夢色の桜

星野のぞみ

出逢い

嵐の晩、宿場町の外れで荷の受け渡しを済ませたおせいは、傘をさすこともできない強風の中を急ぎ足で歩いていた。


街道が通ってる崖の下には、桜が風に揺られている。


舞い散る桜をしのぎながら、おせいが桜の木の下を通りかかった時、何が動くのが見えた。


「誰かいるのかい?」


おせいは用心深く声を掛ける。


「うぅ…。」


見るとそこには、身なりは良さそうだが酷く泥だらけになった男が倒れていた。


「ちょっとあんた!大丈夫かい?!」


「うっ…。」


おせいは崖の上を見て、状況を悟る。


「嵐で足を取られて、街道から落ちたのか。

このままにはしておけないね。

大丈夫かい?

うちはここからすぐだから、そこまで頑張って歩いておくれ。」


細腕のどこにそんな力が眠っていたのか、おせいは男の腕を自分の肩に回し、半ば引きずるように立ち上がらせる。


「うぅ…。」


「そ、そうだよ。もう少しだからね。」


時間を掛け、腕に痺れを感じてもものともせず、おせいは必死に男を家に連れ帰った。

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