第43話 ミッションロリポッシブル
交流会も無事に終わり、夏の暑さが抜けてきた九月末。
さわやかな朝の日差しで目が覚めた僕に突きつけられたのは信じ難い現実だった。
「ふぁー。よく寝た……な?」
まず一つ目、僕は基本的に寝巻きなどは着るタイプなのだがどうしてかパンツのみだった。それは比喩表現などではなく布一枚のみ。
……まあまだこれくらいならよしとしよう。
しかし一番の問題はそこじゃない。
妙な暖かさと共に不自然に膨らんだ布団、男性が朝に起きるアレとは確実に違う膨らみ……。
「……まさかとは思うけど」
僕は恐る恐る布団をめくる。
「すぅー、すぅー」
「…………」
いやいや落ち着け僕よ。
いくら妄想大好き人間だからと言って起きたら隣に服の乱れた半裸のロリが寝ているなんて妄想は芸がない。
多分寝ぼけていただけだろう。
「すぅー、すぅー」
「…………」
どうやら僕の目はまだ覚めていないらしい。
こんなに柔らかくて暖かい感触がしておきながらまだロリがそこに寝ている妄想を繰り返すなんて……。
「……なんでぇ!?」
何度目かの現実逃避を繰り返しついに真実へたどり着く。
そこには小学生ながらにしてスーパーお嬢様であり僕と将来を約束した朝武愛莉が色々と見えそうなくらい服が乱れた格好で心地よさそうに眠っていたのだ。
目を擦ろうが頬をつねろうがその現実は変わることは無い。
と、その時、不意に部屋の扉が開かれる。
「失礼します湊様、そろそろ起床の──失礼しました」
「ちょ愛優さん! なんですぐに帰っちゃうの!?」
「まさか私の知らないところで行為に及んでいるとは思ってもみなかったので……今からお赤飯の準備をして来ます」
「何もしてないから炊かなくていいです!」
「まあシーツに汚れがない時点でわかっておりましたが」
「なら朝から無駄な体力を使わせないでくださいよ……」
「それはともかくとして、どうして湊様と愛莉様はそんな涼しそうな恰好なんですか?」
「記憶にございません……。とりあえず着替えたいから愛莉をお願いしてもいいかな?」
「確かにその方がいいかも知れませんね。何より本日は紗々様や充様達も来るので」
「あー」
なんかそんな話になったような気がしなくもない。
前回の夏休み最終日に行われたお泊まり会はみんなで酔ったせいでとんでもないことになったからそれのやり直しみたいな感じで……。
「それでみんなが来るのはいつ?」
「十一時ですね」
「十一時か……。今何時だろう……」
言いながらスマホの画面を開く、そこに現れる十一時三十分の数字。
……おやおや?
「……スマホの調子が悪いみたいだから愛優さん今の時間教えてくれない?」
「十一時三十一分ですね。もうみなさん来ていらっしゃいますよ」
「……は?」
その瞬間、ドッと嫌な汗があちこちから湧き出る。
来ている……つまりみんなはこの家の中に……。
人生悪い予想ばかり的中するのは何故だろうか、頭の中で即座に構築された現状の中で最悪のルートが導き出された瞬間、扉の方から奈穂ちゃんや充達の声。
「おっす拓海まだ寝て──ごめん」
真っ先に入ってきた充は僕の姿を見るとそのままなにも見ていないと言わんばかりに踵を返す。
「充さんどうかされ──あらあら、これは失礼しました」
「ん、拓海くん……なに、やってるの?」
「わぁいつかやると思ってたけどまさかねぇ……」
「なになに──あれ、見えない!? 突然ボクの視界が真っ暗に!?」
「紗々ちゃんは私と一緒に行こうねー」
「え、渚お姉ちゃん!?」
「拓海くん、ちゃんと片付けたあとでいいから」
そう言い残し渚さんは紗々ちゃんを目隠ししたまま部屋を後にし、
「愛莉さん、とても幸せそうですね♪ では私達も行きましょうか充さん」
奈穂ちゃんは微笑ましそうな表情を浮かべた後、充と一緒に渚さん達の後を追う。
そして残った柿本は……。
「流石ロリコン王、早速王者の風格を見せつけてきたね……。でも他の子のこともあるからなるべく控えてね……?」
ついには誰ひとりとして僕と愛莉に何も無かったという事実を確認することなく部屋を去ってしまった。
……当の本人はと言うと。
「…………終わった」
突然の出来事の連続で脳内処理が追いつかず、ようやく出た言葉はソレだった。
「──みんなに話しておきたいことがあります、僕は無実です」
リビングに集まってから最初に放たれた言葉は弁解だった。
あの後、起きた愛莉から聞いた話によると寝ぼけた愛莉がつい僕のベッドに入ってそのまま眠ってしまったらしく、その際愛優さんが余計な気を回して布団がかかってるのをいいことに僕の服を少しはだけさせた……らしい。
そこからパンツのみになったのは愛莉が抱きついていたり自分の寝相の関係なのだが……。
いやこれよく考えなくても愛優さんのせいだよな?
しかし現実は悲しいかな、僕の弁解に対する答えは。
「大丈夫だ拓海、お前は俺達より少しだけ先に大人の階段を登っただけ……気にするな俺も近いうちに追いついてみせる」
「きゃっ、充さんたら……」
「あのですね、きゃっとか大人の階段がどうとかじゃなくて本当になにもないからね?」
「はいはい、わかったから……それで拓海くんどうだった?」
「どうとは?」
「初めての体験は」
「だからやってねー!!」
その後、僕のベッドのシーツを総員で調べられたりしたものの、なんとか説得に成功したり、女子トークに突撃した充が返り討ちにあったり、僕が愛莉がお手荒いを利用しているのに間違えて入ってしまったりと色々あったがそれについては胸のうちに留めておこう。
「ふぃー、久しぶりに二人で打ち合わせ出来たな」
「何ヶ月ぶりだろうね」
「んーーー、多分半年くらいになるんじゃないか?」
女子は女子の方で盛り上がっていたので、せっかくだからと充と二人で部屋に閉じこもり冬コミに向けての打ち合わせなどを終えた頃には辺りは暗くなっていた。
リビングに降りると、そこにはロリ達の姿はなく渚さんが一人でソファーで寛ぎながらテレビを鑑賞していた。
「あれ、愛莉達は?」
「ん、今みんなでお風呂に入ってるよ。君たちも入ってくるかい? 明音ちんもいるけど」
「僕は遠慮しておきます」
「俺は……少し興味があるかも」
「流石充くん、どこぞのむっつりスケベとは違って性に直球だね」
「誰がむっつりスケベですか……」
「男の子ってのは性欲を表に出している正直者か本当は興味あるのに無いふりをしているむっつりさんのどっちかしかいないって聞いたよ♪」
「それ間違ってますからね? 確かにそういうのに興味がないわけじゃないですが、そもそもお風呂を覗くという行為にですね……」
「なら拓海はお留守番していていいぞ」
「……ごめんなさいついて行かせて下さい」
「素直でよろしい♪」
ということで僕達のミッションロリポッシブルが始まった。
「いい、ここから先は戦場よ」
「サー!」
「リビングから出るだけでそんな大げさな……」
「甘い、甘いわよ! そんな焼きプリンみたいな甘さじゃ生き残れないわ!」
「そのわかりにくい表現やめません? 普通のプリンていいじゃないですか」
「拓海くん、女の子に向かっておっぱいがぷりんぷりんという話を振るのはどうかと思うの」
「今の会話のどこにおっぱい要素がありました!?」
「あっただろ拓海、ほら……わかりにくい表現のとこ」
「せめて拾うならプリンのとこ拾おうぜ!?」
「いつまでぷりんぷりんなおっぱいの話をしているの! 私達が目指すのはぷりんぷりんなおっぱいじゃなく、慎ましやかなマシュマロよ!」
「だからそのわかりにくい表現いります!?」
「マシュマロはわかりやすいだろ。ちっぱい鑑定士準二級の変態将拓海さんよ」
「誰が変態将だ、それにそんな変な資格を取った記憶はない」
「でも拓海くんは見ただけである程度の大きさはわかるよね?」
「いやまあ……確かにわからなくもないけど……」
「なら十分よ♪」
「今すぐその資格返上してもいいですか?」
「騎乗位の話なら後にしてくれない?」
「誰もそんな話してないですよね!?」
そんなやり取りをしながらも僕達は着実に目的地へと足を進める。
「……なんだか楽しそうな声がしますね隊長」
「充隊員だからと言って油断してはダメよ。上手く桃源郷をこの目に映しカメラに収め、無事に帰るまでが覗きなのだから」
「サー!」
「どこの遠足だよ……」
「隊長、インスタントカメラは盗撮に入りますか!」
「インスタントカメラは使い捨てなので大丈夫です」
「いやそれどんな理論!? インスタントでも普通のカメラでも盗撮はダメだからね!」
そんな僕のツッコミも虚しく終わる中、お風呂場もとい桃源郷に近付けば近づくほど楽しそうな声が響いてくる。
どうやらお風呂から出たばかりなのか、タオルで身体を拭く音が聞こえてくる……気がする。
やがて脱衣所まで辿り着くと、先頭に立つ渚さんが今までにないくらいの笑みを浮かべながら振り返る。
「ふふっ、これは運が私達に味方している証拠ね。今まさに出たばかりよ」
「ラブコメの神様って実在していたんだな……ありがとうございます神様」
「しかし幼い子の肌はいいですね、すべすべで……あぁ愛莉様お美しい……」
「なんか一人増えている気がするけどもう気にしないわ……」
「そうです湊様、気にしたら負けです」
いつの間にか僕の前に立ち片手に高そうなビデオカメラを構えている愛優さん。
もうこの人のことは仕方ないと割り切っているのかもしれない。
渚さんもそうだが、どうしてこうも僕の周りには優秀なはずなのにその力の使い所を全力で間違えている人達ばかりなのだろう……。
今だって僕の前に立つ三人は某ヘビの英雄並の身のこなしでここまで来ていたし。
……しかしあれだな。脱衣所から聞こえてくる声に僕はドキドキしていた。
「そういえば愛莉ってまだボクのこと名字呼びだよね」
「えっ、あっ、そうですね」
「そろそろ名前で呼んでよー、奈穂だっていつの間にかそうだし」
「確かに、そうですね。では紗々さんと呼びますね」
「さんはいらないよー! 奈穂にも言ってるのに全然取ってくれないし」
「まあまあ紗々ちゃん、そこはもう二人の性格とかもあるからさ」
「むぅ。……それにしても明音お姉ちゃんのおっぱい大きいよね」
「確かに……」
「そうですね……」
「え、な、なにかな?」
「ボクなんてまだ全然なのに……ボクもいつかはお姉ちゃんみたいになれるかな?」
「私も……先生のためにもう少し大きくなりたいです」
「充さんは……もう少しあった方が喜ぶのでしょうか」
……きっとこの言葉を聞いた僕達の気持ちは一つだっただろう。
大丈夫、君たちは今のままでも十分魅力的だから、お願いだからそのままの君でいて!
「ねえねえお姉ちゃん、なにか大きくなる秘訣とかあるの?」
「うーん、そこはお姉ちゃんにもわからない、かな」
「揉まれたら大きくなるって聞いたことありますが……」
「そうなんですか? 私は先生から揉むと小さくなるみたいな話を聞きましたが」
「それはどっちも正解……かな、詳しいことはまだ教えられないけど」
「つまり時分の胸をもみもみするのはパルプ〇テってことだね!?」
「その表現はちょっと違うような……。でも紗々ちゃんはなんでそんなに気にしてるの?」
「愛莉や奈穂はちゃんと膨らんでるってわかるほどあるのにボクだけ……まだだからさ」
「そんなことはないと思いますが……」
「は、はい。私なんてまだ全然……」
幸か不幸か話題は自分達の胸の話になっていた。
これをチャンスと見た渚さんはすぐさま行動に移す。それにしてもあの扉をそっと開ける手際……慣れておられる!
渚さんのゴーサインと共に僕達はこっそりと隙間から甘い女子トークを広げている桃源郷を覗き込む!!
……はずだった。
「……あ、れ?」
「湯気で……見えないだとぅ!?」
もう湯気が凄いのなんの。顔とか足は見えるものの、肝心の胴体部分が湯気で見事なまでに見えないのだ。
「あの湯気さんや謎の光さんはゲームやアニメの世界だけではなかったのね……」
「し、しかし私のビデオカメラは高性能……このビデオカメラに収められない映像が…………撮れないっ!?」
「そりゃそうでしょう……こんなに湯気が凄いんだから……。あー、そこ、レンズ拭いても変わらないよー」
そして僕は時々思う、みんなそれなりに頭が良いはずなのにどうして馬鹿ばかりなのだろうと。
だけどこういう一面があるからこそ今でもこうして付き合えているんだなと。
「ねぇ愛優さん、私思ったんだけど録画状態のままスマホなりカメラなりを手が滑ったという名目で投げ込めばなんとかならないかな?」
「その手がありましたか……あなたひょっとして天才ですか?」
……いや違うな。この人達は正真正銘ただの馬鹿だ。
「というかそもそも撮影したってこの湯気なんですから映らないと思いますよ」
「──なにを撮るつもりなのかな?」
「そりゃみんなの着替──え?」
僕はなんともうかつだったのだろう。
これだけ話しているのにも関わらずみんなに気付かれる可能性を捨てていた。
恐る恐る視線を上に向けると、そこにはバスタオルで身体を隠しているものの隠しきれない大きなものをお持ちの柿本様が冷やかな視線を送りながらお立ちになられていた。
「あの、これはですね……」
「なにか言いたいことはある? へ、ん、た、い、さ、ん」
「一つだけ言わせてもらいたいのは僕は乗り気じゃなかったんです、ただ他の人が……」
「他の人なんていないけど?」
「えっ!?」
僕は辺りをきょろきょろ見回してみるものの、確かに柿本様の言う通りそこには誰ひとりとしていなかった。
……というかついさっきまで話していたはずだよなあの三人。
「お話はこっちでたーっぷりと聞かせてもらおうかなー」
「柿本……様?」
「み、な、と、く、ん」
「は、はぃぃ……」
「切腹ってどれくらい痛いのかしら……」
「待って、それはダメ、絶対! 切腹とかシャレにならないかね!?」
「問答無用!」
こうして僕は無慈悲にも桃源郷から一変して地獄へと連れ込まれた。
「…………ふぅ、どうやら大丈夫みたいだな」
それから少し経った頃、先程まで拓海がいた場所にどこからともなく姿を現した人影が一つ。
「ん、んー! にしても拓海のやつ不運だよな……よりにもよって見つかるなんて……。ん、あれみんな?」
しかし充はそこで気がついてしまう、自分以外の人が姿を現していないことに……。
「ふふっ、やっぱり充さんも絡んでいたんですね♪」
「そ、その声は……な、ほ?」
「正解です♪ ……逃がしませんからね」
「え、ちょ、待っ!」
「待ちません!」
「へるぷみいいいいいぃぃぃぃ!!!!」
地獄の中に無事二人のロリコンは収容された。
こうして朝武邸の平和は守られた。
「……やはり最後まで隠れるのが正解でしたね安曇様」
「そりゃ私達はあの二人のようにはいかないよ」
そしていつもの如くこの二人だけは何事もなくミッションを終えるのだった。
その晩、僕達は柿本様と奈穂様の手によって縄に縛られながら寝るハメになったことだけここに記しておこう。
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