ。

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