幕間と余談(時系列「王都へ」前タイミングのものを小話より移動)

些事雑談 古風ゆかしい行為2/新春スペシャル・学院都市エルビラぶらっと食べ歩き▽魔術師グルメ(小話より移動)

(時系列『王都へ』前のものを小話から移動しました。内容に変更はありません)

 ◆200話コールアンドレスポンス行為の際に頂いたリクエストを元にしております。ありがとうございます!



 ◆  ◆  ◆


「そういえば第三塔さん、ご飯はどうしてらっしゃるんでしょう」


 数回目の検診の日、スサーナはソファに座ったまま首を傾げた。


 第三塔はなにも検診だけをしに学院のあるエルビラにやってくるわけではない。

 主の目的はなにやら学院の地下にあるという遺跡で、そちらで一日掛けた調査をするついでにスサーナの体調を診てくれる。つまり、さっと行き来しているわけではなく、それなりに時間の掛かる一日仕事だ。

 その割に、彼が何かを口にしているということがない。


 この隠れ家で第三塔さんがなにか食べているのをスサーナはまだ見たことがなく、一応付いている台所も使った形跡はないようだ。

 ――魔術師に対してのご飯のノウハウが出来たから、料理長さんがご飯を出してくれてる……っていう可能性もあるんですけど、それならあの人大興奮しそうな気もしますし。

 そんなわけで、学院でご飯が出る、というのも今はないでもないぐらいには可能性はあるのだが、それにしてはそんな噂――料理長さんがフィーバーすると料理人さん達が話してくれるのだ――を耳にしない。


「どう、とは?」

「ええと、ご飯、こちらでお食べになってるのを見ませんし、学院で出てるとも思えませんけど。どちらで食べてらっしゃるんですか?」


 薬を吟味しつつ聞き返してきた第三塔にスサーナは突っ込んで問いかけた。

 第三塔は予想外のことを聞かれた、と言うふうに小さく眉を寄せる。


「移動中に携帯食を齧る程度だが」


 スサーナはその回答にええーっと非難の声を上げた。


「私にはしっかり食べろと仰る癖に!」

「君と一緒にされても困る。必要十分量の栄養は摂れる仕様のものだからね」

「むう。調査会の時と違ってご自由になる時間はそこそこありそうなんですから、あったかいものとかお食べになればいいのに」



 魔術師の携帯食は薄く焼いた堅パンにミルクケーキめいた甘い薄板のセット(状況に余裕があればこれに飲み込みやすくするためのスープが足される)で構成されるものらしい。齧ると必須栄養素は取れるというのだが、見た目としてはそこそこわびしいし、続くと飽きるらしい、ということは先日当人に聞いたばかりだ。


 調査会のときはほぼずっと何かの解析らしいことを行っていたようだったし、他の魔術師とも緊密に連絡をとっていたようで、まとまった食事の時間を取れる、ということではない様子だったが、今は終わったあとで検診をして、それから数時間眠る、という時間の融通がきくのだから街でなにか食べたりしてもいいのじゃないかとスサーナは思うのだ。


「他の方はしないと仰ってましたけど、常民のフリとかして食べ物屋に行かれたりされないんですか?」

「流石にその程度のことのために外に出ようとは思わない」

「他のご用事の際についでにとか……」


 前回持ち込んだ敷布団だが、どうも床に敷くという文化圏ではない第三塔さんは床にそのままでろんと布団が広がっているのが気になったらしく、しぶしぶ台を贖ったらしい。ついでにソファが増えていたので今回はそちらに安楽に座らせてもらっている。

 ともあれ、スサーナの感覚では喫緊とは言いかねる用件で結局買い物には出たようなのだから、ご飯のためについでに出てもバチは当たらないと思うのだが。


「まあ……それに、あまり食事に労力を割く気がしないのもある。本土の食べ物には慣れないからね」

「……あの宴席のご飯は特殊例ですよ。ものを選べばそこまで違和感がないものもありますし、試してご覧になればよろしいのに」


 自分のことはすっかり棚に上げておくスサーナだ。スサーナ自身、こちらに来てすぐは食べ物の癖が全体的に口に合わず、夜露をなめる虫みたいな食生活をしていたものだが、料理長さんが島風をアレンジした料理に凝りだしたのと、癖の少ない食材で自作するという対策を編み出したので最近は比較的マシだ。


「とは言うが、指標が無い以上、選ぶというのも……」

「まあ……月に二度いらっしゃるだけですと、試行錯誤はできませんもんね……。」


 当然の反論をされ、スサーナはちょっと納得してううむと頷いた。長時間移動してさらに気を張る仕事をしたあとに外れの店に次々当たるのは気力を大量に消費しそうだとは思う。

 飛び込みで入った適当な店で豚肉料理が被ってしまったことで一喜一憂出来る人ばかりではないのだ。

 今回処方されるらしい薬を纏め、スサーナに渡せるようにしながら第三塔はやや怪訝そうな表情をする。


「おかしな事を気にするな」


 食べずに居ることで健康上の支障が出ている君とは違って必要な栄養は摂っているから問題ないと思うが、とお説教混じりで言われてスサーナはぴゃっとなった。


「だって、飽きるって仰ってたじゃないですか」

「あれは一般論だ。それに、他に選択肢がない状態で半月続く会の時ならともかく、半月おきにせいぜい一度か二度のことだからね」


 道理だ。

 一片の瑕疵もない意見をお出しされてスサーナはむうと唸る。


「それで、一体何が? 大方、料理長殿が試食の為につなぎを取るよう頼んできたとかそのようなことかとは思うが」


 どうやら彼はスサーナが難しい顔をしたことで、何やら食事絡みの用件があるのだろう、と判断したらしい。あまり無理が効くと思われるのもな、とうっすら苦笑した。


 調査会の関係で遺跡にやって来る魔術師と、スサーナがつなぎを取った魔術師は別の個体だ、ということになっている。

 前者に対する学院の対応は基本的に触らぬ神に祟りなし。貴族たちにも連絡は行っているのだろうが、ほんの数人が一日だけやって来るぶんにはもてなそうという気もないようだ。



 来ている、ということだけが分かっているとすれば、魔術師の食べ物に興味を燃やしているらしい料理長が不満を貯めるのはありそうな話で、代償的に同じ魔術師のくくりに入っている「島の下位の魔術師」に連絡を取ろうとするのは想像の範疇内だ。

 調査会が終わってから連絡を許して渡させた通信紙はほんの二三枚。渡させる際に稀少なものだと勿体ぶれ、と指示したものだし、事実そのあたりに明るい貴族に問い合わせたら貴重だとお墨付きがつくだろうものだ。浪費したくはないだろう。


 恩を売らせておくか、と彼女を介して渡させたものだが、彼女自身を便利に使えると思われては問題だな、と第三塔が思案したところで首を振った娘の物言いにその思考は遮られた。


「あっ、いえ、そういうのじゃありません。いえ、深い意味はなくて、ええと、お食事がまだで食べる気があるならお誘いしようかなとか……ええ、なんとなくちょっと思っただけで……」


 もそもそ言ったスサーナは、いえまあ、無理を言いたいわけではないので……と切り上げた。

 食事をしていないわけでもなく、特に携帯食に不満を感じていないなら無理に誘うほどの理由はない。


 言葉を聞いた魔術師は少し思案した様子に見えた。


「成程」

「ですから、ええ、すみません。お気になさるようなことでは。」

「機会があるならそれは逃すこともないか」


 じゃあ出よう、と結論付けられてスサーナはぴゃっとなる。


「えっ、よろしいんですか!?」

「流石に場当たり的に食べ物が口に合うかを試す気にはならないが。逆に言えば判断が可能な君が案内してくれると言うならいい機会だ」


 少し待つように、と言われ、見る間に色が変わった髪を彼はざっと括った。



 ◆  ◆  ◆



 エルビラの門前町、学院の正門前に広がるあたりには、学生を見込んだちょっとした食べ物屋が多く軒を連ねている。


 親の管理下を離れてそれなりに羽目を外すようになった下級貴族の子弟達を主なターゲットにしているので酒を出す店が多く、そのついでのように比較的安価に手に入る羊などの内臓肉を煮込んで出すような場所が主だ。

 とはいえ世には変わり者の種は尽きないわけで、例えば前身が貴族の料理人だったものなどで風雅な食べ物を出そうという者もいないでもないし、目端の利く者が変わった食べ物を売り出していたりもする。


 夕刻。

 そんな通りの一本を長身の青年と小柄な少女の組み合わせが歩いている。

 きっちりと、やや目深に髪抑えを被った娘は侍女の類とみえる一揃いに学院の制服を重ねている。それ自体はやや珍しいが、特筆するほどではない。

 しかし、彼女が親しげに語りかける相手は王侯にも珍しいほどに手入れのいい金の髪を後ろで括り、デザインは簡素ながら異様に上等な織りのシャツとボトムを身に着けて、ある程度目の肥えた者なら注意を惹かれるだろう。そのうえ青年の容姿は道行く娘たちが足を止めぬはずがないほどきわだって整っていたが、娘たちどころか往来を歩く者たちの誰一人として二人に注意を払う様子はなく、まるで見えないかのようにすれ違っていく。

 奇妙な光景といえた。




 獣臭紛々たるごった煮、なんていうものはオススメできないが、スサーナにはいくつか比較的いけそうな食べ物のアテがあった。

 殆どが腰を据えて食べるたぐいのものではなく、食べ歩きするようなものだが、聞いてみれば第三塔さんはそう言う飲食形式に経験がない、というわけではないようなので良しとする。


「そういえば、食べられないもの……食べたらお加減を崩すような食べ物とかあったら教えていただけると。」


 エビとかカニとか卵とか、と指折るスサーナに第三塔はなにか思い当たったらしく答える。


「免疫反応の問題なら気にすることはない。よほど経験し難いものでない限り受容できるように調整されているからね。」

「あっ話が早い……。なるほど、便利ですね……。ああ、じゃあ、普通にお嫌いなものとかは。」

「嫌いなもの……」


 はた、と青年が考え込んだ。


「常食の範疇でだと考えたことはなかったな」

「え、そういうものなんですか。あ、常食……って、島の普通のご飯、ってことでいいんでした、よね? 魔術師さんたちって普段御飯のメニューとかどうやって決められるんですか?」


 詳しい説明を求めたスサーナが第三塔の説明するのを聞くことには、調理は基本的に塔の設備と魔術人形の機能で行うため――塔の設備、の部分はどうもキッチンではなく何かもっと大掛かりな事を指している気配がする――プリセットの上から順に食べていく、というようなやり方で特に文句もない、という。


「基本的にはよほど拘りがなければそうした食事の選択の仕方が一般的だとは思う。……メニューの内容自体は島の常民の食事と共通しているから。多少の好みはあるが、その範囲内のものでならさほど文句のあるものは無いだろうと思うが」

「え、じゃあ、魔術師さんたちってご自分たちでお料理とかはされないんですか?」

「いや、品種改良の際に検食をすることもあるし、魔力の補充の際に口にしやすいように味付けする行為は一般的だね。それから、単純な煮焼き程度なら行うこともある。……後、例えば大量にある一種類の食物をできるだけ早く消費したい場合……」


 セットメニューには融通がきかないのでねと言った声にちょっとうんざりが混ざった気がしたので、スサーナはああ、粉、と察した。


「……小麦粉をたくさん使ったものは避けたほうがいいでしょうか。」

「……そうだな。パンケーキ以外ならなんでも」



 喋るうちに目当ての店が並ぶあたりに辿り着く。


「じゃあ、そろそろ。」


 合図すると掛けられていた認識欺瞞が解かれ、スサーナは会話の内容を当たり障りのないものに調整した。


「ええとですね、オススメはあそこのお店なんです! 」


 指差した先は通りの片隅、半分屋台のような店舗だ。

 路上に小さな差掛けがあり、その下に金属製の炉と、炉に乗せられた大きな丸鍋がでんと控えている。


 通りに並ぶ食べ物屋の中でもごく粗末な店構えだが、それなりの人数の人間が前にたむろしており、どうやら人気らしい、ということが見て取れた。


 砕いたパンが揚がる特有の匂いに第三塔が揚げ物か、と呟く。


「はい。あ、でも、獣脂を使ってないのであっさりしてるんですよ」


 ととっと店頭に近づいたスサーナは店の親父におじさん、2つ下さいな!と声を掛けた。


 素焼きかわらけの器で渡されたのは串に刺さった楕円形の揚げ物が2つ。

 スサーナは一つ取り、残りの皿を第三塔に渡した。


 タイミングを誤ると揚げ置きでちょっと味の落ちたものが出てくるが、運良く今日は揚げたてらしい。


 ふーふーと息をかけて齧りつく。

 オリーブオイルでカリっと揚がったパン粉が舌を焼き、その中からあつあつの内容物が溢れてくる。こっくりした玉ねぎの甘味と穏やかな風味の肉の旨味。それをぽとぽとした感触のソースがまとめ、噛むと時折混ざったハムのかけらから濃い塩気がじわりとにじむ。


 浅く炒めた玉ねぎとみじん切りの鶏肉、それから生ハムの切れ端を前世で言ういわゆるベシャメルソースに近いものでまとめ、卵と固くなったパンを砕いて纏わせた料理だ。前世でいうクリームコロッケに近い。


 ――食べ歩きと言ったらコロッケですよね!


 スサーナは多分誰にもここでは伝わらないだろう、という理由でそっと満足した。

 前世で言うポテトコロッケでなく、クリームコロッケに近いというのが概念的に少し残念だが、これもなかなか捨てたものではない。


 ソースに使った小麦粉はそこまでいいものでもないが悪くもなく、そこそこ上手くごまかせているし、近くの市場でけから捌く鶏はなにより新鮮で匂いが薄く、よく熱を通された玉ねぎは甘い。それにベシャメルソースという、温和なばかりでぼんやりしてしまいそうな組み合わせに非常にしょっぱい生ハムが混ざることで味にアクセントも効いている。ついでに言えば、オリーブオイルで揚がった香りのいいパン粉はハード系のパンを好むこの地ゆえに非常にザクザクとしており、歯ざわりという点でも十分楽しめた。


 はふはふとしてから飲み込み、どうでしょう!と相手を見上げる。

 コロッケクロケタス串を手にこちらを何やら眺めていた魔術師は手元に目を落とし、コロッケの端を齧り取った。

 熱かったらしく少したじろぎ、それからゆっくりと噛んで飲み込む。


「……悪くない」


 気に入った様子にスサーナはよっしと拳を握った。


 のんびりコロッケを食べ終わったあとで次の目的地を目指す。


 次の店は挽いた豆と蕎麦で作った生地で焼いたチーズを巻いたものを出す店だ。

 島の市場にも似たようなものはあったので馴染みやすいだろうと判断したものだ。

 コロッケの次にチーズとなるとそこそこ油脂も強く、もしかしたら口に合わないかも知れないと少し心配したが、このぐらいなら、という返答だったので良しとする。

 確かに本土の煮込み料理は獣脂がスープの上に厚い層を作るものが主なので、そう言うものに比べれば油脂分など無いに等しいのかもしれない。


 本土は各種チーズはそれなりに美味しいものが多く、癖の少ないフレッシュチーズもそれなりに存在する。

 チーズに関して言えば癖の強いウオッシュタイプのものでも前世で食べ慣らしていたせいかそこそこ食べられるスサーナだが、ここでは山羊のものも熟成タイプのものも避けて水牛のフレッシュチーズを選択する。


 焼いたチーズを包んだ生地にマスタードをたっぷり塗り、手づかみで齧る。ワイン煮のナシの薄切りを一緒に齧るのも店の……どうやら元は貴族の料理人だったらしい――もしかしたら料理長さんを追っかけてきた系統のアレなのかもしれぬ――おじさんのオススメだ。


 当然焼いたチーズはとろとろに蕩けており、うまく噛み取らないと盛大に糸を引く。

 スサーナは数度目で慣れているが、第三塔さんが盛大に失敗して静かに慌てていたのが少し面白かった。


 最初プレーンな方を第三塔さんに渡し、自分はナシ入りにしたスサーナだったが、どうやらそちらのほうが気になったらしいと気づいて二口目から交換する。


「ああ、これはいいな」


 声を上げた第三塔さんにおや、これはだいぶお気に召したらしい、とスサーナは選択肢の成功にえへんと笑みを浮かべた。


 小麦粉で作った生地よりだいぶ香ばしいそば粉と豆が主の生地に、表面が焼かれているためにきゅいっとした歯ざわりに焦げ固まっている中にトロトロに溶けた部分がたっぷり潜んでいるチーズ。シャリシャリの感触を残したワイン煮のナシはこっくりとした味だが、チーズに混ざってみると爽やかに感じられるものだ。

 もちろんプレーンの方もチーズの旨味が強く、マスタードの辛味と合ってどちらも悪くない。


「お気に召しましたか、ここの、島でも流行りそうだと思うんですよね」


 ボリュームを求める男性やミアはこれにバターで揚げ焼いた卵を載せたスペシャルメニューを食べたりする。それも多分美味しいと思うのだが、卵は数が限られるので、残念ながら売り切れだった。


 そのことを第三塔さんに説明していると気さくな店主の奥さんに声を掛けられる。


「おやお嬢ちゃん、いつも連れてくる子達とは別の人だね」


 スサーナが「外で食べられるご飯」として認定したので、比較的ミアとジョアンはここに連行されて来やすい。少し値が張るものなのでジョアンなんかは嫌がるのだが、おごって差し出してしまえば何やらぶつぶつと言いながらも完食し、むしろ少し物足りなさそうな感じをするのが常だ。


 ――あ、どういう知り合いの方か説明する内容を考えてなかったな……。

 スサーナはここに来てその事を遅まきながら気づいたが、考えていないものは仕方ない。とりあえずえへへーと笑って誤魔化しておく。


「ずいぶんと綺麗な兄さんだことねえ。アレかしら、いつもくる男の子には秘密にしておいたほうがいい?」


 口の前で横にした二本指を閉じる、内緒をしめす仕草をなにか訳ありげに笑う奥さんにされてスサーナは、なぜミアとジョアン、でなくてジョアンの方だけなのかとふんわり首を傾げつつ、はい、まあ、と頷く。

 第三塔さんは出来るだけ目立たないように振る舞っているようだし、髪と目の色を変えている以上魔術師とバレるということもないだろうけれど、あまりスサーナの知り合いだと周知の事実にならないほうがいいのかも知れない。


「あらあらまあまあ! いいわねえーー!」


 うふふ、と笑った奥さんに肩をバシバシ叩かれてスサーナは目を白黒とした。

 なぜかその後オマケだともう一つチーズづつみを第三塔さんが押し付けられ、豆だのハムだの刻んだオリーブ漬けだのなにやら持つのも苦労するような全部盛りだったため、非常に処置に困ったという顔をしていたものである。





 ◆  ◆  ◆



 部屋に戻ったあとで水を貰って飲み、ついでに胃薬をもらう。

 食べ歩きになると飲み物と一緒に食事をする、という選択肢が減るのが問題と言えば問題だ、とスサーナは思う。

 瓶の酒は売っている場所はあるし、ピッチャーや瓶を持ち歩いて一緒に飲むものも一般的な行為なのだが、アルコールでない飲み物はほぼないし、流石に持ち歩きのアルコールはいまいちなじまないスサーナである。

 一応食べ歩きの最初に第三塔さんにも聞いては見たが、酒瓶を買うという選択肢は無さそうだったのでお酒は好きではないのかも知れない。


「と、いう感じだったわけですけど、いかがでしたでしょう? お口には合ったでしょうか?」

「ああ、そうだな……。多少栄養に偏りはあるが、悪くなかった、と思う。」


 そうでしたか! と言ったスサーナに第三塔は少し思案してただ、と言う。


「む、なにか問題でも?」

「次は飲む物を持っていたほうがよさそうだな。君はそのほうがいいだろう」


 ――あ、次があるんだ。

 これは食事の豊かさにちょっと貢献したのかもしれないぞ、とスサーナは笑顔になる。


「じゃあ、次は別の所を案内しますね! いくつか候補はあるので!」

「ああ」


 じゃあ次は座って食べられるようなちゃんとした所を見繕っておこう。スサーナはいい気分で候補を色々探しておくことにした。

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