Q.ファーストキスの味を一言で

カゲトモ

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「んー、おいしぃ」

 そう言ってグイッと傾けていたロンググラスを戻したのは、恍惚のため息を零したキセさんだった。それを聞いて隣に座っているアオキさんは呆れたようなため息を吐いた。

「おっさんね、アンタ」

「しっつれいね、まだまだ現役のピチピチよ!」

「ピチピチとか使っている時点でもう時代遅れじゃないの?」

「あー、いーけないだー。そんなこと言ったらマスターが怒るぞー」

 えぇぇ、まさかの巻き込まれ事故。

「マスターって、わたし等より年下でしょうが。第一マスターももうピチピチなんて使わないよね?」

「ふふふ」

 んーどうだったかなぁ? つい口を吐いて出てきそうな気もするけれどなぁ。憶えてないし笑って流しておこう。

「ほらー、アンタのせいでマスターが困ってるじゃん」

「えーっごめん、ごめんって。つい、このお酒が美味しくってー。マスターの作る、ソル・クバーノって私が飲んだ中で一番美味しいから」

「それはそれはありがとうございます」

「グレフルの感じとかミントの感じとか超私好みなんだもん」

 ソル・クバーノはホワイトラム、グレープフルーツジュース、トニックウォーターで作る爽やかなカクテル。俺の店ではグレープフルーツを絞って使っていて、ミントも装飾ではなく落として使う。装飾にはカットしたグレープフルーツを。途中で絞ってもらっても食べてもらってもいい。

 フルーティでいて爽やか、それでいて大人の苦さのあるこのカクテルはキセさんのお気に入りらしい。来店の度に必ず一杯はオーダーしてくれるほどだ。

「なんでこのカクテルが好きなのかは良く分かんないんだけど、本当何となく好きなんだよね」

 なんとなく分かる。確固とした理由はないけど何となく味とか雰囲気とが好きだったりするんだよねぇ。

「ほら、ファーストキスはこういう味って言うし」

 ん?

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