魔王の子孫

猫缶珈琲

1部

1章

1章序節:前任達の最後

 人と魔物、そして魔族を交えた戦争は長年続いていた。

 世代を超えても、年代を超えても永く、辛く、そして残酷な戦争は続く。

 時に人は「この戦争は終わらない」と口にし、時に魔物は「この戦いは天使の手で終わりを告げる」と口にした。


 泥沼化する戦場もあれば、人類領と魔物領の境界に商いが盛んに行われ人と魔物が関係なく共存し中立化してしまう街も存在していた。

 そして、ある日の事である。


 人類軍が当時"勇者"と定めた戦士を中心に優秀な者を9人集め、十剣聖騎士団じゅっけんせいきしだんと呼ばれる部隊を設立、攻勢に入ったのだ。

 彼らを中心に快進撃を繰り返す人類軍に嫉妬、対抗して魔王軍も消滅させていた四天王を再度設立し応戦。


 だが、その健闘も虚しく、魔物軍は敗戦を繰り返し遂に人類軍は魔王城攻め込み王手をかけていた。 

 燃え盛る城下町、一部が崩壊し、突破されその機能を成していない外壁部。

 逃げ惑う者、戦う者、隠れる者。攻める人、兵を動かす人、そして無双する勇者。

 魔物軍はもう四天王も2名しか残っていない。優秀な部下も半数以上を失っている。


 かたや人類軍は幾明かの十剣聖騎士団員が死のうと、未だ勢い衰える事無く王城を目掛けて進軍してきている。

 王城から見下ろす戦況は火を見るよりも明らかだった。

 その時である。魔王の防衛についていた女性の四天王から、王城を捨て撤収の準備を進言されたのは。


「退却? 何処に逃げるというのだ。此処より他に逃げる場所なぞ私は持ちあわせては居ない」


 偉大なる父から託された城であり、どのような財宝より、富より大切な我が城と考えていた魔王は進言を却下し、こう命令を下した。

 まず、我が子である幼いヴィアンを王城より退避させること。

 次に、前線に赴いている四天王であるスカルネルに全軍撤退の指示、王城より退避すること。

 最後に、この戦後魔物軍に未だ加担していない勢力へのコンタクトを行う。という計3つであった。

 一見すれば彼女の進言通りに聞こえる命令であったが、そうではなかった。


「それでは魔王様は如何するおつもりですか!?」


 そう、撤退に魔王が含まれていなかったのだ。


「言ったであろう"此処より他に逃げる場所なぞ私は持ちあわせては居ない"と。私は、奴らを迎え撃つ。何、貴様らが逃げる時間ぐらい稼ぐさ」


 そう言って歩み出そうとする魔王の前に女性の四天王は立ちはだかり、私もついていきますと叫ぶように言い渡す。

 だが、彼は鼻で笑う。


「これは我侭だ。そう、ただの我侭だ。魔王という地位なぞ関係ない。私の個人的な"問題"だ。それに奴らは私の首を手に入れるまで満足はせんだろう。そうなれば再建もままならぬだろうな。・・・・・・後は任せたぞ」


 「ですが・・・・・・!」 と、彼女は食い下がろうと思うも声が出ず、体も動かなかった。そして、そのまま彼の姿が見えなくなるまでただ呆然と見る他無かった。

 最後に彼は魔王城を歩きまわり、色々な思い出が頭を駆け巡っていた。

 そして、ふと2人の腹違いの息子と娘を思い出した。


 今は元気だろうか、本当に母親に任せっきりで良かったのだろうか。などと、柄にもない事を考えていると轟音と共に小さな衝撃が身体を伝わる。

 方向としては城門の方角からだった。どうやら破られたらしい。

「・・・・・・さて、魔王としての最後の仕事をしなきゃぁな」

 


 程なくして、魔王城は陥落。魔王は討ち取られ、人類軍が勝利を収めた。勇者という犠牲を出しながら。

 人類軍は、勇者を失った事により揃っていた足並みが乱れ、混乱する事となる。

 その結果、撤退した魔物軍が他勢力の協力を取りつげ各地の戦士を集め、反転攻勢に出る時間を与えてしまっていたのだった。

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