璃々子(2)


「それが出会いだったの」


 璃々子(りりこ)は桜色の箱から細いタバコを取り出し小さな口で加える。


 わずかに顔を傾けると大きなウェーブのかかった腰まである髪が頬にかかる。


 深く煙を吸い込んで細く長く吐き出す。


 タバコの白いフィルターがサーモンピンクで汚れる。


 窓から差し込む午前中の日差しがカウンターにやさしい陽だまりを作る。


 璃々子は眩しそうに目を細めた。


 小ぶりな目に目の幅と同じぐらいの長さの睫毛が重そうだ。


 コーヒーの芳ばしい香りに包まれる穏やかな空間で璃々子は「ハイネッケンもう1本」カウンターの中の孝哉(たかや)に呼びかける。


「今日もこのあと仕事なんでしょう、大丈夫ですか?」


 そう言いながらも孝哉はキンキンに冷えたビールと同じように冷えたグラスをカウンターに置き白い霜をまとったグラスにビールを注ぐ。


「いいの、いいの。酔っ払ってても仕事できるから。助かるわーここビールも置いててくれて。今日は飲みたい気分なんだもーん」


 璃々子はグラスの半分ほどを一気に飲み干すとぷはっーと息を吐いた。


「やっぱり明るいうちから飲むビールは美味しい」


孝哉は会計表に正の字を書き込む。


 あと2本線を書き足せば正の字が完成する。


 時計はまだ正午を回っていなかった。




 璃々子がこの店に通い始めたのは半年ほど前。


 見つけた時はラッキーって思った。


 最近禁煙の店が多くなってきた中いつでもタバコが吸えてビールも飲める店は貴重だ。


 璃々子はカフェイン過敏症でコーヒー専門店のこの店でコーヒーは飲まずにいつもビールばかり飲む。


 ビールは最初孝哉が仕事終わりに一杯やるつもりで置いたらしいのだが、せっかくだからとメニューに載せたら、自分を含めそれ目当ての常連客何人かついたらしい。 



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