偽典~All's curse with the world~
ビト
プロローグ、英雄の凱旋
前回までのあらすじ
王様になる。そんな願いとともにトウマは聖剣グランドを抜いた。
辺境のニア村をキャンプに活動していたトウマ、カリヴァ、ティアの三人は轟音とともに動き出した機動城塞セイントを根城に、帝国・魔属領間の戦争を終わらせるために活動を開始した。辺境での小競り合いを両成敗していく三人の前に現れたのは、金髪のミステリアスな少女カレンと猫のような不思議生物レイ。
彼女がセイントの乗り込んだ時に、謎の黒犬ゼロが起動。ゼロはセイントのオペレーターであり、強大な攻撃力を持つカノン砲や傷を癒すリペアシステムが使えるようになった。これこそが、伝説で語り継がれている城塞セイントの姿だった。
強大な力を手に入れたトウマは、戦争のどさくさで悪さをしているバイアス第三騎士団長を懲らしめようとする。反発しながらもセイントに居座るカレン。
セイントの動力機構は大気中・地中からエネルギーを吸収する際に特殊な波動が生じ、それに釣られるモンスター等からセイントを防衛するために誰かが残る必要があったのだ。遠征組はトウマとカリヴァ、防衛組はカレンとティア。役割分担を決めてトウマとカレンは距離を取った。
獣人族を蔑み、古代機械で強制労働させていたバイアスをぶっ飛ばしたトウマは満足気に帰還する。一方、防衛戦を通じてカレンとティアは少し打ち解け、どこか険が取れた感じがした。
聖剣の真なる力を解放する手がかりを捜して、トウマたちは付近の古代遺跡を捜索することになった。途中ニアネードの森奥地で新種のドラゴンと遭遇。殴り合いのじゃれあいの末にトウマたちとの間に友情を築き、ガリュウという名を与えられた。
そのドサクサで知り合ったのは、魔属の少女リリアームヌリシアと従者のイヨだった。魔王になるために強大な力を探していたリリは聖剣の主たちと結託。古代遺跡から拡張パーツをダウンロードしたセイントは、バージョンアップに至った。
精度が上がったセイントのレーダーが拾ったのは謎の救難信号。場所は大陸最北のプリズム大雪山の先にある古代遺跡。そこはエルドスムス帝国領域内。カレンの制止を振り切り、トウマ・カリヴァ・ガリュウ・リリは遠征に発つ。
国境を越えた先、エルドスムス氷壁を守るのは獣人クリューガが率いる第二騎士団。苛烈な戦闘の末にこれを打ち倒したトウマらはクリューガと問答を交わす。
王様になる。そして戦争を止めさせ、誰もが憂いなく生きていける世界にしたい。
その答えを聞いたクリューガはトウマにつくことに決めた。通信でその問答を聞いていたカレンにも、感情の変化が生まれていた。
同時、セイントが魔属の群れに襲われていた。カレンとティアは負傷して帰還したリリとガリュウを加え、これを撃退する。その戦いを怪しげな視線が覗いていた。
大雪山の過酷な環境を超え、古代遺跡に辿り着いたトウマ一行。古代遺跡の奥地で出くわしたのは、レギオン系統と称される贄神の眷属たち。
聖剣セイントと聖剣ヒンメルは二対一体の古代兵器。それらは三千年前より復活を繰り返してきた
遺跡の記述に呆けるトウマたち。ゼロに確認を取ったが、それは事実らしい。さらに奥地に、救難信号の発信元があった。初代聖剣の主とともに戦ったとされるセイントの防衛機構の元締め、個体名ゲノム。
巨大な球体ロボットを仲間に加えたトウマは、ゲノムの力でセイントの防衛ロボットたちを起動。気づけば随分と大所帯になっていた。
星降る夜。バルコニーでトウマとカレンは星を見上げていた。話がしたい、と。
戦争で家族も部族の仲間たちも皆失った。いつだって大国に挟まれた辺境の弱者は痛い目を見てきた。このまま滅ぼされるのをただ待つより、剣を振り上げて運命をぶち壊したい。
トウマの本当の願いを聞いて、ずっと反目していたカレンもついに胸の内を吐露する。二代目聖剣の主の名前ヒンメルを冠したもう一つの聖剣。その今代の所持者は自分なのだと。
考古学者の家系に生まれたカレンは古代の伝承に詳しかった。発掘事故で両親を亡くし、唯一の身寄りだった祖父は病気に失った。心を氷のように閉ざしていた彼女は、祖父が残した研究データを拠り所とし、旅に出た。遺跡を周り、伝承と照らし合わせ、その末に偶然ヒンメルを起動させてしまったのだ。
この巨大すぎる力をどうしたらいいのか分からない。嘆き途方に暮れるカレンに向かって、トウマは手を差し出した。
同じ聖剣の主として。その手に確かな温もりを感じたカレンだが、表情は曇ったままだった。
トウマが魔属の女王に攫われた。
下手人はリリアームヌリシア。魔王の副官ディアナと通じていた彼女は、情報を横流しにしていた。薬と妖術で身体の自由を奪われたトウマは、あっさりと魔属領に幽閉される。
短い間だったが、それでも楽しかった思い出が反芻していく。そんな思いに耐えられなくなったリリは、イヨとともにトウマ奪還に向かおうとする。それを止めたのはカレン。彼女は自分がもう一人の聖剣の主であることを明かし、自らの役目としてトウマ奪還に向かう。
今までセイントに閉じこもっていたカレンの初めての遠征。カレン・ティア・リリ・イヨ・クリューガは魔属領へ、残ったメンバーはセイントの防衛に。遠征は苛烈を極めた。
立ちはだかるのは神官家の末裔たち。リリの母親でもあるリリアトリシアと魔王の副官ディアナ。リリ・イヨ・ティアの必死の連携でリリアトリシアを倒し、クリューガとディアナが互角の戦いを繰り広げる中、カレンは魔王リグラーナと対峙する。
トウマに対して求愛し、結婚を迫る女王。カレンはそれに自分でも不思議なほど反発。トウマを賭けた一騎打ちを持ちかけた。
圧倒的な実力の魔王に、カレンは隠していた魔法の才能を存分に振るう。セイントからのサポートもあって辛くも勝利、トウマを奪還する。トウマの感謝に、カレンは顔を赤らめながらそっぽを向いた。
魔王が敗れた。その情報は大陸の反対側であるエルドスムス帝国にも伝わっていた。皇帝自らがセイントに乗り込み、魔属に対抗するための同盟を提案。彼の話では、魔属は贄神復活を企んでいて、それを阻止しなければならないとのことだった。
反発して斬りかかるトウマだが、皇帝は片手でそれをねじ伏せた。圧倒的な実力差に歯噛みするトウマ。一方カレンは同盟を承諾し、皇帝とともに帝都へと。
茫然自失とするトウマは、自分が何故ここまで落ち込んでいるのか分からなかった。裏切られたような感覚。だが、カレンは裏切ってなどいなかった。聖剣の主自らが帝都中心部まで潜り込むことで、転送ポイントを設置。頃合を見計らって救難信号を発した。
トウマ・カリヴァ・ティアは最初の出会いを思い返していた。全員それぞれの思惑があって、それでも誰が聖剣の主となろうが、その者を支えていこうと。カリヴァが頭を垂れる。トウマこそが騎士たる自分が仕えるに相応しい者である、と。
三人が遠征に出るのを止めたのはクリューガだった。帝国軍人である彼が牙を剥く必要はない、とカリヴァは諌めるが、「陛下に喧嘩を売れるチャンスだ」とクリューガは強引に付いてきた。その目には、魔属領の戦いで自分をサポートしてくれたティアの顔が映っていた。
王城の真っ只中に転送されたトウマたち。対するは帝国の大砦ギリアムが率いる帝国最強の第一騎士団。かつて帝国最強の騎士と称されていたカリヴァの後輩で、カリヴァに対して執着を見せるギリアム。苛烈な一騎打ちの末、結果は相打ちに終わった。
帝国が隠していた古代兵器の群れに翻弄されるクリューガとティア。トウマの道を空けるために奮戦し、結果としてトウマは無傷で皇帝の間に辿り着けた。
待ち伏せていた皇帝グレゴリア。彼の背後に控えるのは、妹であるエレーナ姫。贄神の復活は近い。その復活を防ぐためには、星の巫女たるエレーナを人柱としなければならない。
グレゴリアは、皇帝として国を守るため、兄として妹を守るため、別の選択をした。魔属が隠し持っている贄神のゆりかご。それを破壊して物理的に贄神を消し去ろうと。
そのための戦争だと。
トウマとグレゴリア。二人は己の信念を賭けて斬り結ぶ。激闘を制したのはトウマだった。傷だらけのトウマを支えるカレン。トウマとカレン、二人の間に絆を感じた。
だが、皇帝はそこで終わらなかった。既に全軍魔属領に向けて出撃。古代機械の圧倒的な物量で魔属領を殲滅する。それを聞いたトウマとカレンたちはセイントに急ぎ帰還する。だが、時は遅し。既に辺境は戦地と化していた。
トラウマがフラッシュバックして暴れるトウマ。無力に打ちひしがれるカレン。戦地の中央に黒い渦が生まれた。魔王城地下でから地響きが。魔属が贄神のゆりかごを隠し持っていたのは事実だった。しかし、それは寿命が人間よりも長い魔属が聖剣の封印を見張る役目を担っているため。
長い時間が、伝承を歪めてしまった。
人々の負の感情を吸収し、ついに贄神が復活してしまった。同時に、カレンの顔が絶望に染まった。
贄神を封印するための聖剣はここに揃っている。しかし、今代の聖剣は未だ真の力に目覚めていない。そのために必要な儀式があった。ゼロとレイは語り始める。
それは、二つに分かれた聖剣を一つに束ねること。
片方の聖剣の主が、もう片方の主を殺し、聖剣を奪うこと。
カレンは、その過酷な歴史を知っていた。初代聖剣の主グランドの時代。贄神との戦いの末に聖剣が二つに折れてしまった。このシステムが確立したのは二代目ヒンメルの時代。以後、贄神封印のためにこの方法が踏襲される。
カレンは知っていた。殺しあう運命を。だから、心を開きたくなかった。けど、氷のように堅く閉ざされた心は開いてしまった。惹かれてしまった。
トウマも、カレンの顔を見る。トウマが救いたかった人たちが今、苦しんでいる。そして、救うための力がここにある。
どうするか。決意を固めるために、丸一日の猶予が与えられた。
聖剣の主に与えられた最後の試練。セイントの異次元坑道の防衛機構の突破。聖剣の主は、各々たった一人でそれをこなさなければならない。
トウマも、カレンも、試練を乗り越えた。聖剣の間で、二人が向かい合う。
トウマの手甲が赤く光った。
カレンの魔道書が青く光った。
具現化した聖剣が二人の手に現れる。二人は無言で斬り合った。互角の死闘は、最後の一瞬、トウマが力を抜いたのだ。カレンのトドメがトウマを貫く。
助けたい命があった。救いたかった人たちがいた。それでも、トウマは剣を置いて、カレンに道を譲った。命を賭けた告白。カレンに生きてほしい。
試練を乗り越えたカレンを待っていたのは、グレゴリア皇帝と魔王リグラーナ。状況がここに至っては、争っている場合ではない。皮肉にも贄神の復活が戦争を終結させた。
贄神の黒い瘴気が天に満ちた。黒い雨が大地を蝕み、眷属たちが命を食い荒らしていく。天高く浮かぶ贄神の天空船。飛行用に可変したセイントは直接天空船に接続される。
全ての責任を負うためにグレゴリアとリグラーナが後に続いた。歴代の主たちは誰一人として生きて帰らなかった。三人は悲痛な覚悟を胸に、天空船に乗り込んだ。
最深部、待ち構えていたのは贄神に乗っ取られた前代聖剣の主だった。
翌日、トウマは目を覚ました。
カレンは、ぎりぎりのところでトウマにトドメをさせなかった。不完全な聖剣のままで贄神に挑んだのだ。その事実を噛み締めるトウマ。カレンを助けなければ。仲間たちは皆準備を済ませていた。
トウマとカレンを信じていた。信じて待っていた。ゼロとレイのアシストが全員を最高のパフォーマンスで天空船に送り込む。ここに最後の戦いが始まった。
帝国軍は、地上のレギオンの殲滅に。
神官家は、贄神の瘴気を押さえ込む結界を。
セイントのクルーらは天空船の制圧を。
誰もが世界のために死力を振り絞っていた。皆が戦っていた。空に一筋の光が差した。
そして、今。
トウマたちは贄神が巣食う最深部に足を踏み入れた。
※前作とか特にありません。
※あったけど序盤でお蔵入りです。
※考えるのではなく、感じることをオススメします。
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