復活
「せーのっ……んーっ!」
ティアはドアの隙間に特製の矢をこじいれて奮闘していた。
セイントのドアは全て電磁ロックの自動ドアだ。外側のロックをクリューガが念入りに壊していったようで、ドアは固く閉ざされていた。ティアの怪力をもってしてもドアは開く様子がなかった。
「クリューガ、様子がおかしかったわ。何かあったんだわ」
するり、と手がドアの取っ手から滑り落ちた。
「私……そんなに頼りないかしら。打ち明けてもらえないなんて……」
ティアは大人だ。クリューガが自分を邪険にして気絶させたのでないことくらい分かっている。だが心が理解しない。
(――これまで一緒に闘ってきたじゃない)
クリューガの背後を守るほどに信用されていなかったということだろうか。溜息がティアの唇からこぼれた。
「……え?」
背後で音がした――ような気がして、振り返った。
幻聴ではない。キィィ……ンと高周波の金属音がする。何もない空間にきらきらと光る粒子の粒が弾けている。
傍らの長弓を引き寄せ、ティアは身構えた。光はよくみると細かい文字列のようだ。金属音はさらに高くなっていく。顔をしかめながら、ティアは成り行きを見守った。
やがて光の文字列は収束し、床に降りて形を作っていく。
「……ゼロ!?」
光の中から黒衣のゼロが現われたのだ。そして部屋を見渡した。
「ティアの部屋に再構築されたのか」
「そ、それより! 私、この部屋に閉じ込められちゃったのよ! 鍵が外から壊されたみたいで開かないの」
ゼロはドアに近寄り、取っ手を握った。勿論、ドアはびくともしなかった。
「部屋を出て制御ルームへ向かう。ティア、戦闘準備をしてほしい。行き着くまでに妨害が予想される」
淡々と、ゼロは言った。ティアの表情がきりっと引き締まる。
「分かったわ。とりあえず制御ルームに行けばいいのね」
ゼロは頷くと、ドアの取っ手を両手で握った。
「どうするの?」
「強制的に開く」
ゼロの手の中でめり、みしっ、という音がする。取っ手が握り潰されていく。飴細工のように取っ手を引きちぎると、ぽいっと床に捨てた。取っ手を取り去った穴に手を入れ、ゼロはドアをスライドさせていく。まったく表情は変わっていないが、ドアのほうは少しづつ軋みながら開き始めた。
「あらぁ、すごい!」
ティアは驚嘆の声をあげた。
これが人間と擬似生命体の差だ。いくら怪力を誇るティアでも出来ない芸当だった。ガッシャン、と重い音を立ててドアが開ききった。
「では、行こう」
廊下に出ると――ロボットが3体、廊下にいた。赤い光が明滅し、ゼロとティアを観察している。
ゼロの隣でティアが弓を構え連射した。ただの弓ではない。贄神との戦いに使った極光の機械弓は鋼のロボットも打ち砕く。
だがティアが狙ったのはロボットの背後から湧き出てきたレギオンだった。数歩下がって距離をとりながら射掛ける。
「ゼロ、さがっ……え!?」
あろうことか、ゼロはロボットたちの方へ歩を進めているではないか。
「やはりコントロールできないのか。強制排除する」
ロボットたちがアームを伸ばし、ゼロに襲いかかった。ゼロは腕を掴んでくるアームをぐい、と引きちぎった。そのまま手でロボットの腕を掴み、これまた無造作に引きちぎる。肉弾戦というにはあまりにも乱暴な戦い方だ。
「前!」
ティアが叫ぶ。矢の雨を縫って生き残ったレギオンが、ゼロの前に立ちはだかる。
ゴアァァァァ!
赤い閃光が煌めき、レギオンの脚が吹き飛んだ。ゼロの手には赤色に輝く短剣が握られていた。返す刀で斬りつけるゼロ。
「伏せて!」
ゼロが身を沈めると同時に、銀色の矢がレギオンに数あまた突き刺さる。断末魔の叫びと共に黒い塵となって消えた。
「データ損失2.5%……だが、対贄神の眷属には武器も必要か。出力が減るがやむを得ない」
赤い短剣を見つめ、ゼロは呟いた。
「急がねば、ゲートが完全に繋がってしまう」
階段の上から、魔法が炸裂する音、モンスターの断末魔が響いてきた。ダイニングサロンでも戦闘が始まっていた。
「何が起きているか分からないけど、行きましょう!」
ティアとゼロは階段を駆け上がった。雷の呪法が出鱈目に暴れ回っていた。
「あなた方、こちらに!!」
魔王の女官が、猛威を振るっていた。熱烈果敢な魔王の影に隠れがちだが、彼女も指折りの実力者であることは揺ぎ無い。
「クリューガ殿が負傷しておりまする」
「クリューガが!?」
ティアが悲鳴を上げた。
「敵のあの力は危険、協力が肝要です」
「了解した。三人で攻め入ろう」
ゼロが先陣を切る。続くディアナに並ぶよう、ティアも走った。
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