世那 (1)


「あら〜、新しいバイト入ったんだ」


 璃々子は世那の顔を見るなり言った。


 世那は璃々子を見て、あ、この人この前見た、と思った。


 バイトの面接の日道ですれ違った人だ。


 すれ違いざま甘い香水の匂いとタバコとアルコールの混じった空気がふわりと世那の鼻先を撫でた。


 午前中のあんな時間からあんな匂いをさせているなんてその容姿からも夜の仕事の人かと思ったらアサイラムコーヒーの常連客で、近くで脱毛サロンを経営しているという。


 孝哉と璃々子の最初のやりとりの3分で世那は璃々子が自分の苦手なタイプではないかと警戒し、次の10分でそれは確信に変わった。


 璃々子の話は薄っぺらだった。


 30分もすると話を聞くのが苦痛になってきた。


 璃々子にちゃんと受け答えをしている孝哉はさすがに大人でこの店のオーナーだ。


 どうやら璃々子はまだ会ったこともない男に夢中になっているようだった。


 今どきそんなバーチャルな恋愛まだ10代の自分でもしない。


 璃々子が何歳なのか知らないが、そんな恋愛をする歳ではないのは確実だった。


「世那ちゃんはどう思う?」


 初対面でいきなりファーストネームでちゃん付けされて呼ばれた驚きはひた隠し、世那は「そうですねぇ」と考える振りをする。


 璃々子の質問は今度やっと会うそのRenという男は絶対にイケメンだという自分の意見は正しいか間違っているかというものだった。


 そんなのどっちでもいいわい。


 世那は内心毒づく。


「イケメンだったらいいですねぇ」


 自然に作れた笑顔と絶妙な自分の返事に世那は満足する。


 きっとブサイクに違いない。


 イケメンにはまず彼女がいる。


 電話やメールだけで女といい雰囲気になるような男は怪しい。


 怪しすぎる。


 どうせ体目当てか万が一イケメンだったとしたらそれはもう金目当て以外の何ものでもないだろう。

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