3章6節:深緑の中のコテージ1
採ったキノコや山菜、残っていた食材を使いリザ之助は器用にスープ、サラダ、干し肉を使った炒め物を作り上げて見せた。デザートにはケラの実の果肉を一口大に切ったもの。
量も申し分なく、味は非常に美味である。
「そういや、罠あったろ」
昼食を食べながらディードは罠の事を切り出す。
「私が引っかかった奴ギャね? それがどうかしたギャか?」
ディードは口に運んでいたサラダを急いで飲み込むと口を開く。
「んぐ、考えるにこの近くに、家ないし村があるんじゃねぇかと思うのよ」
罠は主に2種類の用途で使われる。
1つ目は侵入者の撃退及び足止めが主となる物。
2つ目は知性が低く弱い魔物を生け捕りにし、食料とするのが主となる物。
今回ギャスが引っかかった罠は、高確率で後者の用途で作られ、仕掛けられた物だ。引っ掛かりはしなかったが、他にも幾つかギャスが引っかかった物と同一の罠を発見し破壊していた。
地図に載っている一番近い街からは罠を貼るにしては遠く、可能性が低い。となると、家か地図に載っていない村が存在する。と彼は考えていた。
「探すんですか?」
ケラの実を口に運びながらリザ之助が問いかける。
「探す。村なら位置だけを確認し撤収。1軒だけの家なら様子を見て」
「制圧ギャ?」
「いや、流石に制圧が必要そうなら引く。ただ空いているなら間借りする」
村や街と言った場所に存在しない空き家はよく旅人、旅商人、山賊や盗賊に勝手に使われている事が多い。
特にこういった森や山に存在する場合は重宝され、最悪家主を排除して無理矢理使うケースもあるほどだ。
そういったリスクもありこういう場所で家を建てる場合は戦闘力に自信があるもしくは、いつでも逃げる準備ができているかのどちらかとなる。現につい最近まで山奥で暮らしていたディードとスラはすぐに逃げられるよう必要最低限の物しか用意せず、大切な物は常に所持していた。と言うより無かったという方が正しいが。
「では、手分けして探しますか?」
「そうする。が、今回は通信機は入れた状態で探すぞ」
通信機は便利ではあるが、少なくはあるが負荷が掛かり何より魔力消費が想定より多く普段はあまり使わないようにしていた。
「分かったギャ。ふぅ、ご馳走様ギャ~」
ギャスはパタパタと飛び始める。
「ごちそうさん。リザ助、片付けは後でいい」
ディードは立ち上がり、片付けようとしたリザ之助も手を止め立ち上がると捜索を開始した。
彼の予想とは反し、散って捜索を開始し30分が経つが一向に見つかる気配がなかった。
かなり自信があっただけにディードは内心悔しがっていた。
『ないギャね~』
「おっかしなぁ。リザ助はどうよ?」
と問いかけるが反応がない。
『お~い、リザ之助~? 何かあったギャ?』
ギャスも話かけるがやはり反応がなかった。
『・・・・・・魔王様、向かうギャ?』
「ああ、そうしよう。ギャスこっち来れるか?」
『すぐ行くギャ』
と、2人が向かう算段を立てていると、リザ之助の声が聞こえてきた。
『あ、すみません。びっくりしてて』
「見つけたか!?」
とてもいい物件だと言われ、ディードは急いで向かう。
ギャスは向かわず、スラとアリスが戻ってくるかもしれない事と、本人が死体があった場合、あまり見たくないと言う理由で量は少ないが荷物がある場所で待つ事となった。
彼は死体くらい見慣れてるだろうに。と考えたが、この状況はディードにとってちょうど良かったため口にすることはなかった。
「っと、此処か。へぇ・・・・・・確かにいいな。だが普通の家ってより別荘とかの類に見えるなぁ」
深緑の森の中に2階建てのコテージが1件建っていた。真新しい印象を受けるが趣きがあり、建てた人ないし依頼した人の拘りが伺える。
コテージの周囲には薪、仕掛けられていない罠や作りかけの罠、斧や鎌と言った道具。ベランダにはテーブルと椅子が一式等々揃っておりとてもリザ之助の言う通り良い物件だった。
ただし、血痕や転がっている1体の死体がなければの話ではあるのだが。
先についていたリザ之助が此方に気が付き手を振る。歩いて彼の元に向かうと口を動かし始める。
「ま、どっちでもいいな。今日は野宿せずに済みそうだし」
「そうですね。にしても、ものすごく綺麗な状態で残ってますね」
先約が使った後であれば大抵何処かしら荒れている場合が多い。更に死体がそのままというケースはもっと少ない。
何処かに捨てられるか埋葬されるか魔物によっては食べられ原型がなくなると言った具合だ。
つまりこのコテージは襲撃者以外、先約が未だ来ていない事になる。尤も、腐っていない死体を見る限り襲われたのは1~2日前ぐらいだろう事は予想ができた。
「少し前なんだろうな。襲われたの」
ディードは歩いて行き、死体を避けながらコテージのドアを開き中に入っていく。
中は閑静としており、特に荒らされた形跡も見当たらない。テーブルにはティーカップが2式。襲われたのは休憩中か。などと考え一歩踏み出すと何かを踏んだ感触があり目線を落とす。
すると、死体から伸びた腕を踏んでいた。舌打ちをしながら避けて進むともう1体死体を発見する。
「ディードさん、中はどうですかー?」
外からリザ之助の声が聞こえ、周囲を探索しながら返事を返す。
「死体どうにかすりゃ問題なく使えそうだ。家財道具も揃ってるしな」
棚の上に7人の男女がコテージを背に一緒に写っている写真が、写真立てに入れ飾っているのが目に入る。
外で見えた死体の人物が写真に写っているのを確認できた。家主と仲間達かはたまた7人全員家主かは分からないが関係者の集合写真という事は明白だった。
──最悪死体は7体か。
そう考えながら写真立てを倒しコテージの外に出る。
外ではショベルを使い地面を掘り始めているリザ之助の姿があった。
「埋めるのか?」
「あ、はい。埋葬しようかと思いまして」
「そう、か」
彼はゆっくりと歩いて行き、手にハルバートを生成していく。
「ん、ディードさん?」
リザ之助が彼が近づいて来た事に気が付き振り向くと、目の前にハルバートの槍の部分の刃が向けられる。
「こういうの、スラはお前見たいなの相手に、こういう事やるのあまり好きじゃないからやんねぇようにしてんだが・・・・・・なぁ、リザ助。なんか隠してる事ないか?」
ディードの目は据わっており、これまでの何処か優しげな雰囲気は一切なかった。
冷徹で、暗く、鋭い。そのような印象を受ける。
「な、なんの事でしょう?」
彼は苦笑いを浮かべながらそう逃れる。
「なんもかんも全部喋ろって話じゃないからな。ただ、俺とスラ・・・・・・それとアリスに何かやばい事隠してないかって話でそれだけを喋ろって事だ。な、簡単だろ?」
リザ之助の頬を冷や汗が伝った。
そして、突然その場で土下座をし、こう言い放った。
「すみません! 先日の戦闘の時、ランスの女の子の頭を狙えたにも関わらず、わざと矢を外していました!」
想定外の答えが返って来てディードの頭が真っ白になり、数秒ほど静寂が訪れる。
「・・・・・・いや、その事じゃねぇよ! それも問題っちゃ問題だが、兎や角は言わねぇよ!」
──そもそもの話が、だ。あのランス娘仲間の仇じゃないのかよ。
「あれ? 他になにかありますか?」
リザ之助は顔を上げた。
「もっと、こうあるだろ? お前の所属してる所とか」
「私の所属ですか。反乱軍ですが? 何か問題がありましたか?」
「そう、はんら・・・・・・隠してたんじゃねぇのかよ!?」
あまりにも隠そうとしている態度がなかったからか、思わずそう突っ込んでいた。
「え? なんで隠す必要があるんです?」
「あぁ!?」
あまりにも話が噛み合わず、彼の顔は引きつっていた。
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