5章6節:混戦4
氷の壁の裏で密かに生成していた炎の玉を浮かせ、コボルドに向かって撃ち放つ。
それぞれ避けられ、地面に接触し爆炎を上げていく。
「・・・・・・これで僕の視界は最悪」
氷の壁に加え、燃え上がる炎。
それぞれ、氷は溶ける気配はなく、炎は草木に燃え移ってはいなかった。相当高い魔力操作を行っている事は、初めて対峙するコボルドでも容易に想像がついた。
腰に携えていたマチェットを引き抜くと、初めてまともに身構える。
「うーん、兄貴。そっちはどう?」
そう問いかけ周囲の警戒を強める。
視界を奪ったと言う事は奇襲が目的。そして、逃げようものなら罠があると見ていい。
『補足はした。もう少し待ってくれ』
「了解」
炎の中から身の丈より大きいランスを使う少女が突進して来た。
進行方向から跳び退る。そして、着地と同時に、彼の目の前を通り過ぎようとする少女に向かって跳びかかった。
しかし、防衛するかのように魔矢が降り注ぎ、隔てるように水の壁がせり上がり凍りつく。
「まずい」
数枚の半透明の壁を上空に発生させ、魔矢を防ぎ無効化魔法で凍結を防ぎ急いで距離を取る。
この後、クレイドは壁の向こうからランス持ちが再度突進。から同時に挟撃する形で姿が見えない魔法使いが攻撃し、魔矢で隙を埋めてくる。と踏んでいた。
その予想はすぐに裏切られ、氷で作った大剣を片手で持った魔法使いが氷の壁を乗り越えて来た。
「はぁい。変態さん!」
大剣には風の魔法を纏わせており、無効化魔法1つでは防ぎきる事が出来ず、振り下ろされた大剣をマチェットで受けると、使い手を蹴り飛ばす。
すると、3方向から振動している魔矢が接近し、接触する直前で爆発する。
「っぐ、視界を・・・・・・必要以上に、ウザいね!」
そう叫びながら前方に飛び出ると、視界が晴れた瞬間水魔法が襲いかかり、無効化魔法で無効にするが。
「やあああああ!!!!」
と、叫びながらランスを振りかぶり、走ってくる少女が視界に映る。
コボルドは一度腰に腕を回した後、防衛体勢に入る。射程範囲に入ると同時にランスが振り切られた。
彼は無効化魔法の対象を凍結魔法へと変更し、水魔法とランスをその身で受け止め吹き飛ばされる。
「や、やっと当たったです!」
「ミラちゃん逃げて!!」
「・・・・・・え?」
氷の壁にぶつかり、倒れるコボルドの手から複数のピンがこぼれ落ちる。
そして、ミラの足元には複数の魔法爆弾が散らばっており、次の瞬間起爆した。
◇
「ミラ、大丈夫!?」
森の奥の樹の枝の上で、2人の援護を行っていたシャローネが通信を飛ばす。
『げほっ、けほっなんとか・・・・・・』
「よか──」
突如背後から首に手を回され、顎を押し上げられる。
だが、同時に保険として仕掛けておいた設置魔法が発動した。地面から魔矢がシャローネを避けるように上空に向け撃ち放たれ、背後の敵を襲いかかった。
避けるためか、首を掻き切る事なく離れられ難を逃れる。
「あっぶない・・・・・・!」
そう呟きながら追加の魔矢を放ち、周囲を巡回するように飛ばし始める。
『アレシア、此方にも、敵が来た。援護、出来そうに、ない』
シャローネからの通信が入りアレシアはゆっくりと「分かった」と返す。
「流石にさっきの奇襲じゃぁ落ちない、か・・・・・・」
コボルドは立ち上がり、血反吐を吐き捨てる。
「しゃーない! 残存魔力気にせずいくよ!」
◇
「はぁ!? 手を組むっていわれても──」
「早くして、組むならこのままアレの相手してあげる。組まないなら7位を囮にして仲間を助ける」
アリスは攻撃を捌き、逃げながらそう言い放つ。
つまり、シャローネは生き残りたかったら手を組めと言われているのだ。提案というより恐喝に近いものであった。
「わ、分かりましたわ! 手を組みます! そちらも」
「分かってる。そっちには攻撃しないよ」
「なら、いいですわ。クロードさん、話は聞いていましたわね?」
『聞いてたけど、あのアリスさんと同じ出身っぽい人は?』
サクラが迫り、斬撃を放ってくる。それを刀で受け止めた。
だが、隙を見て放たれた居合が、アリスの足を掠め鮮血が噴き出る。
「此処までぇ!!!」
「斬って下さいまし!」
『了解』
すると、光の帯のような衝撃波がサクラを襲い、弾き飛ばした。
「がっ!? あんの男か!」
寸前で受け止めていた彼女は空中で回転し、体勢を整え移動する。
アリスはリリーシャスを降ろし、鞘をベルトから抜くと刀を収めた。
「さて、司令塔さんどうする?」
「・・・・・・全くもって調子が良いですわね。先ほどのわたくしとクロードさんの連携を覚えてらっしゃるでしょうか?」
彼女は浮かび上がり始める。
「あぁ、あの"雨"?」
そう言いながらアリスは縮地を使用し前に出て、サクラを斬り合い始める。
『そう、あの"雨"ですわ。仕掛けは単純ですのでわたくしの言うとおりに動いてくれればそれで』
「わかっ・・・・・・ん?」
サクラは急に接近戦から中距離戦へと切り替え、
アリスは避け、リリーシャスの方に飛んで行く斬撃を空蝉で撃ち落としていく。
「気付かれたね」
そして、彼女は先ほどとは逆に、2人から距離をとり始める。
『すごい嗅覚ですわね。旗色が悪くなったと悟った途端迷いなく引く。正直やりにくいですわ』
ディヴァインをハーフに切り替え、砲撃を開始するが命中する気配が見えない。
「私は追う」
そういうと、縮地を使用しサクラを追撃し始めた。
「さぁて、流石に3対1はまっずいけどぉ、アリスと戦いたいしぃ誰か手あいてなぁい?」
それじゃなくとも、アリスは残存魔力度外視で彼女の知らないフェイトを織り交ぜ、陽炎と呼ばれる認識をずらす技で更に戦いにくく、仕留めに来ていた。
引きながらサクラが通信を飛ばすと、クレイドが反応する。
『此方に1発くれればすぐにいけるよ』
「はいはい。方角」
『氷の壁がみえない? そこら』
チラリと確認し、攻撃の合間に1発の刃幻を言われた方角に放つ。
「適当に撃った。にしてもあの刀かったいなぁ。"エンチャントもしてないっぽいのに"折れる全然気配ないや」
◇
「ありがと。けど、もう1発こっちの合図で頼むよ」
とクレイドは通信を飛ばしつつ炎の玉を無効化し、誘い出すため後退し始める。
『えぇ・・・・・・まぁいいけど、"お礼"忘れないでねぇ』
「わかってるよ」
アレシアはちらりと魔力の塊が迫っている事に気がつく。
──他の敵に援護頼んだか。
彼女は氷の壁の裏に隠れ、投げ飛ばされたナイフを防ぐ。
「ミラちゃん、一旦更に距離取って危ないから」
『了解です!』
敵が下がっているのは誘い出すため、迫ってる攻撃を当てるため。なら、誘いに乗ることはない。
そう考えたアレシアは、風の魔法を周囲にばら撒き、両足に水属性魔法を纏わせる。
「準備はできたっと。次の攻防で決めないと一旦引いた方がいいね」
相性が悪いのもあるが、2人で仕留めきる手は魔力の消費が激しく、そのうえ確実性を欠く。倒せなければ一度引かなければアレシア自身が危ないためであった。
奥の手は博打。確実に発動させる方法もあるにはあるが、"死亡"する必要がある。
『皆さん、一時的にアリスさん達と協力関係になりましたわ』
「んお!? 急だね」
『き、緊急時でしたので・・・・・・』
『此方、ぶっちゃけ、そんなの、気にしてる、暇・・・・・・あぶなっ、ない!』
「んだねぇ。ま、それはとりあえず置いといてっ!」
迫っていた攻撃が到達し、氷の壁の1つが破壊された。
それが合図のようにアレシアとクレイドは同時に動き始めたのだった。
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