第58話 地下世界37-3

ガシャんという硬質な音で目が覚めた。扉の開閉音だ。


戦いの興奮から冷めていないようで気が高ぶっているのか僅かな物音でも意識が覚醒してしまった。


防衛という意味では優れているが、休息という意味ではこの感覚は煩わしいことこの上ない。




自身も物音を立てない様に静かに立ち上がり、強張った身体をほぐしながら時刻を確認する。


時計によると座ってから二時間も経っていないらしい。


どうりで頭がしゃんとしないわけだ。




頭を強く振って、部屋を見渡す。


ココの規則正しい寝息が聞こえ、フラーラは最初見た時と違い頭と足の位置が反転している。




どうやら部屋から出ていったのはリナのようだ。


トイレでもシャワーでもないようで誰かが部屋に帰ってくる気配はない。




このままもうひと眠りをしてもいいが……。


睡魔に飲まれそうな意識が打ち上げで元気なさげにしていたリナを思い出した。




気づいてしまったのに放っておくのも具合が悪い。


静かにため息をつき、気配を消して部屋から出た。


感覚を研ぎ澄ましてリナの所在を探る。


音と匂いからしてリナは下にいったようだ。




足音を消し、階段を下る。


たいした距離もなくすぐに一階へとたどり着いた。




気配を消したまま酒場に入る。


秘術アイテムで燈る灯りは家主不在の酒場を明るく照らしていた。


椅子はカウンターを除きテーブルの上に逆さに置かれ、清掃まで終わっているのか清潔な匂いが漂っている。




平時ならこの時間はまだ稼ぎ時、営業してるはずだ。


俺達が解散してから新しい客も入らなかったようで早くに閉めてしまったらしい。


室内は馬鹿騒ぎする客もブラウの姿もなく静かなものだった。




静かな店内に物音が響いた。


グラスを置く音にトクトクと酒を注ぐ音だ。


酒の甘い香りが鼻腔をくすぐる。


下手人は店の酒を勝手に出して一人で飲み始めようとしているらしい。




音の発生源へと静かに歩み寄る。




「勝手に飲むのは不味いんじゃないか?」


「きゃっ!」




リナが椅子の上でびくりと振り返った。


彼女の瞳は赤く、瞼が少しだけ厚ぼったくなっていた。




「なんだスバルさんですか……驚かせないで下さいよ」




カウンターの端に置いてあるグラスを引き寄せ、リナの隣に腰かける。




「俺にも注いでくれ」


「駄目なんじゃないんですか?」


「怒られたらリナのせいにでもするさ」


「これただのココナッツリキュールですけど良いんですか? 割るわけじゃないのですっごく甘いですよ?」


「たまにはそういうのも良いもんだよ」




リナが掲げたボトルを見つめ、少しだけ思案顔になった。


僅かの停止の後、考えるのも煩わしくなったのかカウンターに置かれたグラスにリキュールをなみなみと注ぎ俺の前へと置いた。




驚かせたことに対する嫌がらせか何かだろうか。


リナの顔を横目で確認すると口角が上がっている。




「……んで、どうしたんだ? そんなに目を腫らしちゃって。泣いてたんだろ?」


「直球ですね……隠してるんだからもっとさりげなく聞いてくださいよ」




リナが不貞腐れた様子でリキュールを口に含む。


ほぅ、と吐き出す彼女の吐息で甘い香り一層広がった。


良い香りだ。




「俺はそこら辺の配慮は苦手なんだよ」




口の上手いレイナールならスマートにやるんだろうな。




「別に泣いてなんていませんよ」


「言い訳はいい。今日だけの話じゃないだろ? たまに洗面所とかベットの中で泣いてたのは知ってるぞ?」


「き、気づいてたんですかっ!?」




リナが慌てて俺に向き直った。




零れないよう慎重にグラスを持ち上げ口を持っていく。


甘い。甘ったるい。だが、悪くはない。香りも中々のもの。


けれど寝起きにはつらい。




カウンターを見るに水は置いていないようだ。


横で百面相をしているリナを尻目に脳力を起動し、備蓄していた水入り瓶を黒孔から取り出し口に含む。




「リナの泣き声に気づかない程度だったらもっと早くにそこらでくたばってるだろうさ。ココだって知ってるぞ? あいつたまに背を向けて寝てただろ? 決まって君が泣いてるときに。あれで気が使える良い奴なんだよ」


「うぅ……恥ずかしいです」




リナが頭抱えてカウンターに突っ伏した。


小声でぶつぶつとあの時も……まさか……などと呟きだす始末。


聴力が良いですよと主張している俺の耳を相手に、泣き声を隠し通せると思っていること自体に驚きだ。




「まぁ最初は誰でもそんなもんだ。すぐに慣れる」


「そうなったほうが生きやすいとは思うんですけど……なんというか……やっぱり慣れないんですよね……」


「そいつは残念だ」




カウンターに頬をつけながらリナは水入り瓶についた水滴を細い指でいじりだした。




この水入り瓶には中身を冷やす加工が施されている。


何時でも暑い此処アイリスでは重宝される代物で値段もそこそこする貴重品だ。




「残念なのかどうなのかわかりませんが、私はまだあんなことがあった後で笑ってお酒飲めるようにはなれていないみたいです……」




リナが身体を起こし嫌な事全てを飲み込むかのようにリキュールを腹に流し込んだ。


空になった彼女のグラスに追加の酒を注いでおく。


ついでに自分のやつにも追加だ。甘いが慣れるとうまい。




俺はアルコールならなんでも美味いのかもしれないが。




「レイナールさん達にとっては当たり前の決断だったんですよね……あれはスバルさんにとっても普通の事でしたか?」


「そうだな……普通かどうかは分からないが関心はした。ある意味妙手と言っても良い。今後に響かない素晴らしい選択だよ」




ルクルドの住民が居なくなれば黒龍の件で生まれた軋轢に悩むことも逆恨みからの復讐をされることもない。


その上犯人は黒龍で他の結族たちからとやかく言われることもない。




黒龍の機嫌を損ねる可能性があったのを除けば最良の選択肢だ。




「そう、ですか……」




最後についた溜息に釣られ、リナに視線を移す。


彼女は頬杖をつき目を落としていた。その横顔はどこか悲し気でもある。




「どうやったらそうやって割り切れるんでしょうか?」




リナは自由な左手でグラスを目線の位置に持ち上げくるくると中身を回す。


物憂げな表情は相変わらずだ。




「レイナールさんもエリスさんも……それに大人しそうに見えるフラーラさんすら最後には笑って飲んで大騒ぎ……私にはさっきの打ち上げの皆さんみたくすぐに笑い合うのは難しいみたいです」




言葉に詰まりながらもリナの独白は続く。




「肉塊……とも言える膨れる死体は見ました。目の前で人が分割される光景だって見ました。全部が全部、頭から離れません……何かやってるとき、ふと思い出してしまうんです。すえた鉄の臭いに肉のてかり。今回に至っては身体が塵すら残っていません」




話すことで感情を再認識しているのか、徐々にリナの語気が強くなっていった。




「あんな光景を生み出す酷い選択をレイナールさんは何事もないかのように選びました。村になるほどの多くの人間を殺す選択を」




彼女は回していたグラスを止め、勢いよく飲み干す。




「頭で考えたらわかるんです。確かに合理的だし効率も良い。だけど村が一つなくなってしまったんです……村一つが……」




ゴン、と殴りつけるようにグラスを置く音が酒場に大きく響いた。




「スバルさん」




疑問文のように上がった語尾に思わずリナの方へを頭を向ける。


力のない彼女の瞳。




「どうやったらスバルさんやココさんみたく、泣かないで強く生きられるんですか?」


「……別にリナが思ってるほど強くはないよ」




泣かないわけじゃない。


別の意味だが泣いてたことはよくあった。


しかし、残念なことに泣いても事態は解決せず、それどころか泣くことで生まれる迷いがさらに悪い展開へと向かわせることが殆どなのだ。




よほどの馬鹿でもなければ泣く事が無駄だと気が付く。




「上の街では事故以外に起きるのは年に一回あるかないかの殺人事件ぐらい。もちろん死体なんて見る前に回収されて大量の血を見る機会なんてそうそうありませんでした」




怒りか悲しみかそれとも感情が定まらず困惑しているのか、リナの瞳から発せられる感情は波のように乱れ、ころころと移り行く。


彼女は今にも泣き出しそうに鼻を鳴らした。




「それなのにアイリスにきてからは血を見ない日がありません。冒険に出てなくても少し路地裏を歩けば血だまりに乾いた血、果ては新鮮な死体までなんでもござれです……」




声が徐々に震え始めた。


今は踏みとどまってはいるが、決壊は近い。




「何度みても心がざわつきます……顔に出せば良くない輩が寄ってくるので極力表には出さない様に努めてはいますが自分でも上手くできているかわかりません……」




張りつめた糸のように限界だったリナの瞳から涙が溢れた。




「そんな状態でも……私もいつかは笑えるようになってしまうんでしょうか?」




涙を浮かべながらリナは一生懸命に笑い顔を作ろうとした。


ぎこちない笑みはまるで楽しげには見えず、むしろ痛々しい。




信じられない話だがリナから聞いている限り、セントラルシティでは人に限らず食事以外で悪戯に他者の命を奪うことは悪とされているらしい。


彼女は十数年もそんな世界で生きてきた。




俺が思う以上に生物の殺害に対して抵抗があるのだろう。




「…………さぁな」




彼女が望んで慣れたいと思うなら慣れるし、そうではないのならそうなるだろう。


経験がないからわからないが。




「………………」




それから言葉はなく少し煩い沈黙が流れた。


リナが鼻を啜る音だけが酒場に響く。


酒ごと泣き言を飲み込んでいるのか彼女がグラスを持ち上げる頻度は打ち上げの時よりも断然多い。




俺も黙って酒を飲み、空いたグラスにただ注ぐ。


それだけの空間が漫然と過ぎていく。




リナの顔はいくら経っても暗いままで解決しそうにない。




「どうやったらこんなぐしゃぐしゃな気持ちじゃなくなるんですか……」




ずっと続くかと思われた沈黙を破る震えた声。




解決策を他人に求められても困る。


きっとそれは個々人が見つけるべき答えで他人に言われたからといって納得できる類のものではないだろう。




俺が言えるのはただ一つだ。


答えがわからないときは考えなければいい。




「……俺はリナみたいな気持ちを抱いたことがないからわからない。けどまぁ、今を楽しめばいいんじゃないか?」


「……こんな精神状態でどうやって楽しめばいいんですか?」




ぐしぐしとリナは目を擦った。




「此処には甘くて美味い酒がある。残念ながらつまみはないがそれは些末なことだ。それに俺達は黒龍に目をつけられて運良く生き残ったんだ。そんな日くらいは酒を飲んで忘れちまえばいい」


「ただの問題の先送りです……」


「先送り結構。今を楽しむ方が重要なんだよ。この稼業で仕事をしてれば嫌でも気が進まなくてもしなくちゃならないことばかりだ。楽しめる時に楽しまない手はないだろう」




亜龍もとい黒龍との戦いも気が進まなかったものの一つだ。




結果論から言えば上手くいったが。


今回だけでも死線が幾つあったかわかったもんじゃない。




「……正直なところ俺は過去の出来事に心を煩わせているよりもこれからを案じなきゃいけないと思ってるね。黒龍とは最高に良い別れとは言えなかった。彼の気がいきなり変わって今にも転移してきて悪戯に殺されないとも限らないんだ。飲まなきゃやってられないよ」




ちまちまとグラスに注ぐのもめんどくさくなった酒を瓶ごと口をつけた。




「黒龍さんがくるかどうかなんてその時にならなきゃわからないじゃないですか……」


「そう。そうなんだよ、わからないから考える意味もない。考えても意味ないことを悶々としてるなんてちゃんちゃらおかしい。それはもちろん過去に関してだって言える。昨日レイナールの選択で消えた尊い多くの命を心配しても彼らが生き返るわけじゃない」




赤く腫れたリナの目はそれとこれろは別問題だと語っているように見える。


だが、そんなものは無視だ無視。


まだ打ち上げの酒も抜けきっていないのか平時よりも俺の口の滑りが随分と良い。




「だったら今を楽しむより他にないだろ。先々を心配しすぎても意味ないし昔を想っても過去が変わるわけじゃないんだから」


「そんなの強い人の言い分ですよ……」




項垂れるリナを無視して俺は言葉を続ける。




「『昔のことも未来のことも今に比べれば些細なことだ』そんな言葉を昔教えてもらった。俺自身実践できているか怪しいがこれでも随分マシになった方なんだ。俺だって初めのころはピーピー泣いてたんだぞ」


「そう、なんですか?」




リナが腫れた目を見開いた。




「喰うもんがない飲むもんがない 暗闇が怖い、とか理由は別だけどな……またココもよく泣くんだよ。あいつはその時の話をすると絶対に否定するけど。泣き言を聞いてると俺まで怖くて泣きたくなったのを覚えてる」




思い出すのは辛い時のこと。唐突に始まった実質二人だけの放浪生活。


何の庇護もなく生きるには穴倉生活は辛すぎた。




今となってはただの思い出のひとつにすぎないが。




「まぁなんにせよ君の悩み恐ろしいほどに贅沢な悩みだって自覚した方が良い。普通の冒険者なら必死に生きててそんな悩みなんて考えてる暇すらないよ」




俺やココは命を奪う行為を悩む暇すらなかった。


やらなきゃ生きられないことばかり。


ココなんて数字よりも早く命を奪うことを覚えたほどだ。


生きる上ではそれは当たり前の事だし、今でもそう思っている。


あれらは必要なことだった。後悔なんてない。




リナの悩みは生活の一部に生き死にがあった俺としては到底理解ができないだろう。


疑問に思うことすらなかったのだから。




きっと命を奪う葛藤を持てることは幸せだ。


普通はよっぽど才能の塊でもない限り悩みを自覚して考える前に自然な行為に成り果てている。




「外装骨格に感謝しな。そうやって悩めるのはそいつのお陰だよ」




何時でもリナの周りに控えている銀色の球体が、ふわふわと彼女の頬に近づきすり寄った。


リナが自らの豊かな胸に抱き寄せつるつるの表面を撫でる。




実力に伴わない精神性はこの外装骨格のせいをおいて他にない。




不安げな表情で撫でる彼女のその仕草は、まるで幼い頃のココがぬいぐるみを撫でている時のようだ。


無駄にも思える葛藤を強いるその装備は良いものなのか悪いものなのかはわからない。




ふと、此処まで自分がリナに話したことを振り返った。


振り返ろうとして正確には思い出せない。文脈も脈絡も繋がっていたのか自信がない。


駄目だ。これは酔ってるな。




「あぁだめだ。俺もまた酔いが回ってるのか言ってることがどっちらかってるな。すまん」


「いえ……なんだか、なんとなくですがわかりました」


「まぁ、たまには誰かに話すといいさ。悩みも何も話すことで多少は楽にはなる。一緒に行動してるのも何かの縁だ。俺でもココでも素直に喋って頼ってくれてかまわない。俺達に支障のない範囲でなら助けてやるよ」


「あ、ありがとうございます。たぶん慣れることなんてこないだろうけどがんばります」




俺も昔はココと色々と悩みとかを話し合ったもんだ。


……今じゃ言わなくても理解されているが。




リナの顔は未だ晴れず、涙こそ止まったものの酒の力も及んではいないようでお世辞にも元気そうには見えない。




……そもそも言葉を少しかけただけで解決するようなら悩んでいないか。




「……スバルさんは命を奪うことにはいつ慣れたんですか?」


「さぁ? そうしなきゃ生き残れないってわかった時からじゃないか? 元々悪い事とも嫌な事とも思ってなかったしな」


「スタートが違いすぎますね……本当に気にならなくなるのは何時になることやら……」


「早く慣れることを期待しないで祈ってるよ」


「はい………………」




再びの沈黙。


喋りすぎて乾いた喉を潤すために酒のボトルに手を伸ばした。


しかし、悲しいことにボトルは空で一滴もない。


酒は沈黙を埋めるのに便利だというのに。


調子の乗ってボトルごと飲み始めたせいですぐに空いてしまったようだ。




溜息をついて非常用の酒を脳力で保存した領域から黒孔で取り出した。




読んで字のごとく非常用の酒。痛みにくい水、消毒、物々交換。用途は様々だ。


今は非常時だろうか?


この状況を考える。


端的に言えば、飲みたいときに酒がない。そんな状況。




そりゃ大変だ。非常時と言って過言じゃない。


この時を外していつ飲めというのだ。




蓋を開けて空いている二つのグラスに酒を注いだ。


大麦の香りがふわりと広がる。




ようやく水分補給と息をまきグラスを持ち上げた瞬間、リナが突然ぽつりと呟いた。




「あの……」




俺はお預けをくらった犬のように停止する。




「ん? なんだ?」


「手を……手を貸してください」


「なんだいきなり」


「……さっき助けてくれるって言ったじゃないですか」




唇と尖らせ文句を言うリナを警戒しながら手に持ったグラスを置き、言われた通りに手を差し出す。


出した右手がリナに掴まれ彼女の両手に包まれる。




「あ、肉球が良いです」




酒で僅かに低下した判断力がリナに言われるままに意識を集中して手を獣化させた。


ぷにぷにと肉球を掴まれ生え揃った体毛も撫でられる。




「肉球気持ちいいですね。本当に気持ちいいです。毛並みも結構いいもんです。あー、もう最高です。顔とかうずめちゃいます」




肉球にリナの顔が擦り付けられる。


文句を言おうとして、踏みとどまる。




肉球のある手の平が湿り、体毛が濡れるのを感じた。




「うぅ……」




リナがぽろぽろと涙を流す。


涙が流れるたびに手が濡れて不快度指数が上がる。


なまじ俺の感覚が鋭いだけに毛先を湿らす水分を感じ取れてしまうのだ。




せっかく一時は収まったと言うのに。


こんなに水分を垂れ流してたら干からびちゃうな……。




「…………うぅ」




声を出さない様に懸命にリナは堪える。


彼女には悪いが涙が少し気持ち悪い。


だが、今日ばかりはきっと仕方ない。




「…………ひっく」




しかし困った。


泣いてる女性の相手はお世辞にも得意とは言えない。


その上、俺の手はがっちりと掴まれ抜き取ることはできない。




リナからは殺しきれない泣き声が段々と漏れ始めている。




これならマンティスやゴブリンに囲まれた時の方がよっぽど気楽だ。




そういえばココも昔、酷く泣きじゃくったこともあったなと記憶を探ってみる。




何をしたら泣き止んだんだっけかな……。




……あぁ、そうだ。




こんなこともしてたっけとある情景が思い出された。


記憶に従い身体をリナに向け左手を彼女の頭の上に乗せた。


好みに合わせて獣化までさせてある。




びくり、とリナの身体が震えた。


柔らかい肉球でリナの長い髪を極力優しくなでつける。




一瞬だけリナの声が止んだ。




動きを止めた彼女の頭を髪の流れに沿ってゆっくりと撫でる。




やがてリナは自分が何をされているのか完全に理解しーー




「うわぁあああああん!!」




ーー先程よりも派手に大きく泣き始めた。




慰めるつもりがリナの泣き声はさらに大きくなった。


しんと静まり返っていた酒場をリナの声が埋め尽くす。




どうやら目論見は外れてしまったらしい。




やっぱり昔の方法ばかりにこだわってても駄目だな。


果たして今は何が正解だったのだろうか。






そんなどうでもいい事を撫でる手を止めずにつらつらと考えた。


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