お馬鹿な璃々子(3)


 店の隅の席で長居していた客が帰ると誰もいなくなった。


 駅から少し離れたところにあるこの店に来る客はほとんどが常連で、朝の出勤時のテイクアウトと昼のランチタイムラッシュ以外は静かなものだ。


 客の口に入る全ての物は孝哉が作るのでバイトの世那の仕事といったらテーブルのセッティングや後片付け、それに掃除ぐらいだ。


 今日ももしかしたら早めに上がらせてもらえるかもしれない。


 世那がテーブルを拭いているとドアベルが鳴った。


「あれ璃々子さんめずらしいこんな時間に」


 孝哉が声をかける。


 璃々子は弱々しい微笑みを浮かべただけでカウンターについた。


「ハイネッケン」


 その声は低くか細い。


 孝哉の目配せで世那は冷蔵庫からビールを冷凍庫から真っ白になったグラスを取り出す。


「今日はどうしたんですか」


 孝哉は明らかに何かあっとしか思えない璃々子にいつもの調子で話しかける。


 璃々子が店に来るのはいつも決まった時間で朝と昼のラッシュ時の間だった。


「すっぽかされちゃったわたしRen君に」


「あっ、そうだ今日だって言ってましたよね。待ち合わせに来なかったんですか?」


 璃々子はうなずいたのかうな垂れたのか分からないように顔を下に向けた。


 ふーん、良かったじゃん。カモにならずに。


 世那はそれは口には出さす、眉間に力を入れ璃々子に同情したような顔をしてビールを差し出した。


 これで今日早上がりはなくなったな。


 世那は夜の窓に映る壁時計を見た。


「Ren 君もしかしたら連絡もできないほどの急用ができたのかも知れない」


 そんな訳ないじゃん。


 速攻心の中で突っ込む。


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