5章7節:混戦5

 予め散らしておいた風属性魔法を発動させ、人差し指と中指の先から鞭のように炎を出ししならせ、クレイドに向かって打つ。

 彼は舌打ちをしながら、風魔法を無効にしつつ炎の鞭を最小の動きで避け、いつの間にか握られていたマグナムの銃口がアレシアを捉えた。


「まずっ──」


 急いで鞭を出している手を引く。そして、引き金が引かれ銃弾がアレシアに向かって飛んで行くが、彼女の目の前で盾のように丸まり銃弾を防いだ。


「かったぁ!!」


 鞭を消しながら指を鳴らすと周囲の氷の壁の裏から幾つもの炎の弾と水の弾が浮き上がる。

 アレシアの思惑を察知したのか、彼は逃げようとするもいつの間にか彼の足に水が巻きつき動きを封じていた。


「っく、こんなもの!」

「ミラちゃん!」


 彼女の合図と共にミラは氷壁の裏でランスを地面に突き刺し、凍結魔法を発動させる。

 苦し紛れなのか、マグナムをアレシアに向かって撃つが、風魔法で全て撃ち落とした。


「はい、チェックメイト」


 言葉と同時に炎と水の弾が彼に殺到する。彼は張るが壁が、接触する直前炎と水の弾がぶつかりそれぞれ水蒸気爆発を発生させた。周囲は熱波が通り過ぎ、  

 「あっつい!」と水の壁を張りながらアレシアが叫ぶ。


「・・・・・・さてさて? ちゃんと倒せてるかな? ミラちゃん一応後退準備宜しく」

『わかりました! ふと思ったのですが、さっきのって普通に当てるより爆発させた方が威力高かったんですか?』

「多分そう変わらないんじゃないかな? ただ、万が一逃げられた事考えると、広範囲狙えた方がいいかなーって。それにあの爆発は自体は防げないだろうし」


 煙が晴れ初め、アレシアは奴が居た場所を確認すると、複数のゴーレムが何かを守るように球体のように丸まっている状態を視認し舌打ちをする。


「へいへい、後退、後退! リリーちゃん、そっちと合流出来る!?」


 此処に来てゴーレムの追加は彼女にとって想定外だった。

 防ぐとしても、壁や身体強化での強制離脱による回避を想定していたからである。


『へ!? もう近くまで来てますわよ!』

「あいさ、了解!! ミラちゃんいこっ──」


 突然、衝撃波がアレシアを襲い足を両断する。


──んなっ!?


 彼女はその場に倒れこむ。

 ゴーレムが離れ、中からクレイドと何かの装置に繋がれた槍の形をした1つの神装武具が現れた。


「ふぅ。流石にさっきのは危なかった。ありがと、サクラちゃん」


 彼が上空を見上げると、斬り合いながら空雪と縮地を駆使し空中戦を繰り広げるアリスとサクラの姿があった。

 ゴーレムが彼女の元にゆっくりと向かっていく。


「・・・・・・あーくっそ。まずった」


 切断された足に目線を送り、アレシアは悪態をつく。


『ッ!? アレシア!?』


 珍しく焦った声でシャローネが通信を飛ばして来る。

 ゴーレムを倒し、攻撃をし悪あがきをする事は出来る。だが、この足では遅かれ早かれ奴の攻撃を防ぎきるのは無理が生じ死ぬ。

 彼女はこの時点で諦めた。生きる事を。


「・・・・・・ごめん、シャローネ、皆。先、逝くわ」


──でも。


 彼女は残っているの魔力を集めとある"武器"に移し始めた。


『じゃぁ、早くしてよねぇ』


 と、通信を飛ばすサクラに向かって1発の砲撃が襲う。避けるように移動し、彼の視界から消えた。


「分かってるよ」 


 ゴーレムはアレシアを取り囲むように立つと腕から杭状のような物を生やし串刺しにしていく。


「後は雑魚1人だし」


 クレイドはシリンダーをスライドさせ、空薬莢をマグナムから排出し、ソレは地面に落下した。

 


『って分けだから、攻撃しないようにね』

「おう」


 手短に返事を返し魔矢を避け周囲に目線を送る。

 グールの姿はなく、襲ってくる気配もない。先ほどから隙を作り誘ったりしているのだが、乗っても来ない。


 アリスは手を組んだと言っていた。そして、上の攻防を見る限り、敵側も何となく察している可能性が高いと来ている。

 察していると過程するならば、敵側からすれば早くディードを処理したいと考えるはず。でなければ引く事を前提で動くか。


 再び魔矢が放たれ、ハルバードで軌道を逸し避けた時の事だった。

 森の中で戦闘をしていた箇所から複数のゴーレムが這い出て来る。そして、壁を力任せに片っ端から破壊し始める。


「はぁ!?」


 驚きのあまり一瞬思考が停止するが、直後最悪の状況だと気がつく。


「まずい、まずいまずい! スラ、そっち指揮って野朗の死角縫ってゴーレムから逃げろ!」


 轟音のような叫び声と共に放たれたゴーレムの拳をハルバードで受け足が止まった。この瞬間を狙ったかのようにディードの下腹部に魔矢が突き刺さる。


「ッ!!」


 拳をそらし、ゴーレムの腕を蹴るとハルバードを持ち替え振り下ろし、一刀両断する。

 周囲に目線を向け、ゴーレムに半包囲されている現状から脱するため魔矢を引き抜きながら後退し始めた。

 傷口を片手で抑え、簡単な自己治癒魔法をかけ応急処置を行う。


 暴走体はと言うと、急に別方向に魔矢を放ち始める。恐らく攻撃先はあの金髪のお嬢様見たいな奴だろう。

 ゴーレムが数体ディードに襲いかかり、何体か壁で遮り受け止めるも1体が破壊し抜けてくる。

 だが、投擲された細身の剣がゴーレムの腹部に刺さる。次の瞬間、1人の優男がゴーレムを蹴り飛ばし、剣を引き抜くと倒れたソレを即座に斬り伏せた。


「やぁ、お困りかい?」

「・・・・・・こんにゃろ」

 


「アレシアさん!? アレシアさん!!」


 リリーシャスは何度も呼び続けるが、一向に返事が返って来なかった。ついでにミラも応答がない。


『7位、そっちいった!』


 アリスからの通信で咄嗟に壁を張るが、飛んで来ていたのは暴走しているミリーが放った魔矢であり、難なく無効化され顔の真横を通り抜けていく。


「何やってんの」


 アリスとサクラは落下しながらそれぞれ居合を放ち、轟音が鳴り響く。そして、同時に空雪を使用し跳び上がると空蝉と刃幻が飛び交ったのち、再び接近し接近戦が始まる。


『申し訳ありませんわ。もしかしたら此方の人員に損耗が出た可能性がありますの』


 という通信が飛び、1発の砲撃がミリーを襲うが羽で防がれる。


「あー、だとしたら」


 距離をとり、空雪で道を作ると地双を放ち、刀を鞘に収める。


「抑えきれてない私のせいかも、にしてもやりにくい」


 あの不格好な2刀流は攻撃も防御も高いレベルで行っていた。単純にそのまま手数が増えたと言ってもいい。

 その分魔力消費はアリスの比ではない。戦闘可能時間自体はそう長くないはずだが、彼女も人のことは言えなかった。


『あー、おいハーレム君これでいいか』


 するとディードの声がリリーシャス達側の通信に入る。


『それでいいよ。リリー、言われた通り量産ドラウプニル渡したけど』

「ありがとうございますわ」


 トリガーを引き、移動を始める。


「あまり良い状況とは言い難いですが、詰めに入ります。まず──」


 そう言うと高度を下げ、再び放たれた魔矢を避ける。


『待て待て、先に倒しときたい野朗がいる。それと村の娘を守ってるんだがそっちに回ってほしい。つーわけでハーレム君お前向こう行け、一緒に居たくねぇ』

『酷い言われようだ。まぁ、仕方ないよね。どうしようか?』

「・・・・・・シャローネさん、敵を撒けそうでしょうか?」


 一服置いて通信が返ってくる。


『厳しい。けど、時間、貰えれば、数発なら、そっちの援護、出来るかも』

「了解致しましたわ。えーっと、亀さんの意見を採用致しまして、クロードさんは彼の仲間の救援に行って下さいまし。ではこのままわたくしはミリーさんの相手も──」

『誰が亀だ!? てかお前もハーレム君の援護行け! 俺がアレも一緒に相手してやっから』

「・・・・・・はぁ、わかりましたわ。ゴーレムの相手を致しましょう」

『お、物分り良い奴は嫌いじゃないぞ』

「一応、褒め言葉と受け取っておきますわ」

『ただし、うちの連中に攻撃したら許さねぇからな。特にスライム』


 最後の「特にスライム」という部分が強調されていた。特に大切な存在だと感じ取れた。


「流石にそこまで非道じゃありませんわよ。そちらこそ手は出さないでくださいまし」

『わーってるよ。お嬢ちゃん』

「おじょ・・・・・・。まぁいいですわ。クロードさん。申し訳ありませんが、一旦アレシアさん達が居た付近に行ってもらっても宜しいでしょうか。ついでに出来ればゴーレムを発生させている人なり、神装武具の破壊も頼みたいですわ」


 リリーシャスは地面スレスレまで高度を落とし、彼らの方へと向かう。


『了解。分かったよ』



「・・・・・・これ、"障壁"か」


 クレイドがうずくまっている槍の少女の前に立ち、彼女を守るように展開されている半球形の物質を触りそう呟く。

 そして、先ほどの女性がやけに死に際が潔かった事に合点が行く。


「なるほど、さっきのやつ。シルフィードか。だとしたら・・・・・・兄貴まずい」


 通信を入れながら、身を翻し歩を進ませ始める。


『どうかしたか?』

「シルフィードが混ざってた。さっき殺した奴」

『ほう、まずいな。起きるタイプか?』

「いや、今回は操作だと思う」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る