第30話 ロリッ娘ナースに癒されたい!


 「……それはどういう意味でしょうか?」

 「どういう意味も何もそのまんまの意味だけど」

 「湊様」

 「はい」

 「認めたくないのはわかりますが、こればかりは本当に風邪ですよ」

 「マジで?」

 「マジです」

 「……でもなんとかは風邪ひかないって」

 「湊様ってじつは頭いいですよね?」

 「いや僕は悪いよ?」

 「学年一位の人が何を言ってるんだか……」

 「ちょっと待って、なんでそのこと知ってるの?」

 「そりゃ一応ご主人様ですから。把握しておくのは普通かと」

 「個人情報もくそもねぇ……」


 僕はそう呟きながら視線をパソコンへと移す。


 「……ねぇ、愛優さん。ひとつ聞いてもいいかな?」

 「はい」

 「どうして愛莉は僕なんかの小説が好きになったのかな? それも作者である僕に結婚を申し込むレベルまで」

 「それは……本人から聞いてみてはどうですか?」

 「あはは、そうなんだけどね。ただなんというか……」

 「怖い?」

 「ご名答。きっと愛莉のことだから嬉しい言葉を並べてくれると思う。ここが良かったとか、ここに感動したとか」

 「それでいいのでは?」

 「確かに作品のレビューとかでなら喜んでいたんだけどね」

 「……なるほど、本心に限りなく近いけれど全てではないということですね」

 「そういうこと。でもきっとそれは触れてはいけないようなラインの気がするんだ」

 「……はぁ」


 わかりやすく大げさにため息をつく。


 「湊様はよく大切にしすぎとか過保護とか言われませんか?」

 「……いや、特には」

 「そうですか。では私がここであえて言います。湊様は過保護です」

 「えっ?」

 「『えっ?』じゃないですよ。確かに親しき仲にも礼儀ありとは言いますが、それを気にしすぎて踏み出せないままなのは少しばかり違ってくるのです」

 「もし本当に愛莉様のことが好きなのであれば、そんなこと気にしていたらダメですよ。時には少し強引なくらいが丁度いいんですから」

 「そういうもんなんですか?」

 「そういうもんなんです」


 そうきっばりと言い張る……のだが、イマイチ僕はピンとこない。


 「だからこそ病気している今、愛莉様にこれをすれば元気になるかもってお願いするフリをして沢山セクハラしてくださいよ」

 「結局はそれかよ!!」

 「でも考えてみてください。湊様のことが大好きな愛莉様ならきっと『愛莉がこんなことしてくれたら、早く良くなる気がする』みたいに言ったら大抵の事はしてくれるはずです」

 「……確かに否定はしないけど。でも何をしてもらうの? ご飯をあーんしてもらうとか?」

 「湊様はそれでも男の人ですか? 童貞ならもっと想像力を働かせてくださいよ」

 「童貞関係無くない!? でも、うーん」

 「湊様は愛莉様のちっぱい、好きですか?」

 「…………好き、だよ」

 「なら想像してください。愛莉様のちっぱいを」

 「……ふむ」

 「愛莉様のちっぱいを前に願うことはなんですか?」

 「……生で拝ませてください」

 「湊様」

 「はい」

 「ゼロ点です」

 「うっ……」

 「もっと大胆に!」

 「うぅ、なら。優しく手で包み込むとか?」

 「湊様」

 「はい」

 「三十点。というか包み込むってなんですか? ちっぱいだろうと貧乳だろうと巨乳だろうと胸は揉むものでは?」

 「ばっかやろう! ちっぱいは大切に優しく愛でなきゃいけないんだよ! そんな揉むなんて野蛮なことできるかァ!!」

 「す、すみませんでした……。こほん、では気を取り直して」

 「まだ続くの? ……包み込むでも拝むでもないとなると……」

 「……湊様」

 「はい」

 「これを忘れてます。私に続いて詠唱してください」

 「……はい?」

 「愛莉のその可愛らしいお胸を吸うことが出来たら……きっと僕の身体を蝕んでいる病魔なんて一瞬で消え去るさ」

 「──先生、おかゆが出来ましたよ」

 「愛莉のその可愛らしいお胸を吸うことができたら……きっと僕の身体を蝕んでいる病魔なんて一瞬で消え去るさ」

 「ひゃう!?」

 「……えっ?」


 僕はその時、聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。

 そう、その声の主はもちろん愛莉だ。

 僕は計画通りを言わんばかりの笑みを浮かべる愛優さんからその声が聞こえた扉付近の方へと恐る恐る目を向ける。

 ……いた。

 僕はがっつり目が合ってしまう。顔を耳まで赤く染めた愛莉と。


 「え、と、先生……その……」

 「愛莉……? いつから、聞いて……」

 「……私の可愛らしい……お、おむね……の、ところです」

 「っっっっ!!!?!?」


 身体中に電撃が走ったかのような感覚に襲われる。


 「それで、先生はおかゆよりも……私の、お胸を食べた方が、元気になりますか?」


 「もちろんだよ! 愛莉のちっぱいを食べた日にゃ元気になりすぎてそのまま一日中スクワット出来るよ!」……なんて言えるわけもない。

 しかし恥ずかしそうにもじもじしながら上目遣いで……なんというかもうたまらんのですよ! ──じゃなくて。


 「僕は愛莉の作ったおかゆの方が元気になるよ」

 「湊様、でも本心は?」

 「うーん、やっぱりおかゆよりも愛莉のちっぱいの方が元気が出るかな。ついでに言うから身体も全体だけでなく、一部分も──って何言わせるんですかっ!!?」

 「一部分?」

 「あ、いや。なんでもないよ」

 「湊様、湊様」

 「?」

 「ほら愛莉様、今こそあのお言葉を」

 「あ、はいっ!」


 愛優さんと何かのやり取りを済ませると、近くにおかゆを置き僕の近くに座る。

 何事かと構えていると……。


 「先生」

 「な、なにかな?」

 「じっと……していてくださいね」


 そう言うと愛莉はスプーンでおかゆを少しすくうと「ふーふー」と熱々のおかゆを冷まし。


 「先生、あーんっ」

 「え、と?」

 「先生、あーんっですよ」

 「あ、あーん?」

 「はい、あーんっ♪」


 僕は言われるがままに口を開き、愛莉の手作りのおかゆが口の中へ……。

 ん〜、これはとても美味しい。なんというかどんどん身体というか主に口の中の温度が上昇していって、まるでやけどしたように……。


 「あっつ!!」


 しかし口の中に入ったおかゆはとても熱く、なんとか飲み込んだものの味わうなんてことは出来なかった。


 「先生大丈夫ですか!?」


 口元を抑えつつ大丈夫だよと何度も頷く。


 「火加減はちょうど良かったはずなんですけど…………あつっ!」


 試しにと愛莉も食べてみるものの、僕と同じように熱そうにしていた。


 「愛莉大丈夫?」

 「は、はひ……なんとからいじょうぶれす……」


 少し涙目になりながも大丈夫だと言いながら、いつの間にか用意されていた水を飲む。


 「おかゆは少し置いてから食べた方が良さそうだね」

 「……はい、すみません」

 「ううん、僕は嬉しかったよ。愛莉が僕のためにおかゆを作ってくれて」

 「ですが熱すぎて食べられないなんて……」


 ああこれは本気で落ち込んでるな……。

 目の前の愛莉は誰が見てもわかるくらいにガックシと肩を落としていた。

 こういう時は失敗した時のことを思い出させない方がいい、だから僕は何か代わりのことを頼もうとした時だった。


 「……お胸」

 「えっ?」

 「私のお胸を触れば……元気になるんですよね?」


 愛莉の口からとんでもないワードが飛び出した。

 正確には触るではなく吸うなのだが、あえてツッコミを入れることなどしない。


 「なら……さわり、ますか? とてもとーーーっても恥ずかしいですけど、先生になら……いい、ですよ?」

 「愛莉……」


 言いながら愛莉は小さな胸を突き出してくる。

 とても恥ずかしいのに自分のためにここまでしてくれる。僕はとても幸せ者だ。

 僕の手はまるで吸い込まれるように愛莉の上半身へと伸びていき。


 「…………えっ?」


 その手が愛莉の頭に触れると、少し間の抜けた声がもれる。


 「愛莉、僕のためにそこまでしてくれるのは嬉しいけどさ。僕は愛莉が僕のためにおかゆを作ってくれたり、心配してくれる……それだけで早く元気にならなきゃって思うし、何より愛莉が近くにいてくれるだけで元気になれる」

 「本当ですか?」

 「うん。実際今は辛くないしね。それに……」


 僕は一旦愛莉の頭から手を離すと、その後ろの人物を指差し。


 「今でも先でもこういう時はあのカメラマンを追い出さないといけないからね」

 「湊様、それは酷いですよ」

 「黙らっしゃい」

 「あ、先生。いい感じにおかゆが冷めたみたいですよ」




 「……はぁ」


 思わずため息が出る。

 あれから一時間くらいか、おかゆを愛莉のあーんサービスで平らげた後、ゆっくり休むように言われたもののどういうことか非常にムラムラするというか……落ち着かない。

 よく病気の時は〜なんて言うけれど、起きた時はなんともなかったからそんなことはないとは思うけれど……。

 そして……。


 「やばい……熱がまた上がってきた……」



 その頃、キッチンでは。


 「……あれ? 私の用意していた栄養剤とラベルを貼っておきながら実はスッポンのエキスなど精のつくものを色々混ぜ改良に改良を重ねたものが入っている瓶の中身が空に……。あ、愛莉様、ここにあった瓶の中身知りませんか?」

 「瓶の中身ですか? すみません、先生用って書いてあったので、先生に早く元気になってもらいたくておかゆの中に……」

 「……全部、ですか?」

 「はい……。勝手なことをしてすみません……」

 「いえ、あれはどのみち湊様の口の中に入るものだったので大丈夫ですが……」

 「それなら良かったです……あ、誰か来たみたいなので私出ますね」

 「これは……困ったことになりましたね」


 私は愛莉様に聞こえないように小声でそう呟く。


 (あれは効果がまだ不明で、あれ1本でどれくらいの効力があるか確かめるためにも少しずつ飲んでもらう予定だったのですが……)


 「まあ飲めばどこがとは言いませんが本当に元気になるので大丈夫でしょう。それに栄養剤の効果もあるのは間違いないですし」




 ……そして拓海は。


 「か、身体が……痛くて、熱い……」


 (なんだこれは!? 身体が、主に一部分がめちゃくちゃ熱い!! そして痛い!)


 「うおぉぉぉ……」


 僕が一人ベッドの中で悶えていると、コンコンコンと扉をノックする音が。


 「ど、どちら様でしょうか」

 「先生、私です」

 「あ、愛莉ぃ!?」

 「失礼しますね」

 「ちょ、ちょっとまっ──」


 僕の声も虚しく、扉が開かれる。

 こういう時の人の身体能力は素晴らしく、今までに出したことのない速度で僕は布団にくるまった。

 なんとかピンチを脱したと思っていた……。


 「やっほー、お兄ちゃん風邪って聞いたけど大丈夫?」

 「湊さんが風邪をひかれたと聞いてお見舞いに来てしまいました」

 「紗々ちゃんに、奈穂ちゃん?」

 「先生の風邪を心配してお見舞いに来てくださったみたいです」


 そう言って愛莉の後から紙袋を持って現れたのは二人の美幼女。

 兼元紗々かねもとささ天海奈穂あまみなほだった。


 「ところで先生、何やらくるまっている様ですが、もしかして寒いんですか?」

 「あ、う、ううん。こっちの方が寝やすいかなって思っただけだよ」


 ここで下手なことを言ってしまうと、布団を追加するだの言われて最悪の場合、この戦闘態勢に入った性剣を見られてしまう可能性もあるのでそれだけは絶対に避けなければならない義務がある。


 「それでボクがお見舞いに行くって言ったらボクのお父さんがこれを彼にって。なんだかわからないけどきっと役に立つからって」

 「はは、ありがとう紗々ちゃん。お父さんにも伝えといてよ」

 「うん♪」


 そう言って僕は紗々ちゃんから紙袋を受け取る。


 「中身はボクも知らないけど……お父さん曰く『今彼が絶対に必要としている物だ』って言ってたから」

 「先生に必要なものと言えば風邪薬とかでしょうか?」

 「もしかしたら冷えピタとかかも知れません」

 「で、お兄ちゃん中身はなんなの?」

 「ちょっと待ってね…………ッ!?!?」


 何故か閉じられていた紙袋を開けた僕は入っていたものを見て思わず言葉を失った。

 ここで少し前の紗々ちゃんの言葉を思い出す。

 『今の彼が絶対に必要としている物だ』

 まさにその通り。紗々ちゃんのお父さんはエスパーかなにかなのかを疑うレベルで欲しかったものだ。

 その中身とは……まさに一言で言うのならトレジャー、わかりやすく言うとエロ本だ。

 そのジャンルも様々でパッと見た感じロリからロリババアまでロリ系をがっつり揃えている感じだ。

 そして一番目に止まる位置にあるロリ漫画はまさに僕の性癖どストライク。

 ただでさえヤバイってのにもっとヤバくなるほどでもあった。


 「ちなみに紗々さんは他にお父様からなにか聞いてますか?」

 「うーーん、なんかお兄ちゃんが使う物だって言ってたけど……」

 「使う物……やはり冷えピタとかでしょうか?」

 「先生、中身はなんでした?」


 袋を開け、中身を確認してしまった僕に袋の中身を問うロリ達。


 「あっははー、中身はただのエロ本だったよー。ほら見てよこんなにいっぱい。僕もう嬉しくてすぐにでも使っちゃいそうだよー」……なんてことは死んでも言えない。

 実際に使うかどうかは別としてもこれをロリ達に見せるのはとても不味い。

 ただのエロ本ですら不味いのにそれがまさかまさかのロリ系なんて……本当に不味いぞ!


 その時、僕の頭に親友とのある出来事が浮かんだ。

 これはそう、親友である充が今の僕のように風邪で倒れた時のことだ。


 「充大丈夫かー?」

 「おう、拓海か……なんとかな」


 辛そうにしていながらも、何故か手にエロ本を持っている親友。


 「……なに、読んでんだよ」

 「見りゃわかるだろ……『ロリッ娘ナースに癒されたい!』だよ」

 「…………知らんがな」

 「いやこれはいいぞ……俺もこんなロリッ娘ナースに癒してもらいたいぜ……」

 「……一応聞いておくけれど、どんな内容なんだ?」

 「内容かぁ……風邪をひいて倒れた主人公にロリッ娘達がお見舞いにくるんだけど、ほら風邪とかひいてるとムラムラしてくるだろ? それで主人公のアレがアレしてそれを見たロリ達がみんなでご奉仕を──」

 「もういいわかった。これ以上喋るな」

 「お、おう……」



 ……そして今この紙袋に入ってるのは間違いなく充の読んでいたソレとソレの続編だった。

 というか紗々ちゃんのお父さんこれはありがたいけどこんなものを娘にお見舞いの品として渡すのはどうかと思いますよ!!!

 とりあえず今は紗々父へのツッコミは置いておくとして、問題は顔中に「気になります」という文字がびっしりとかかれているようにさえ思えるこの好奇心に溢れているロリ達にどう説明するか。

 ……あ、そうだ。


 「みんな、落ち着いて聞いてほしい」

 「「「?」」」

 「この中身なんだけど年齢制限がかかっているんだ」

 「年齢」

 「制限?」

 「うん。どうやら15歳以上じゃないと見てはいけない物らしく、僕自身みんながその歳ならば分かち合いたいと思ったんだけど……」


 本当に残念だと、うっすらと涙を浮かべる。

 我ながら名演技だと思う。

 これならきっとロリ達も騙されてくれる。


 「お兄ちゃん……」

 「先生……」

 「みんな、すまないっ!」


 ということでこの件は一件落着。

 入れ替わるように今度は奈穂ちゃんが僕にお見舞いの品を渡す。

 ……今思ったんだけど風邪程度でこんなに貰っていいのだろうかと。

 かと言ってロリ達の好意を無下にするわけにもいかないし……と、自分に言い聞かせながらお見舞いの品を受け取る。


 「湊さんすみません。多分私のお見舞いの品は紗々さんとジャンルが被ってるかもしれません」

 「えっ?」


 そう言われ僕は中身を確認する。

 中に入っていたのはパッケージのソフト。側面には黄色い楕円のシールが貼られておりその真ん中には『18』の数字が書かれていた。

 そして気になるタイトルは……。

 『ロリッ娘ぱらだいす!』

 完全なるロリゲーだ。ちらっと見えるパッケージにはデカデカとこれまた清楚で可愛らしいロリの姿が描かれているが、僕は知っている。これはエロゲーではなく抜きゲーということを。※親友経由の情報です

 しかしここで疑問が浮かぶ。紗々父もそうなのだが……僕にこれを渡してどうしろと!?

 確かに今はなぜだか知らないが無性にそんな気分だが、いくらなんでもピンポイントすぎやしないか?

 あと自分の娘になんてものを持たせてるんだ。

 などなど色々ツッコミどころが多過ぎて追いつかないが……。


 「奈穂ちゃんもあ、ありがとう」

 「喜んでいただけたのなら良かったです♪」


 なんてお礼は言ったものの上手く笑えている確信はない。


 「……」

 「愛莉?」

 「あ、いえ……なんでもありません」


 なにか意味ありげな顔でこちらを見つめていたから何かあるかと思っていたが。

 ……まさか僕の熱がまた上がったことに気がついた……いやいや、僕はここまで完璧に演技をしていた。そして最低でもみんなが帰るまではそれを貫き通す。


 「それにしてもお兄ちゃんが風邪で寝込んでるって聞いた時は焦ったけれど、思ったより元気そうで良かった良かった」

 「ですね。私も愛莉さんから聞いた時は少しばかり取り乱してしまいました」

 「あはは、みんなただの風邪なのに大袈裟だって。それに今はこんなにも元気だしね」


 そう言って力こぶを作るようなポーズを取る。……まあ僕にそんな筋力はないため力こぶなんて出来はしないけれど。

 でもみんな笑顔だし、これでいい。


 「本当だねっ。あー、でも本当に良かったよ。さた、僕達はそろそろ帰るね」

 「えっ、もう帰っちゃうの?」

 「はい。元々そんなに長居するつもりでもなかったので。それに長居して私達まで風邪をひいてしまったら元も子もないですからね」

 「あはは、確かにそうだね」

 「では失礼しました。お大事に」

 「じゃね〜! ちゃんとゆっくり休むんだよ〜」

 「はいはい」

 「では先生、私はおふたりを送るので」

 「うん、行ってらっしゃい」


 そう言いながらいつものような元気と笑顔に溢れているロリ達が部屋を出ていくまで笑顔を絶やさずに見送る。

 ……そして、部屋の扉が閉まりみんなが行ったのを確認すると。


 「…………はぁ」


 そのまま倒れ込んでしまう。

 ここがベッドの上で良かったと心底思う。ここなら倒れたとかではなく、ただただ眠っているだけにしか捉えられないからね。


 「……それにしても色々危なかった」


 僕の性剣はまだ戦闘態勢、そしてそこに追い打ちをかけるようにエロ本とエロゲー。

 色々な意味でトドメを刺されるのかと思ったぜ……。


 「しかしよく耐えた……」


 自分の意識は気を抜けばすぐに落ちてしまうところまで来ていた。

 もしこの場に彼女達が残っていたらとても心配をかけていただろう。

 でも耐えた、僕は耐えたんだ……。

 そんな達成感を感じながら拓海は静かに眠りについた。



 「先生失礼しま……ってやっばりこうなってましたか」


 拓海の部屋に入った愛莉はベッドで少し辛そうに眠っている拓海を見て呆れていた。


 「まったく先生は私たちのためならって無茶しすぎなんですよ」


 言いながら愛莉は換えのポカリと冷えピタを持ち拓海の元へと歩み寄る。


 「冷えピタ貼り替えちゃいますね……って寝ているので返事も出来ないですけど」


 ジェルの部分が完全に乾燥しかけている冷えピタを剥がし、手を彼の額に当てる。


 「こんなに熱があるのに……もう先生は本当におバカさんです。みんなに気付かれないようにって頑張ってたみたいですけど、兼元さんも天海さんも、もちろん私もみんな気付いていましたからね」


 換えの冷えピタを貼ると、まるで母親が子供にするみたいに優しく頭を撫でる。


 「三ヶ月……たった三ヶ月なのかもう三ヶ月なのかわからないですね。でもあの日から三ヶ月も経てば私でも先生が調子いいのか調子が悪いのかくらいはわかります」

 「すぅー……すぅー……」

 「……でも先生はそうじゃないんですか?」


 撫でている手に少し力が入ってしまう。


 「先生……拓海さんからしたら私なんか全然頼りにならないかもしれないですが、これでも私はあなたの未来のお嫁さんであり、恋人なんですよ。守られてばかりのお姫様じゃないんですからもうちょっと頼ってくださいね……」


 今は届かないとわかっていながらも話しかけ続ける。

 自分にはお金もあれば家柄とかもある……だけどそれらを持っていても大好きな人に何もしてあげられない。

 そんなことは一年前からわかっていたのに、今はもっと辛く感じてしまう。


 「……そう言えばもう一年になるんですね。私達がこの家に引っ越してから」


 この部屋も元々はただの客室みたいな存在だったのに、今は私の大好きな人が使っている。

 でも今その大好きな人は辛そうに眠っている。


 「大切な人のためにできる一番のこと……」


 昔どこかで聞いた言葉。

 大好きな彼のために、今の私に出来る一番のことはなんだろう。

 そんなことを考えた時、ふとお昼の時のことを思い出す。


 「……私のおっばい」


 確か拓海さんは私のおっぱいを吸うことが出来たら病魔なんて一瞬で消え去るって。


 「…………」


 (私の……おっぱい……)

 愛莉は自分の慎ましやかな胸を見る。


 「確か先生の小説ではこれをちっぱい(?)て呼ぶんでしたっけ……。それで先生は確かそのちっぱいが好き……。吸えば治る……」


 彼の顔と自分の胸を何度も交互に見る。


 (もし私のちっぱいを拓海さんが吸えば治るのかな……)


 「……ぴゃぁ」


 想像するだけで顔が熱くなってしまう。

 いくら既に何回か見られたことはあるとはいえ、あくまでもそれは見られただけで触られたとかではない。

 それにもしやったとして私のちっぱいの感触(?)とかが悪かったら……。

 そう考えるだけで怖くなる。


 「あい、り……」

 「先生っ!? ──って寝言……というよりうなされているみたいです……」


 そして愛莉はうなされる彼の姿を見て決心する。


 「こんな恥ずかしい事をするのは、今回だけですからね……」


 と、拓海と自分に言い聞かせるようにそっと甘い声で呟いた。




 それから数時間後。


 「……ん、んぅ?」


 とても辛かったはずなのに、いつの間にかそれも消えたらしく予想以上に心地よく目覚められた夜七時。

 窓の外は太陽が山に沈んでいき、空を茜色に染めている時だ。


 「なんだろう……少し甘い匂いがする」


 僕はどこかで感じたような気がする……とても安心するような香りに疑問を抱いていると。


 「愛莉?」


 ベッドの横で眠っている愛莉を見つける。

 その頬は赤く僕の風邪でもうつってしまったのかと額に手を当ててみるも、いつもと同じように感じホッと胸を撫で下ろす。


 「……もしかしてずっと看病してくれたのかな」


 僕はすーすーと気持ちよさそうに寝息を立てている愛莉の頭を優しく撫でる。


 「せんせぇ……早く元気になってくだしゃい……」

 「……うん。お陰様で元気になったよ」


 夢の中でも僕の看病をしてくれている愛莉に感謝の意を込めて頭を優しく撫で続ける。

 とは言ったものの、いつまでもここで休ませておくわけにもいかない。


 「……愛優さん」

 「はい」


 呼びかけるとほぼ同時に開かれる扉。

 この異常な光景さえ今はありがたい。


 「愛莉寝ちゃったみたいだからさ、悪いけどベッドまで運んでくれないかな」

 「……湊様はもう大丈夫なのですか?」

 「僕? うん、僕は大丈夫。多分寝ている間に愛莉が頑張って看病してくれたお陰かな。今は本当に元気になったよ」

 「それは良かったです」


 昼間は色々あったものの、やはり心配してくれていたのか安堵の表情を浮かべる。


 「……湊様は愛莉様のお部屋に入られたことはありましたっけ?」

 「愛莉の部屋? ううん、入ったことはないはずだよ。一応女の子だし気を使って」

 「でしたら良い機会かもしれません。湊様が大丈夫なのであれば湊様が愛莉様の部屋に連れていってあげてください」

 「それは構わないけど……」

 「ならお願いします」

 「は、はい」


 (なんだか今日の愛優さんはいつもと少し違うような気がするな……)

 僕は愛莉をおんぶし、部屋を出ようとした時だった。


 「湊様」

 「はい?」

 「もし愛莉様の部屋で何かを見つけられてもそれは自分の胸の中だけに留めて愛莉様には言わないで下さいね。それと今回も愛莉様を運んだのは私ということに」

 「それはどういう──」

 「秘密ですよ♪」


 最後の最後に少し可愛さを見せ、そのまま去っていく。

 僕がその言葉の意味を理解するのは愛莉の部屋に入った直後だった。

 愛莉の部屋は常日頃から綺麗に片付けられているのか、少しも散らかった様子はない。

 だけど少しだけ目を引くところがあるとすれば、愛莉の机の上に置いてある本、タイトルは……。

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