第34篇ミスター・アイソレーション

とんでもない朝早くに


新聞が10紙届く


どれも興味のない記事ばかり


行間を辿っていくと


懐かしい何かが湧きあがる


庭の縁側で同じように……


足をぶらぶら……


失っていた記憶が蘇る


思い出は美しいままに……


その方がいい……



ミスター・アイソレーションは


回想の海辺で


手招きをしてる


もう俺は夢の中にも行けないし……


夢も見れなくなっちゃったよあ……


黄色い陽の中白い帽子の君は


自転車を押しながら


海辺の道を歩く


ミスター・アイソレーションは


映写機を巻き戻すように


黄色い陽を東に戻す


また手招きをしてる


希望坂の丘の上の樹に


青い影が滲んできてる


今度はひたすら何かから逃げてる


夢の中なのか歩幅はストップモーション


何から逃げてるかなんてどうでもいい


ひたすら逃亡の日々なんだから……


迷路のような明日への道……


生きてる事自体が奇跡だとすれば


欲望のタガは外れる


ミスター・アイソレーションはおうむ返しに


俺の思ってる事を繰り返す


窓から出ると


まだ次のセットが出来てないと言い


俺をマンホールに放り込む


汗まみれで目覚めると


ベッドの上で隣りには


白い帽子の君が寝てる


俺は猛然と窓から飛び出す


海辺が広がってるが


十戒のように波間が割れてる


割れた道を歩き出す


雲のパズルが一つ外れ


ミスター・アイソレーションの覗く目が見える


俺は鼻で笑う


希望坂の丘の上の樹に


青い影がくすんでる


喫茶店はいつも安らぎの象徴だった


扉を開けば、全ての条件を満たす喫茶店


セットにしても出来過ぎだ


新聞の日付は1991年


それは気にしなかったけど


運ばれてきたコーヒーの旨さには絶句だ


ミックスサンドを食べ


トイレの鏡に


ミスター・アイソレーションの疲れた顔を見る


もっと気合を入れろと頬を叩く


喫茶店を出て


夏の日差しを思いきり浴びる


周りの風景のメッキが剥がれて


新聞が10紙届いた朝に戻る


新聞販売店に配り間違いの電話を入れ


ふとキャンバスの希望坂の丘の上の樹を見ると


青いアクリル塗料が滲んでる


カーテンを開けてもいつもの公園が見えるだけ


海辺にいた俺のかけらは何を求めていたのか……


2016(H28)7/26(火)







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