4章3節:置き土産、そして
工房から少し離れた所にある射撃場で試射は行われた。
追加された機能は2つ。1つは汎用性に重点を置いたもの。
実際使ってみての感想は「思った通り使いやすい」といった感じであった。
主用となるかは分からないが、使う頻度は多いだろう。
そして、もう1つは切り札となりえるものだが、今実際に試運転する分けにはいかなかった。
「うん、データもばっちし、デストロイはぶっつけ本番になるけどごめんね」
メガネを掛けた彼女が笑顔でそう言った。
「分かってますわ。頼んだのは此方ですし。にしても出来栄え良いですわね」
「主任自ら作ったらそりゃぁね。でもニコラ先輩にそれは言わないでね~。泣いちゃうから」
彼女はメガネを取ると背伸びをする。
「ん? ビアトリスさん此方のデータ取りはいいですの?」
と、アタッシュケースを指さす。
「あーそっちは取らなくていいって言うか寧ろ取るなって言われてるんだ」
ビアトリスは笑いながら答えた。
先ほど彼女がかけていたメガネは収集装置-クォーツと呼ばれるものであった。元となった神装武具は収集魔装-クォーツ。現在はコアが破損し使用不可能。だが、元より量産型とさほど能力が変わらないため問題はなかった。効果は対象を固定し、その対象が使っている武器のデータを取るというもの。魔力放出量や強度や魔力浸透率等、神装武具であればコアの活性率が取れる。主にブラックスミスで使われており出来栄えの1つの指標にされている。
戦闘ではあまり役には立たない代物である。
「分かりましたわ。開けても?」
「どうぞどうぞ。リリーシャスちゃんに、だし」
ゆっくりとアタッシュケースを開くと1つの拳銃と複数の銃弾が入っていた。形はリボルバー、シリンダー数は8つ。グリップにはコアが埋め込まれており、少しだけ覗かせていた。
「えっ・・・・・・? 銃型!?」
「そのようですわね」
これを見て2人は驚いていた。
──・・・・・・一応、ディヴァインがキメラタイプと銃・砲型の試作の立ち位置ですけど、もう次が出た。にしてはやけ早いですわね。ということは、これはわたくしが認知していない場所で製造されたと見る出来でしょうか?
魔力を込めるとコアが淡く光り活性化し2人は更に驚き顔を見合わせる。
「はは、お姉様とんでもない置き土産ですわよ。説明がほしいくらいですわ・・・・・・」
「あ、知らない奴系?」
「ええ、全くもって認知しておりませんでしたわ」
銃弾を1つ手に取り見つめる。弾頭は半透明になっていた。
「これ、
「なにそれ?」
リリーシャスは簡潔に説明を始める。
現在はライフル、拳銃の2種類。使われている弾の弾頭は基本鉛。そして、魔力生成の壁や自己強化等で簡単に防がれる事が多く、特にライフルは連射が効かない事からほとんど使われない。そもそもが避けられる事すら多い始末である。
威力もエンチャントが即座に剥がれ以後追加で行えない事から魔矢に数段劣るとさえ言われている。
以前存在していた銃・砲型は魔弾を使っており、そちらでは異様な威力を誇った。だが、魔弾はコアを通して生成しなければならないため一般兵装では使用が出来ない。
更に銃・砲型の神装武具を作ろうにも、元となる神装武具の製造ロットが特殊過ぎたため現在行っている製造では複製がまともに出来ない。出来ても一般兵装以下のもので到底使い物にならない。
そのことから"先に"開発が始まったのが魔合弾。弾頭に魔力合成合金と呼ばれる金属を使用し、魔力を封じ込ませ一般兵装でも魔法の効果をもたせた銃弾を撃ち出すのが目的だった。
しかし、魔力合成合金は強度があまり高くはなかった。更に、魔力を多く詰めなければ威力が出ない関係上、弾頭に使用されている物はとても薄く作らなければならなかった。その結果発射時に弾頭の魔力合成合金が割れ、魔力が漏れ出し通常弾より威力が低くなってしまった。
「以後も改良はされ続けていましたけど、わたくしが知っている範囲は全て失敗。使い物になりませんでしたわね。そこからディヴァイン製造ですけど、これと一緒に送りつけられるとは思いもよりませんでしたわ」
魔合弾を1発込め、リボルバーを構える。
そして引き金を引いた。放たれた弾は大きくそれ、左隣の的に当たり的の半分を弾き飛ばす。
命中難なんて生易しいものではなかった。まず中距離以降では当たらないだろう。
「・・・・・・あー、これはまともに使えたものじゃありませんわね」
ビアトリスはお腹を抱え笑っていた。
流石にリリーシャスも、この結果は予想外すぎて思わず顔が引きつる。
「で、でも威力は、ぷぷ、いいね。あははは」
「確かに、魔合弾は申し分ないですわね。問題はこの銃の方ですわ。ビアトリスさん、これの固有名称は聞いていますでしょうか?」
「聞いてるよ、えっとね」
「パーツの調整する? 多少はマシになるかも」
「いえ、必要ありませんわ」
1発撃ってみての感触としては銃身が悪いというより、コア側の問題であろうことは予想がついていた。
「それより、足に付けるタイプのホルスターはありますでしょうか」
「勿論あるよ。探して渡すね」
「ありがとうございますわ」
銃をアタッシュケースに戻し、ディヴァインを持ち試射場を後にした。
工房に戻ると小さな人集りが出来ていた。
そして、リリーシャスには心当たりが1つあった。ビアトリスもなんとなく察しているように思える。
「助ける?」
「じゃないと、あの子が可愛そうですわよ」
「ですよねー」
更に近づくと、人集りの中心人物が彼女らに気が付き叫ぶ。
「リ、リリーシャスお姉ちゃーん! たすけ、クッキーがー!!!」
半泣きのミラの顔がちらりと見えた。恐らく言動からして、焼いてきたと思われるクッキーが食べられたのだろう。
ブラックスミスにて彼女は異様な人気を誇っていた。可愛いからと見つけたらゾンビのように寄って行き、頭を撫でる集団へと成り果てる。場合によっては頬ずりをしたりする連中や、餌付けまで始める輩まで現れ始めてる始末だ。
そんな奴らが居る所に、手作りだと思われるクッキーをもったミラが現れたらどうなるだろう。現状をみるにとても酷い事になったのは想像に難くない。
リリーシャスは自身が居れば大丈夫だろうと考えていたが、試射に夢中で忘れてしまっており、申し訳ない事をしたと思っていた。
ディバインとケースをビアトリスに渡すと手を叩きながらこう言い放つ。
「はいはい、見世物小屋はおしまいですわよー」
「ちぃ、もう戻って来たか・・・・・・」「もう少し、射撃場に居れば良かったのに」
等々の捨て台詞を吐きながら意気消沈した面々は、素直にゆっくりと工房内に戻っていく。
開放されたミラは走り、リリーシャスに抱きついた。
「ごめんなさい。隠れてたんですけど、見つかってクッキーが・・・・・・」
「此方こそ申し訳ありませんわ。来るのは予想出来てたのに試射してまして」
彼女の頭を優しく撫でてやる。
「ミラちゃんも大変だね~。ごめんね。うちの人達が」
「い、いえ慣れてますから」
そう返したミラの声は震えていた。
やはりというべきか当然というべきか相当怖いと見える。
「そういえばビアトリスさんは、他の人みたいにミラさんに群がりませんわね」
「私は単純に友好的に接したいってだけだし、あまり態度変えたくないからね。それに、私以外にも何人かいるよ? と言うかそもそもうちの人達飢えてる人が多いのが問題だし」
彼女は笑った。
「飢えてる・・・・・・?」
「そうそう。飢えてるの。男は狼っていうけどうちの人達見てると、女だって狼じゃんってなるんだよね~。あ、そろそろ戻らないとだけど、此処置いてっていい?」
「問題ないですわ。本日はありがとうございました」
「此方こそ、主任がデストロイのために予備は早めに作っとくって言ってたよ。ホルスターは後で持ってく。じゃぁね」
地面にケースとディヴァインを置きながらそう言うと、彼女は走って工房に戻っていった。
「そろそろ、ミラファンクラブなんて出来てそうですわね」
「えっ!? 困りますよぉ」
「・・・・・・確かに困りますわねぇ。出来てない事を祈りながら戻りましょうか」
「はい。あ、ケースは持ちます!」
ミラはケースを持ち、リリーシャスはディバインを拾い上げると手を繋いで校舎の方に歩いて行った。
「ミラさん、シャローネさんにクッキーは?」
「シャローネお姉ちゃんはお見舞いに行く前に渡しました。リアナお姉ちゃんと2人だったので、ちゃんと食べれたと思います~」
いつもリアナと一緒にいるクラディーネはレスト達とこの後出る事を思いだし、リリーシャスは「あー」と呟く。
恐らくクロードは何時も通りだと、手伝っているもしくは試食役をやっているので、食べそびれた心配は皆無だろう。
後はレストだが、問題なく食べれているだろう。
「じゃぁ、2人でまた後日クッキーを焼きましょうか」
「2人ですか?」
「えぇ、2人で。何でしたら皆さんを呼んで盛大にやます?」
「それ、楽しそうです!」
そう返したミラの声のトーンがはね上がる。
「では決定ですわね。レストさん達が帰って来たら日程のすり合わせを・・・・・・」
彼女は立ち止まると正面からやってくる女性を見つめる。
「副会長、何か用ですの?」
「ええ、退院直後の病み上がりの身で悪いのですが、頼みごとがありまして」
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