130話 ベルブブゼラル戦 ④


「ベルブブゼラルが……脱皮した!?」


 これまでベルブブゼラルが隠していた生態に、ゆずだけでなく観測室にいる初咲やオペレーター、東京支部にいる組織の構成員全員が驚愕していた。


 ベルブブゼラルの変化にゆずは脱皮と形容したが、変化後のベルブブゼラルは脱皮などという言葉とは次元が違っている。

 

 攻撃の凶悪性、移動と反応のスピード、肉体の頑強さ、その全てが別の生物に入れ替わったとしても、誰も疑うことはないと言い切れる程であった。


 初咲はすぐさま構成員に命令を下した。


「現場に駆け付けている最中の魔導士と魔導少女に通達! 討伐対象であるベルブブゼラルの危険度を上げるわ! 戦闘区域周辺に待機して!」

「――っ!」


 ゆずは自分の左手首に痛みが走り、視線を向けると無意識に右手で握り締めていた。


 そうしていた理由は、恐らく本気を出したであろうベルブブゼラルに静が殺されたという事実、その脅威に現在直面している鈴花達とその相手を一手に引き受けている季奈のいる戦場に、自分が居ないことにどうしようもない不甲斐なさからきているものだった。


「……初咲さん」

「っ駄目よ! まだ魔導装束の調整が済んでいないわ!」


 初咲も季奈達のために増援を送りたいのだが、〝桜華狂咲おうかきょうしょう〟を発動した季奈でようやく抑えられるような相手に対しては並の魔導士が駆け付けても、無駄死にでしかない。


 序列一位のゆずも本来の魔導装束出なければ実力を発揮出来ないため、そちらの調整が終わるまでゆずを向かわせることも出来ない。


 その調整もあと少しだと聞いているが、それが終わるまで季奈が持ち堪えられるかどうかも分からないのだ。


「今は……祈るしかないわ……」

「……」


 もし神様がいるのなら、唖喰という怪物の侵攻を許す理由を問いてみたいとゆずは思った。

 聞いたところで納得出来るとは思えず、そんな神様に祈る気は微塵もなかった。







 菜々美がようやく意識を取り戻すと、ポータルから唖喰が出ない様に結界で囲んでいるベルアールと自分達を守るように立っているアルベールの姿が目に映った。


「……アルちゃん? ベルちゃん?」

「! ナナミ!」

All right大丈夫?」

「わ、私は……」


 菜々美は朧気な頭を働かせて、状況を思い返す。

 

 自身を庇った静、身体を両断される、そうして無惨な死を迎えたと思い出した瞬間……。

 

「う、ぶぅべぇ……!?」

 

 胃から這い上がってきた嘔吐感に逆らえず、そのまま胃の中のものを吐きだしてしまった。

 嘔吐した菜々美に対し、双子は嫌な顔一つせずに、彼女の背中をさすった。


「げほっ、ん、ご、めん、なさい……」

「「……」」


 付き合いの短いアルベール達でも、菜々美と静の関係は良く知っていた。

 それだけに近しい人の死に打ちひしがれる菜々美の謝罪の言葉が、誰に向けられたものなのかを察することは容易だった。


「っ! そうだ、ベルブブゼラルは!?」

「……Over thereあそこ……キナが一人で抑えている」

「――!」


 それでも一年以上戦い続けた魔導士故に、いつまでも呆けている場合ではないと自ら鼓舞したのか、菜々美はアルベール達に問い掛け、ベルアールが示した先に視線を向けた。


 瞬間悟った。


(アレは……私が加わったところで敵わない……)


 そう絶望するほどの隔絶した脅威に、体中が冷える感覚がしていた。




 鮮やかな紅色の魔力光で全身を包む季奈が、真っ黒なベルブブゼラルに肉迫する。

 ベルブブゼラルは左側の鎌と右側の爪を同時に振り下ろす。


「攻撃術式発動、光剣二連展開、発射!」


 季奈は薙刀のリーチを活かして爪を弾き、鎌を柄の部分で受け止めて空いた右手で光剣の攻撃術式を放つ。


 二本放たれた光の剣は確かにベルブブゼラルの腹部に直撃した。

 にも関わらずベルブブゼラルは怯むどころか何ともないように左側の爪で季奈を脳天から貫こうと真下に刺突を繰り出す。


 季奈はバックステップで爪を躱し、苦無を投げるがベルブブゼラルの硬い表皮に刺さることはなかった。


 後方へ下がった季奈へベルブブゼラルが飛翔して接近する。


「固有術式発動、閃光糸!」


 季奈は左手を振るって〝閃光糸せんこうし〟を放ってベルブブゼラルを一瞬でも拘束しようとしたが、ベルブブゼラルの両側の鎌によって光の糸はクモの巣を払われたかのように散ってしまう。


 ベルブブゼラルはそのまま左側の鎌による袈裟斬りをする。

 季奈から見て左上から右下に振り下ろされた鎌を季奈は上半身を屈めて躱す。

 すかさずベルブブゼラルは右側の爪による刺突を放つが今度は手のひらで受け流される。

 左側の爪を振り上げて下から季奈を突き刺そうとするが背面反りで背中を後ろに曲げて躱す。

 ならばと、両側の鎌を振り下ろすと季奈は薙刀を水平に構えて二本の鎌を受け止める。

 そして二本の爪が季奈を串刺しにする勢いで突き出されるが、季奈は薙刀の展開を解除して空いた両手に魔力を集中させて、なんと二本の爪を横から鷲掴みにして受け止めたのだ。


 ベルブブゼラルは爪を引こうとするが、季奈はその勢いを利用してベルブブゼラルの顎を蹴り上げ、がら空きになった胴体にドロップキックを食らわせた。


「特殊術式発動、魔導武装展開!」


 ドロップキックの際に爪から手を離した季奈は、再び魔導武装の術式で薙刀を装備し、上から下に一刀両断のするかのように唐竹を繰り出す。


「っ!」


 薙刀の一撃は確かにベルブブゼラルの頭部を切り裂いたが、季奈は手応えから傷が浅いことが分かった。


 季奈は一旦ベルブブゼラルから距離を取る。頭部への斬撃を受けたベルブブゼラルは地面に突っ伏し動きが止まっていたため、容易に離れることが出来た。


「今の内に!!」

「! あかん!」

「えっ!?」


 隙だらけの背中に鈴花が攻勢に出たが、季奈が声を荒げて制止するが既に矢が放たれたあとであった。


 矢がベルブブゼラル背中に刺さる寸前、四つん這いになっていたはずのベルブブゼラルの姿が一瞬で消え失せ、いつの間にか鈴花のほうへ迫っていた。


「っ防御術式発動、障壁展開!」


 ――バリンッ! ドスッ!


 鈴花は慌てながらも障壁を展開するが、ベルブブゼラルの爪で放たれた刺突は変化前は破れなかった障壁を紙のように貫通してしまう。


「あっぐうううっ!!」


 鈴花は障壁が破られた瞬間、咄嗟に身を捩ったため急所は外したが爪の一撃は彼女の右脇腹を抉った。

 ベルブブゼラルはそのまま両側の鎌を鈴花に向けて振り下ろしていく。

 

「っう」


 鈴花はバックステップをして躱したが、右脇腹の痛みと不安定な体勢での跳躍であったため、足がもつれて着地が出来ず、尻餅をついてしまった。


 唖喰であるベルブブゼラルがそんな隙を逃すはずもなく、再度鎌を振り下ろす。


「固有術式発動、飛龍葬ひりゅうそう!」

「ギュッギェ!!?」


 季奈が槍投げの要領で薙刀をベルブブゼラルの方へ投げ飛ばし、固有術式で強化された薙刀は流星のような光の帯を描きながらベルブブゼラルを吹き飛ばした。


「鈴花、大丈夫か!?」

「ご、ごめん、季奈……アタシ余計なことを……」

「鈴花が謝るようなことはなんもあらへん。あれはアイツがわざと隙を晒してこっちの油断を誘っとったし、鈴花は隙があった時以外手出ししたらあかんっちゅうウチの指示に従っただけ。せやから謝んのは鈴花を危険に晒したウチのほうや」

「そんな季奈が謝ること……ううん、じゃあお互い様ってことで」

「……おおきに」


 季奈の捲し立てるような擁護に鈴花は自分に非があると主張しようとするが、未だ戦闘中なのに責任の被り合いをしている場合ではないため、お互い様ということで互いを妥協したのだ。


 鈴花は自分の脇腹に治癒術式を施した後、ベルアール達のいる場所にまで下がった。


 季奈は投げ飛ばした薙刀を手元に展開し直し、ベルブブゼラルがいる方へ視線を向ける。


 ベルブブゼラルの左肩にヒビ割れのような網目状の傷があり、それを見た季奈は思わず笑みがこぼれた。


「……今のは効いたみたいやな」


 鈴花の窮地を救うために時間稼ぎのことを忘れて放った一撃がベルブブゼラルに明確な傷を与えられたのは幸いと言いたいところだが、その一撃を与えるために魔力を消費したため、〝桜華狂咲〟の効果時間は残り十五分を切ってしまった。


 流石に今のような攻撃を続けるわけにはいかないため、こちらの防戦一方になってしまうが、今の季奈はベルブブゼラルを倒すことではなく、ゆずが来るまでの時間稼ぎが目的であるため、むしろそちらのほうが都合がいいのである。


(それに、あの左肩を重点的に攻めればこっちに有利になるはずや)


 季奈は薙刀を構えて相手の出方を窺う。


 ベルブブゼラルのほうはというと、自身の左肩をじっと見つめた後左腕を動かして痛みの確認をしていた。


 それらが一通り終わって左側の鎌で素振りをしたあと、その場に立ったまま鎌を振り上げた。


「なにを……あ゛っ!?」


 季奈が敵の行動に疑問を抱いたと同時に、突然季奈の右肩が裂けて血が噴き出たのだ。


(いきなりなんや!? ベルブブゼラルはあそこから動いとらんのにウチの肩が裂けた!?)


 唐突なダメージに動揺している季奈をよそにベルブブゼラルは右側の鎌を虚空に向けて振った。

 

「ぐっ!?」


 今度は左ふくらはぎが裂けた。

 後ろに倒れそうになるのを季奈は薙刀を地面に突き立てて杖代わりにすることで堪えた。


 そしてベルブブゼラルが三度鎌を振るった時、季奈の視界に空間の揺らめきが一瞬だけ映った。

 薙刀を縦に構えると、両手に衝撃が伝わった。


 ここで季奈はベルブブゼラルが放った攻撃の正体に気付いた。


(まさか……かまいたちか!? 変化前と違ってラッパみたいな嘴があらへんから厄介な衝撃波も出来へんもんやと思っとったけど、あの鎌から飛ばすことも出来るっちゅうことか!?)


 季奈の考える通り、ベルブブゼラルが放った攻撃はかまいたちであった。

 しかも変化前は衝撃波に織り交ぜるようにして放つか、ラッパの嘴で短く吹いて放つかの一方であったものが、鎌を振るだけで放てるようになると少ない予備動作から軌道を予測して回避する必要が出てくるため、元から厄介だったものがさらに凶悪になったということになる。


(とにかく近付かんとこのままかまいたちで一方的に嬲られるだけや!)


 傷そのものは〝桜華狂咲〟の効果で大したことはないが、傷を治す度に魔力が消費されるため発動時間も減ってしまう。

 だからこそ接近すればかまいたちを容易に放てなくなると踏んだ季奈は、未だ一歩も動いていないベルブブゼラルの元へ駆け出した。


 当然敵がそのまま大人しく見ているはずもなく、次々と両側の鎌を振るってかまいたちを放ってくる。 季奈は強化された五感を駆使して迫り来る空気の刃を、身を捩ったり薙刀を振るって相殺するなどしてダメージを最小限に抑えながらベルブブゼラルへ迫っていく。


「攻撃術式発動、光槍三連展開、発射!」


 敵との距離が五メートルを切ったところで季奈は光の槍を三本放つ。


(これでベルブブゼラルはかまいたちを止め……)


「ギュギャ!」

「――え?」


 季奈は今起きたことに驚愕した。

 光の槍は確かにベルブブゼラルの左肩、右脇腹、左大腿部に突き刺さった。

 だがそれは季奈にとって予想外のダメージであった。


 季奈はベルブブゼラルが光槍を避けると予想して放ったのだ。

 しかし季奈の予想に反してベルブブゼラルは避ける素振りを見せることなく光槍を受けた。

 そして季奈が驚いたのはベルブブゼラルが自分の攻撃を避けなかったことだけでなく……。


 ――ヒュンッ、スパッ!


「あ゛あ゛っ!?」


 季奈の右胸にかまいたちが浴びせられたことによる鮮血が散った。


 そうベルブブゼラルは自身への攻撃を避けることなく季奈にかまいたちを放ったのだ。

 攻撃を受けた季奈は左側から地面に転倒してしまう。

 それは明らかな隙となった。


「っまず……!」


 咄嗟に両腕で急所を庇うが、何故か季奈に攻撃が来ることはなかった。

 

 季奈は腕越しにベルブブゼラルが何をしているのか目を向けてみると、ベルブブゼラルは季奈から距離を取っていた。


(はぁっ!? 意味が分からへん!)


 何故か季奈に追撃をするでもなく、鈴花達を襲うともしなかったのだ。

 ベルブブゼラルの不可解な行動に苛立ちを覚えつつ、季奈は立ち上がって敵へ再接近をする。

 

 ベルブブゼラルはその場から一歩も動かず、季奈に向けてかまいたちを放つ。

 巻き戻し映像のような仕切り直しに内心腹立たしく思いながらも、季奈はかまいたちを防いでベルブブゼラルへ肉迫する。


(薙刀の一撃やったら、鎌で受け止めるはず……!)


 季奈は薙刀を右から水平に振るって薙ぎ払うが、手応えを感じることはなかった。

 それは、ベルブブゼラルが季奈の薙刀を鎌で受けずに、後方に飛び下がったことで回避したからだった。


(こっ……のぉ! これは避けるとか意味わからへん! 何で急に戦法を変えてきたんや? ウチがやろうとしたことそのまんまやるとか……)


 季奈は自分の思考にある引っ掛かりを覚えた。


(待ってや……ウチの目的はゆずが来るまでベルブブゼラル相手に時間稼ぎをすることや)


 季奈から距離を開けたベルブブゼラルがまたもかまいたちを放ってくる。

 季奈は薙刀で切り払いながら思考を止めない。


(そのためには〝桜華狂咲〟の効果時間を延ばすために、術式を使わんことと敵の攻撃を受けやん必要がある……)


 季奈の心はそれ以上考えるなと止めてくる。

 を頭で理解してはいけないと訴えてくる。


 それでも季奈の思考は止まらない。


(一方でベルブブゼラルは左肩に明確な怪我を負うまで、ウチを殺すような攻撃しかして来やんかったのに、負ってから離れて攻撃をし出した……かまいたちは確かに見辛いから厄介やけど、自己治癒ですぐに治せられるくらいやから、そこまで脅威やない……ただ治す度に魔力を消費してしまうから、効果時間が削られて……)



「――ぁ」



 季奈は気付いてしまった。理解してしまった。



「嘘や……まさか……そんな……」


 

 ベルブブゼラルの目的を。



「んな……アホなこと、あったらあかんやろ……」



 季奈の表情は怒りと絶望が入り混じって、怒髪天を突く勢いで怒り狂いそうなのに、体に重く圧し掛かる絶望感が頭を冷やしていくという、哀しみと憎しみを滲ませるものになっていた。


 ベルブブゼラルの目的、それは……。



 ――季奈の〝桜華狂咲〟の効果解除まで逃げに徹することである。



 ベルブブゼラルは自身が季奈を殺すのには季奈の強化解除まで、かまいたちでちまちまと攻撃をして効果時間を削り、解除されたところを狙うしかないと判断したため、このような悪辣あくらつ極まる手法をとったのである。


 その事実に気付いたからこそ、季奈は怒りと絶望に震えたのだ。


「っしま……」


 かまいたちが薙刀を持つ手を切り裂いたことで、季奈は薙刀を手放してしまった。


 薙刀へ視線を向ける寸前、季奈の目の前にベルブブゼラルが瞬時に立ちはだかり、そして……。


「がはぁっ!?」


 ベルブブゼラルは季奈の腹部を右側の爪で串刺しにし、宙に釣り上げた。


「ぐっ……この……いっがああっ!!?」


 爪の拘束から逃れようと術式を食らわせようとしたが、両側の鎌で季奈は左右の二の腕を刺されたことで両腕も拘束されてしまう。


 強化状態は続いているため、傷を治そうとするが爪と鎌が刺さったままでは傷口が塞がらず、血が垂れ流しになってしまっている。


「ごはっ、この……いくら治るから言うても痛いもんは、痛いんやで……」


 腹部を貫かれているため弱々しい声で季奈はそう訴えるが、ベルブブゼラルは一切聞く耳を持たなかった。


(残り時間三分もあらへん……両腕も封じられとるせいで術式も使えへん……これ、このまま刺されたまんまやったら、間違いなく死ぬやつやなぁ……)


「きなぁ!?」

「季奈ちゃん!?

「キナ……!」

「……キナ」


 季奈の耳に鈴花達の悲鳴が聞こえた。


「季奈を離し……は?」


 鈴花は季奈を拘束するベルブブゼラルに向けて魔導弓を構えるが、矢が現れることがなかった。

 

 ベルブブゼラルが季奈を盾にするように鈴花達の方へ向けているせいであった。

 それだけなら魔導で唖喰以外の生物に影響はないのだが、空いている左側の爪を季奈の首筋にひたりと当てている……それは〝動けば首を刺す〟という脅し、つまり季奈が人質となっていた。


「ふっ……ふざ、ふざけないでよぉ……なんで、そんな……」


 魔導弓を構える鈴花の手が震え出した。


 鈴花は海洋合宿の時に前線復帰を果たしてから自分は強くなった気でいた。

 しかし季奈とベルブブゼラルの戦いを目にして自信を失くしていた。

 

 季奈を人質に取ったベルブブゼラル〝お前は無力だ〟とに思い知らされた。


(アタシは自分の力量も客観的にみることも出来ない大馬鹿だ……ゆずと季奈が一緒に戦ってくれたから悪夢ナイトメアクラスの唖喰と戦えていたのに、自分は戦力になっているって勘違いをしていた……二人がいなきゃ、自分の攻撃すら通じないくせに……! さっきみたいに季奈の足を引っ張った!)

 

 鈴花は自分の力不足からくる不甲斐無さと迂闊な行動で季奈が死んでしまうかもしれない恐怖で、ついに涙を流してしまったのだ。


「こい……つ、ホンマに人が嫌がる、ようなことばっかすんなやぁ……」 


 大切な仲間で友人である鈴花を泣かせたことに季奈はベルブブゼラルにそう愚痴を零した。


 アルベールとベルアールも、菜々美も恐怖で体を震わせて動けないでいた。

 しかし、動けないでも戦意は折れてはいないようだった。


 季奈はパニックで逃げ出したり、闇雲に攻撃しないだけ大したものだとそのなけなしの勇気を心の内で称賛した。


 〝桜華狂咲〟の効果解除まで一分を切った。


 夢を叶えられないこと、先逝くことを大阪にいる家族に謝罪しながら目を閉じた。


 残り十秒を切って、いよいよ自分の死を間近に感じる。


 そして……。

















「攻撃術式発動、重光槍展開、発射」



 その声が聞こえたと同時にベルブブゼラルが大きな光の槍を受けて吹っ飛んでいく光景にその場にいた全員が目を見開いた。

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