209話 オウサマノゲエム 後編
「5番の方は1番の方に愛の言葉を囁いて下さいませ」
「「「「「え?」」」」」
ついにアリエルさんが王様になってしまい、どんな命令が来るのか構えたものの、発せられた命令はまさかの内容だった。
ヤバイ……何がヤバイって、今アリエルさんが指定した5番は俺なんだよ。
クロエさんの時と同様、また俺なんだよ。
動揺と焦燥のあまり二回言ってしまったが、俺に好意を抱いている女性三人がいる中で1番の人にだけ愛の言葉を囁けなんて、なんとも酷い命令を出してくれたもんだ……。
「さて、どなたが5番と1番を引いたのでしょうか?」
「わ、私は違います!」
「私、も……」
「ワタシもだな……」
俺が5番なのと、アリエルさんは王様なので除外するとして、ゆずと菜々美とクロエさんは1番じゃない……ということは……。
「えっと、1番はボクです……」
消去法でルシェちゃんしかいない。
当の本人は恐縮しているようで、自分が愛の言葉を囁かれることに幾分、緊張気味の様子だ。
実際、ルシェちゃんが1番だということで、彼女が俺に愛の言葉を囁かれることに気付いたゆず達が、羨望と嫉妬の混じった眼差しを向けている。
頼むから止めてあげてくれ。ルシェちゃんが余計に緊張するから。
「となると、5番の方はツカサ様ということになりますわね」
「──そうですよ。なんでこうもピンポイントに……」
「うーん、これは王様にという形にしておくべきでしたわね……」
アリエルさんの指摘に観念して自分が5番だと肯定すると、アリエルさんは惜しいことをしたと言わんばかりに、眉を八の字にして残念そうな表情を浮かべた。
「まぁ、まだチャンスはございますし、ひとまずはルシェアに愛の言葉を囁いて下さいませ」
「は、はい……」
「あ、ちなみに手を抜かれないように、ルシェアの心をしっかりとときめかせて下さい」
「なんでわざわざハードルを上げに行くんですか!?」
言外にルシェちゃんを落とせって言ってるようにも聞こえるが、それをしたところで自分の恋路のライバルが増えるだけだと理解しているのだろうか?
「……」
「……」
アリエルさんの命令に従う為、俺とルシェちゃんはお互いに向かい合って立つが、緊張をしているせいでまともに言葉が出なくなっていた。
自分の心臓の音が鼓膜にまで届く有り様に、対面のルシェちゃんに聞こえていないか不安になる。
対するルシェちゃんなんて、顔を真っ赤にして俺をチラチラと見ていることから、明らかに緊張していることが判るくらいだ。
ちくしょう、こういう時にこそいつものジゴロ癖が出てきてくれればいいのに……。
いざ王様ゲームの一環とはいえ、ルシェちゃんに愛の言葉を囁こうとすると途端に思考がフリーズするとか……。
そもそも、俺は未だに愛の言葉どころか、まともに女子相手に告白をした経験がないんですけど。
どちらかというとされる側だった回数の方が多いくらいだ。
それもそれでおかしい話だが、ひとまず置いておくとして……愛の言葉なんてどう言えばいいのかわっかんねえよ。
しかもアリエルさんから絶対にルシェちゃんの心をときめかせろって無茶振りもされてるし、ストレートに言っても意味がない気がするけど……変に飾るよりよっぽどマシだ。
それで行こうと決めて、そわそわしている後輩に声を掛ける。
「えっと、ルシェちゃん」
「は、はいっ!」
がっちがちだなぁ……でも、彼女の緊張が落ち着くまで待つ時間もないし、ここは耐えてもらうしかない。
「──愛してる」
「──ふ、ぇ……」
自分でも驚く程すんなり出た愛の言葉に、ルシェちゃんは目をこれでもかと見開いて俺をまじまじと見つめるという、割と
──もうこれでよくね?
そう思ってアリエルさんに目配せをする。
だが、女王様は無情にも首を横に振って合格点に届いていないと仰られた。
いつか絶対見返してやる……そう心に刻みながら再び口を開く。
「あの時誓ったみたいにルシェちゃんの日常を傷付けようとする奴から、俺は絶対に君を守るよ。心の底からそうしたいって思えるくらい、大切な後輩なんだから」
「あ、え、ぅ、はうぅ~……」
ぷしゅ~という音が聞こえそうな湯気を顔から立てるルシェちゃんを見て、俺は完全にやらかしたと両手で顔を覆う。
ちなみに女王様はサムズアップするくらい満足されたようです……死にたい……。
「──司君」
「──ちょっと、ホール前の廊下で話したいことがあるんだけど……」
「違うんです待って下さいお願いします!!」
一部始終を見ていたのにも関わらず、何故がドス黒い怒りのオーラを発するゆずと菜々美に詰め寄られる。
全身に冷や汗を感じつつ、俺は二人に慌てながらも何とか弁明を試みる。
魔導士と魔導少女の日常を守る為に、人の悪意と戦うと決めたことはゆず達にも話してあるし、王様ゲームのルール上行ったことだということは、二人も重々承知のはず……。
「待ちません! 私を除け者にしてルシェアさんにあんな素敵な言葉を伝えるだなんて、納得出来ません!」
「そうだよ! 私とゆずちゃんだって司くんのことが好きなんだから、私達にもあ、愛してるって言ってくれないと嫌!」
「ええ、ワタクシにも仰って下さらないと、これでは不公平ですわ!」
「あんたが命令したことだろうがぁっ!! なんでしれっと混ざってんだ!?」
さも当然のように加わるアリエルさんにツッコミを入れる。
そんな反応をするんだったら、最初からあんな命令するなよ。
「だぁっ、とにかく四回戦目に移るぞ!」
三人には悪いが、進行を滞らせるわけにもいかないため、強引に次を始めるように促す。
「むぅ……」
「う~、でもぉ……」
「せめて一言だけでも……」
当然ゆず達は不満を露わにするが……。
「えっと、ゆずさん達が王様のアタリ棒を引いて、自分に言ってもらうようにすればいいんじゃないでしょうか?」
「「「!!」」」
ここでようやく復活したルシェちゃんからの鶴の一声で、ゆず達はささっと素早く臨戦態勢に入った。
そっかぁ、そういえば良かったのかぁ……。
そんな簡単な言葉が出なかった自分にほとほと呆れつつも、四回戦目が開始される。
「「「「「「せーのっ!!」」」」」」
これで四回目……さて次は一体誰が王様になr──俺だ。
ゆず達が俺から愛の言葉を囁かれるために必要な王様のアタリ棒を、俺が引いちゃったよ。
恐る恐るゆず達の表情を窺うと、ゆず、菜々美、アリエルさん、クロエさんは王様ではなかったことに悔しそうな表情を浮かべている。
ゆず達は俺に命令するチャンスが得られなかったこと、クロエさんはアリエルさんに対するものだろう。
ルシェちゃんはまださっきの愛の言葉が抜けきってないのか、俺の方をチラチラと見て来ている。
きっっまずい……どうしてこうも間が悪いんだ……。
というかさっきから、妙に俺が名乗り出にくい状況ばっかりなのはおかしくないか?
いや、そのことを悔やむ場合じゃない。
俺は自分が王様のアタリ棒を引いた事をゆず達に伝えなくちゃいけない。
「あー、俺が王様だ」
「「「!!」」」
そう名乗り出た途端、ゆず達の目がギラっと俺へと向けられた。
正直悲鳴を上げなかったことを自画自賛したい。
それくらい今の三人の目は怖かった。
「つ、司君! わ、私はエッチな命令でも構いません! ですので番号は──」
「ちょ、駄目だよゆずちゃん! 私だってそう言いたいの我慢してるのに!? つつ、司くん! 私もどんな命令でも大丈夫だから!」
「ワタクシはレティシアお母様より房中術を教わっておりますわ! ですので、必ずやツカサ様を満足させてみせますわ!」
「待て待て待て待てっ!!?」
自分が王様を引くことを想定していなかったので、どんな命令をしようか考えをまとめる前にゆず達が願望垂れ流しで、自分に命令するように促そうとして来て、慌てて制止する。
というか色々おかしい。
ゆずは自分の番号を教えようとするし、菜々美は制止するかと思いきや自分も大丈夫だと言い張るし、何よりアリエルさんが一番ヤバイ。
房中術って、レティシアさん……アンタ自分の義娘になんてことを教えてるんだ……。
多分、レナルドさんを巡ってローラさんと色々あったんだろうけど、だからってなんでアリエルさんにまで教えるんですかねぇ……。
アリエルさんの豊満な体でそんな攻めをされたら、俺の理性がどんどん削られるのは目に見えている。
ここまで来ると、アリエルさんが悪戯好きな性格に育ったのもアルヴァレスの血筋ではと、疑ってしまいそうになる。
それとエロで男の心を惹こうとするように指導した覚えはありません。
後でお説教な。
というか、いい加減命令を決めよう。
じゃないとあらぬ方向に話しが行きそうなので、俺は咄嗟に思いついた命令を出すことにした。
「そ、それじゃ、4番と5番の人は次の命令が来るまで、語尾に〝にゃん〟を付けて喋ること!」
「「ええっ!!?」」
俺が指示した番号を引いたのか、ゆずと菜々美が驚きの声をあげた。
内心俺も驚いてる。
もし三人の言うとおりに何かエロい指示を出したとしたら、二人がすることになっていたからだ。
あっぶねぇ、二つの意味で助かった。
「う、うぅ、司君が命令してくれたのに、普通に酷いです──に、にゃん……」
「こ、これはこれで恥ずかしい、にゃん……」
「き、貴様! ユズ殿とナナミ殿になんという辱めを……」
「あらら、確かに中々厳しい命令ですわね」
「か、可愛いので大丈夫ですよ?」
あれ、健全なはずなのに責められてない?
いや、下着を見せろとかそういう命令をするよりは全然マシなはず。
俺は悪くない……俺は悪くない……。
「それでは五回戦目に移りましょうか」
「はい、にゃん」
「分かったにゃん」
菜々美、意外と順応早いな……。
ゆずはまだちょっと言い淀んでるけど、まぁいい。
「「「「「「せーのっ((にゃん))!!」」」」」」
あ、そこもにゃん付けるんだ……っとと、流石に連続で王様になることはなかったか。
ちらっと見た感じ、ゆずと菜々美、アリエルさんは眉を顰めているから王様じゃないのは分かった。
クロエさんの表情は平静そのものだが、特に何も言わないと言うことは彼女も違うだろう。
なら……。
「えっと、今度はボクが王様みたいです」
「お、ルシェちゃんの番か。お手柔らかに頼むよ」
申し訳なさそうに挙手をするルシェちゃんに、俺は励ましも兼ねてそう声を掛ける。
あくまでゲームなんだから、そこまで恐縮しなくてもいいんだけどな。
それに彼女なら変な命令はしないと確信しているのもある。
「は、はい。それでは、王様の命令です!」
俺の励ましが効いたのか、ルシェちゃんは明るい声音で命令を口にする。
その内容は……。
「3番の人は王様の頭を撫でて下さい!」
今までで一番可愛い命令だった。
というかこれは誰が3番でも、ルシェちゃんにとっては不満は一切ない。
アリエルさんやクロエさんはもちろん、ゆずに菜々美にも彼女は尊敬の念を抱いている。
そんなルシェちゃんの命令は、何とも微笑ましくなるものだ。
でも、一つだけ残念なことがある。
「俺が3番だな」
そう、肝心の3番が俺なんだよなぁ。
さっきから妙に当たる気がするけど、気のせいだよな?
「え! ツカサさんが3番なんですか!? ツカサさんの撫で方は凄く好きなので、ボクとっても嬉しいです!」
「そ、そうか……」
だが俺の予想に反して、ルシェちゃんは満面の笑みを向けて来た。
そこまで喜ばれるとは思わず、俺はドキドキしながら相槌を打つしかなかった。
確かにルシェちゃんの頭を撫でたことは何度かある。
撫でやすい位置に頭があるから、ついつい撫でてしまうのだが、その度に彼女は猫のように嬉しそうな表情を浮かべる。
というより、男の俺に触れられることには何の忌避感を抱いていないようだ。
元フランス支部長のダヴィドからあんな目に遭わされたというのに、警戒心が薄いというか、信頼されている証拠なのか……後者だとしたら先輩明利に尽きるな。
「どうして私の時は司くんじゃなかったにゃん……?」
「何故ワタシはアリエル様の番号を当てられなかったんだ……」
「少し様子見に移ったことは失敗でしたわね……」
「私に至ってはまだ王様になってにゃいです……」
自分の狙い通りに行かなかった人達がルシェちゃんを羨望の眼差しを向けるが、そこばかりは俺にもよくわからん……。
とりあえず、王様となったルシェちゃんの命令とあれば、俺は彼女の頭を撫でるだけだ。
「それじゃ、嫌になったら言ってくれよ?」
「ならないので大丈夫です」
にべもなく言い切ったな……。
ここまで懐かれると、本当に甘やかしたくなってくる。
その気持ちを存分に示すべく、俺はルシェちゃんの青髪の頭に掌を乗せる。
ポスっと柔らかい髪の感触が手に伝わって来た。
毎日しっかりと手入れされているだろう、女の子らしくふわりとした香りが鼻を擽ってきて、思わずドキドキと妙に意識してしまう。
そんな気持ちを押し殺しつつ、ゆっくりと彼女の頭を撫でていくと、ルシェちゃんは「えへへ」とはにかみだした。
「やっぱり、ツカサさんの撫で方がポカポカしてて一番好きです」
「そ、そっか……それは良かった……」
さっきアリエルさんの命令とはいえ、彼女に愛の言葉を囁いてからの〝一番好きです〟という言葉に、さらに胸の高鳴りを感じた。
違う違う……ルシェちゃんが言ってるのは俺の撫で方であって、俺のことじゃない。
そこをはき違えちゃだめだ。
「ルシェアさん、羨ましいにゃん……」
「あぁ、あんなに幸せそうに……ずるいにゃん……」
「次に王様になった際には、頭を撫でられるのも悪くありませんわね」
俺に好意を向ける女性三名からの羨望の視線を受けつつも、一分程存分に撫でた俺はルシェちゃんの頭から手を離す。
その際、ルシェちゃんは若干寂しそうな表情を浮かべるが、自分ばかり得をするのも忍びないという気持ちからか、素直に引き下がった。
大変心苦しいが、あまり欲を出さない彼女らしいと割り切ることにする。
「えっと、それじゃ次は六回戦目だな」
「はい、まだ私だけ王様になっていないので、早く始めるにゃん」
我欲のメーターが振り切ってるよゆずさん……。
とはいっても彼女の言うことにも一理あるので、早いとこ進めるにこしたことはないか。
「「「「「「せーのっ((にゃん))!!」」」」」」
全員で棒を一本ずつ摘まみ、声を揃えて一斉に引き抜く。
アタリ棒じゃないことから、俺は王様じゃないことは判った。
次は誰が王様になったのかと、またゆず達の様子を窺おうとすると、隣でガタッと立ち上がる音が聞こえた。
あれ、確か俺の隣って……。
「や、やりました! 司君、ついに私が王様です!」
なんと、六回戦目にして遂にゆずが王様の番となった。
その表情は非常に歓喜に満ちたもので、今にも天に昇りそうな程だ。
滅多にしないドヤ顔までして、これでもかと菜々美とアリエルさんを煽り、煽られた二人はムキーッと怒りを露わにしてる。
うん、まぁ、俺もちょっとイラッとした。
「あ、ゆず。ちなみに王様になったからといって、語尾に〝にゃん〟を付けなくてもいいってことにはならないからな」
「にゃんっ!?」
そんなに驚かなくても……元々次の命令が来るまでっていう内容だし、王様になったら解除だなんて一言も言ってないぞ。
だからこれは決してドヤ顔でイラッとした仕返しじゃない、ないったらない。
「ご、ごほん……それでは、つか──1番の人は私にキスをして下さいにゃん!!」
ニアミス!!?
菜々美に続いてゆずも自分の願望を反映させた命令を出すが、非常に残念なことに俺は〝2〟番だった。
なので、ゆずの目論見は早くも破綻してしまっている。
俺は一体王様ゲーム中に何度、気まずさを感じなきゃいけないんだろうか……。
「まぁ、なんて可愛い子猫なのでしょう……それでは命令ですので、失礼致しますわね♡」
「にゃにゃっ、アリエルさん!?」
そうやってゆずを憐れんでいると、ゆずが命令を下した1番を引いたがアリエルさんが嗜虐的な笑みを浮かべながら名乗り出た。
一回戦目の菜々美がアリエルさんからどのような蹂躙を受けたのかを思い出したためか、ゆずの顔色は打って変わって青ざめていた。
俺が毎回気まずくなるのもそうだが、物欲センサーでも搭載されているのか菜々美やクロエさんといい、我を強く出した人が何かしらの形で墓穴を掘るのはなんなんだろうか。
ルシェちゃんの場合は、恐らく彼女が邪な考えで王様ゲームに臨んでいるわけではない、所謂無欲の勝者だとでもいうべきだろう。
欲をかいた人から負ける……ある意味王様ゲームの神髄なのかもしれない。
「あらら、逃がしませんわ」
「ひゃあっ!?」
ともかく、後退りするゆずを逃がすまいと、アリエルさんは彼女をがっしりと抱擁して捕まえる。
〝むにゅん〟と、二人の胸が綺麗に合わさって、男なら誰でも一度はあの間に挟まれたいと願う極上の桃園が生まれた。
その中にいるゆずはアリエルさんの胸の感触にまで気が回らないのか、あたふたとしたままだ。
「ちょ、ま、待って下さいアリエルさん! 私はあなたと同性ですよ!? 司君が好きなのに女性同士で、恋人でもない人とキスだなんて、そんにゃ……」
「あら、ワタクシは確かにツカサ様を恋慕しておりますが、愛する人に分け与える愛情はきちんと持ち合わせていますわよ?」
「え、あ、そ、そうにゃんですか……?」
動揺から指示した語尾が混ざった可愛らしい言動をするゆずが、言葉巧みなアリエルさんに順調に絆される姿を見て、これはもう勝負あったなと確信する。
そもそも、大人びた雰囲気に反して素直なゆずと、見た目からは想像もつかない悪戯好きのアリエルさんでは、土俵に上がる前の時点で勝敗が決しているようなものだ。
唖喰との戦闘や模擬戦ならまだしも、対人関係に置いてはアリエルさんの方が一手も二手も上手だ。
ゆずの抵抗が弱まったことを確認したアリエルさんは、ゆずにニコリと笑い掛け……。
「それにユズ様もワタクシも、ファーストキスはツカサ様にお譲りした身です……二回目以降は同性でも問題ありませんわ♡」
「にゃ──」
「──っちゅ♡」
「んんっ!!?」
突如告げられた言葉にゆずが動揺した隙に、アリエルさんは非常に滑らかな動きでゆずの唇に自分の唇を重ねた。
遅れて事態を呑み込んだゆずはアリエルさんの拘束から逃れようとするが、同じ最高序列に名を連ねる魔導士が相手で、さらに五歳差という年齢差が影響して彼女の拘束から逃れられない様子だった。
まさかの百合の花の再開花な展開に、またしても俺を含めた四名の視線を集めることになった。
菜々美の時は10センチ程度の身長差だったが、未だ身長150台のゆずと173センチという外国人らしい長身を誇るアリエルさんの身長差はかなり大きい。
なので、必然的にゆずが抱き抱えられる形になっている。
先のゆずが拘束を逃れられなかった要因の一つにも、彼女の両足が床から離れていることもあるだろう。
「──(クスッ)」
「ん──んん!?」
キスをしているため間近にいるゆずに、アリエルさんはクスッと微笑むと、ゆずが目を見開いて全身をビクビクっと大きく揺らした。
菜々美達は何が起きたのか解ってないようだが、経験のある俺にはゆずが何をされたのかを明確に理解していた。
アリエルさんがキスからディープキスに移行したからだ。
俺がゆずの告白を受けた場合に彼女にすると約束した熱烈なキスは、あろうことか同性のアリエルさんに奪われることになってしまった。
「ん、はぁ……む、んふっ……!」
アリエルさんのキステクは本当に凄まじいため、ゆずの目は潤いを帯び、頬は羞恥から朱に染まっていき、ピチャリと鳴る音が艶めかしく、息継ぎのために漏れる吐息がとても扇情的だった。
菜々美が抱き締められた時のようにアリエルさん無双は留まることを知らなかった。
やがて満足したのか、アリエルさんは抱擁を解いてゆずを解放する。
二人の唇の間に伝う銀の糸がプツリと途切れたと同時に、ゆずはその場に崩れ落ちた。
俺とのキスでは気絶していたが、アリエルさんとした今は意識は保っているようだが……。
「──穴があったら入りたいにゃん……」
いっそ気絶した方がマシだったと匂わせる感想を口にしていた。
あまりにも無残な光景に、俺達は何も言えなかった。
これ、後で俺が口直しに付き合わされるやつだろうなぁ、なんて考えているうちに何巡か経過し……。
「最後に王様からのお願いです……またこうして皆さんで遊びましょうね!」
「「「「「はうぅっ!!?」」」」」
最後まで純粋さを発揮し続けたルシェちゃんの、なんとも尊い命令に疚しい野望を秘めていた四人と、ドキリとさせられた俺の五人は悶絶の声を漏らした。
全員が彼女の眩しさに直視できないでいると、レティシアさんがゲーム終了を告げたため、王様ゲームは幕を閉じた。
~~~~~
おまけ。
~尺の都合で書き切れなかった命令~
~round7~
王様→アリエル
「3番は1番の方の秘密を一つ答えて下さいませ」
3番→司、1番→菜々美(次の命令が来たため、語尾ににゃんは無効)
「交流演習初日から、菜々美はパッドの大きさを少しずつ大きくしてる」
「しししし、してないもん! ちゃんと成長してるんだもん!!」
アリエルの指示でクロエが確かめた結果……。
「パッドだ……」
「うわぁぁぁぁん!!」
アリエルの大きさに危機感を抱いたためだった。
~round8~
王様→クロエ
「今度こそ……アリ──4番はワタシに膝枕をするのだ!」
4番→ゆず(次の命令が来たため、語尾ににゃんは無効)
「あの、恥ずかしいです……」
「わ、悪かった……だが、ユズ殿の太腿も悪くない……」
怪しい表情でクロエがゆずの太腿を擦りだす。
「司君、助けて下さい! なんだか身の危険を感じます!!」
~round9~
王様→司
「え~っと、5番の人は後でもいいので、このメンバーに子供の頃の写真を公開する、でお願いします」
5番→アリエル
「こんなこともあろうかと、準備はしていましたわ」
「やけに準備がいいね──って、うわぁ……小さいアリエルさん、天使みたいに可愛い! あ、クロエさんも写ってる!」
その写真には、菜々美の言う様に天使と見間違う程の可愛らしさを全面に押し出された、幼いアリエルとその彼女に付き従うクロエが写っていた。
「あぁ、流石アリエル様だ……なんと愛らしい……」
「五歳くらいの写真でしょうか……既に現在の美貌の片鱗が表れていますね」
「ふわぁ、可愛いですね!」
「(小さい頃のアリエルさん……略してロリエルさん……)」←予想以上に可愛くて茫然自失。
~round10~
王様→ゆず
「今度こそリベンジです! 司君──じゃなくて、3番の人は私を後ろから抱きしめて下さい!」
3番→ルシェア
「えっと、ツカサさんじゃなくてボクですみません……」
「いえ、ルシェアさんなら何も……」
「ふふ、でもこうしてギュッとしてると分かりますけど、ユズさんって最強の魔導少女だなんて思えないくらい、線が細くて柔らかいですね」
「ルシェアさんもですよ。私と違って普段から肌の手入れが欠かされていない証拠でしょうね。すごくすべすべしています」
以降、エンドレスに互いを褒めだす。
~round11~
王様→菜々美
「2番の人は王様に料理を一口食べさせて下さい!」
2番→アリエル
命令通りにアリエルは菜々美に〝はい、あ~ん〟をする。
太くて長いソーセージで。
「ん、んん!」
菜々美は必死にソーセージを齧ろうとするが、アリエルは絶妙な匙加減でひょいひょいと距離を開けたり詰めたりする。
「ほらほらナナミ様。この目の前にある立派なソーセージをちゃぁんと齧りませんと、どれだけ時間が経とうとも終わりませんわよ?」
「ひ、一口って言ったのに、なんでこんな……!」
「あらぁ? ナナミ様はソーセージを舐めているだけですのよ? まだ一口も食べてはいらっしゃらないではありませんか」
「それはアリエルさんがソースを舐めてからって、言ったからでしょぉ!?」
謎の羞恥プレイが繰り広げられ、またも気まずい空気が漂った。
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