第17話 風もないのに観覧車のゴンドラが揺れる理由

愛莉達と充達が八合わせてしまってから数日後の七月六日土曜日。


 あと一日も経てば天のロリ姫様とロリコン様が一年間の時を得てようやく出会える日。


 そんなおめでたい日の前日には、外の暑さなど完全に忘れてしまうような快適な部屋の中で三人のロリ達と七夕に飾る願い事を考えたりしていたいのところだが……。




 「遊園地だー!」


 『いやっほーーっ!!』




 僕達は今、遊園地にいます。


 朝武愛莉ともたけあいり、兼元紗々かねもとささちゃん、天海奈穂あまみなほさんのさんロリに加え僕(湊拓海みなとたくみ)、星川充ほしかわみつる、柿本明音かきもとあかねのロリコン組、そして珍しく私服の月山つきやまメイド姉妹こと姉の愛優みゆさんと妹の紗奈さなさんの計八人でここ、富士きゅんハイランドにいます。


 というか久しぶりに月山姉妹の妹の方と会った気がするのは気のせいだろうか……。


 紗奈さんは基本的に地下にある監視室のモニター前で過ごしているため同じ家にいても一階や二階を主に居住区にしている僕達と地下を居住区にしている紗奈さんが中々合わないのは仕方ないが、こうも会わないとその存在すら忘れそうになる。




 「まさか本当に来る事になるとは思わなかったよ」




 呆れたように呟く。


 それもそのはずで、この話が決まったのは本当につい一時間くらい前なのだ。


 紗々ちゃんの思いつきから始まり、なんとなく声をかけた充達も謎の速さで集合場所に駆けつけたりと色々驚きっぱなしだった。




 「私も驚いてます」


 「えっ? 愛莉も?」




 予想外の言葉が愛莉から出てきて僕は更に驚いてしまう。


 それはきっとここにいる三人のロリならみんな同じように出来ると思ったからで──。




 「私ならもう三十分くらい時間がかかってしまいます……」


 「ですよね」




 うん、わかってた。ある意味予想通りでホッとしたけどさ、僕達があそこからここまでくるのにかなりの時間がかかるのにそれを全てお金の力で解決出来ちゃうからこの子達は怖い。




 「おーい、早くしないと置いていくぞー!」


 「今行くよー。ほら、愛莉行こうか」


 「はい♪」




 気が付けばかなり先にいる充達を僕達は軽く手を繋ぎながら追いかけた。








 「わー! 賑やかなところですねっ!」




 興奮を抑えきれずにみんなして入場口から走って出ると、そこには予想以上に沢山の人の笑顔が。




 「うん……僕もここまで人がいるなんて考えてもみなかったよ」




 やはり休日ということもあり、家族連れが多くそのなかでも小学生や中学生が多く見られる。


 そんな環境にロリコン達が乗り込む……それだけでナニかが起こりそうなのだが実際に起こってしまっているのだから仕方ない。


 僕ははしゃいでいるロリ達ではなく、なんとか抑えているものの今にでも飛び出しそうな二人のロリコンに目をやる。




 「ふ、ふふふ……ここなら俺の嫁になってくれそうなロリがいるかもしれない……ふふ、ふふふふ」




 そう言いながら何度もメガネを上げる仕草を繰り返す星川充ことロリコン一号。




 「あぁ~あそこにいる女の子可愛い~!! あ、でもでもあそこに座ってソフトクリームを舐めている男の子も可愛いな~」




 見る子供全てに反応しているんじゃないかと思うくらい色々な子供を見てその感想を口に出す柿本明音ことロリコン(ショタコン)二号。




 そして幸せそうな愛莉達を見てニヤつく湊拓海ことロリコン三号。


 って誰がロリコン三号だ!!




 「というか充も柿本もその顔控えないと出禁になるぞ!!」


 「なっ!? そ、それは困る、困る……そうなったら嫁探しが出来なくなる……」


 「いやしなくていいからね?」


 「確かに……可愛いロリやショタに会えないのは悲しい……」


 「充に比べたら発言はセーフだけど顔がアウトだから抑えてね?」




 こんな風に入場早々さきが思いやれることになるなんて思いもしなかった。


 しかし後ろでそんなことになっていることも知らないロリ達は無邪気な笑顔を浮かべながら入口で受け取ったパンフレットを手にどこから行くか三人で相談しているようだった。




 「人に色々言ってましたが湊先生も十分に顔がアウトですよ♪」


 「……そうですかね?」




 久しぶりに聞いた声の方に身体を向ける。


 すると声の主は満面の笑みで「はい♪」とだけ答えた。


 声の主は愛優さんの妹である月山紗奈さん。普段は朝武邸の地下にある監視室を寝床にしているため滅多に出会わない言わば……。




 「はぐれメタルみたいな存在、ですか?」


 「えっ?」


 「湊先生そんな顔をしてましたよ、それに今ははぐれメタル結構出現率とか上がっているので何方かと言えばプラチナキングです」




 ドヤッと、可愛らしく胸を張る紗奈さん。


 普段会わないせいかちょっとした仕草さえも新鮮に感じるものだ。




 「湊くーん! ちょっといいかか?」


 「?」




 すると何かあったようで柿本が駆け足でこちらに寄ってきた。


 どうしたのかと思ったが何やら手には割った後の割り箸のようなものが握られていた。




 「これ! 一本だけ引いて、紗奈さんも!」


 「えっと……柿本、これは?」


 「チーム分けだよチーム分け。みんなで回るのもいいけど二人で回ってデート気分ってのもいいかなって話が出てさ♪」


 「デートって……男二人しかいないぞ?」


 「ほら私も男みたいなもんだし?」


 「男、ねぇ」




 僕は苦笑しながら視線をやや下へ。


 うーーんデカい。ナニってそりゃ柿本の胸部についている二つのメロンのことだ。


 同年代の人達と比べても普通に大きいそのメロンを付けておきながら男と言い張るのは無理があるのでは? ……なんて言えないが、心の中で思うくらいはいいだろう。




 「ま、細かいことはいいから早く引いちゃってよ!」


 「わかったよ。これは、一番だな」


 「私は四番ですね」


 「湊君が一番で紗奈さんが四番ね! あっちの方で確認してくるから待ってて!」


 「いや僕達もそっちに行くからいいよ」




 こうしてみんなと合流し番号を確認しあった僕達はそれぞれのペアに別れて行動することになった。


 割り箸式のやつで完全に運……のはずなのだが、どうやら運命というものは本当にあるらしい。




 「先生、まずはどこから行きましょう♪」


 「うーん、そうだな。愛莉の行きたいところから行きたいかな」


 「もう、先生ったら。それだと私も先生の行きたいところに行きたいので一生決まらないですよ」




 一番ペア──湊拓海、朝武愛莉。




 「奈穂ちゃんはどこから行きたい?」


 「うーん、そうですねぇ……星川さんはホラー系とか大丈夫ですか?」


 「ホラー? 全然大丈夫だよ!」


 「でしたら私ホラー系全制覇したいですっ!」


 「わかった、二人で富士きゅんハイランドのホラー系全部制覇しちゃうぞー!」


 「「おーっ!」」




 二番ペア──星川充、天海奈穂。




 「遊園地……」


 「そしてここは絶叫系アトラクションで有名な富士きゅんハイランド……」


 「明音お姉ちゃん!」


 「うん、紗々ちゃん!」


 「「二人で絶叫マシン制覇しよう!! そして無事に生還を!」」


 「ということでまずはよいじゃないかからだ~!!」


 「いえーい!」




 三番ペア──柿本明音、兼元紗々。




 「あはは、これも姉妹の縁ってやつなのかなお姉ちゃん」


 「まあそうかもしれないわね。でも私は紗奈と外出できて嬉しいからこれはこれで良かったかも」


 「お姉ちゃんありがとう。実は私も久しぶりにお姉ちゃんと遊べるから嬉しかったり?」


 「じゃあ折角のお休みだし二人でとことん楽しんじゃおうね♪」


 「うんっ♪」




 四番ペア──月山愛優、月山紗奈。






 「あっ! 先生、私あそこに行ってみたいです!」




 みんなと別れてから10分近くそこら辺を歩いていると、何か行きたいアトラクションを見つけた愛莉が指を指す。


 その指の先を見ると、そこには……。




 「お化け屋敷?」


 「はいっ!」




 いかにもみんなが思い浮かべるお化け屋敷のようなお化け屋敷があった。


 見た目からして子供向けに作られていそうだが、別に断る理由もないし何より愛莉が行きたいと言うんだからと、なにも疑わずに中へ入った……。




 「ぎゃあああああああっ!?!?」


 「きゃあああああ!!!」




 二人の叫び声がアトラクション内に響き渡る。


 外のいかにもなところから考えにくいほど中はしっかりとしていて、大丈夫だと思っていたはずが、いつの間にか叫び声しか上がらなくなっていた。






 「結構本格的だったねあのお化け屋敷……」


 「は、はい。私もあそこまでとは思ってもみませんでした……」




 なんとかお化け屋敷から出てきた僕達は、まだ一つしか回ってないというのにどっと疲れが出てきたので、しばし近くのカフェで休憩中。




 「うーん」


 「どうかましたか先生?」


 「あ、いや。さっきのお化け屋敷の事なんだけどあれを元に何か話が書けないかなって思ってさ」


 「なるほど。確かにあそこはインパクトがありましたから良いものが書けそうですね」




 流石は先生です。とでも言い出しそうなくらい目を輝かせる。


 そのうち「さすあに」ならぬ「さすせん」とか流行りそうだな、流行らないな、うん。




 「ちなみにですが先生は今回みたいに何かを見ただけでアイディアが浮かんだりするんですか?」


 「んー、アイディアか。難しいところだね」


 「難しいですか?」


 「うん。明確な答えがなくて申し訳ないけど浮かぶ時は浮かぶし浮かばない時は浮かばない」


 「なるほど……先生でさえそんな事もあるんですね」




 愛莉は意外という表情を浮かべるが、僕は「そんなことないよ」と言わんばかりに困ったような笑みで首を横に振る。




 「そう言えば少し気になったことがあるんだけど」


 「はい」


 「入る時年間フリーパス使ってたけどそれってたまたま持ってたの?」


 「ふふっ、先生は本当によく見られてますね」




 愛莉はなんだか嬉しそうに笑う。


 入場口の時、愛優さんはいつの間にか用意したフリーパスを僕達に渡してくれた。


 でも愛莉達は貰っていなかった、最初は僕達の知らないところで……とも思ったが、明らかに僕達の持ってるやつとは違うってことに気がついたってわけだ。


 愛莉は飲み物を一口飲み、




 「そうですね……何方かと言えばたまたま持っていた、ですね」




 そう言って愛莉は何かのカードケースを取り出す。見た目は女の子らしく可愛いのだが、どことなく高級感があるので恐らくこれもかなりのものなのだろう。


 中にはそれなりにカードが入っているのか、厚みがあった。




 「これ全て年間フリーパスなんです」


 「へぇ~…………え?」




 思わずその場で静止。


 しかし愛莉は僕に構わず、自分の持っている年間フリーパスをTCGのカードを広げるくらいの感覚で机の上に並べていく。




 「こちらが東京デスティニーランドにシー、ユニバーサル・スタジオ・ニッポンなど、有名なところはいつ誘われるかわからないのでとりあえず一通り揃ってますね」


 「そ、そうなんだ……」




 とりあえず一通り年間フリーパス揃えてあるって……。


 それに有名なところと言っていたのでもちろんお手頃なところからさっき言ったユニバーサル・スタジオ・ニッポンみたいに僕達庶民が気軽に行けないところのフリーパスまで揃えているということだろ? 一体それだけでいくらになるんだ……。


 少し考えるだえで身震いしてきた。




 「というかそんなに持ってて使うの?」


 「うーん、そうですね……。基本的には使いませんが、いざって時のために、と言う感じです」


 「えと、それはつまり使うかわからないけどとりあえず持っておこうって感じなの?」


 「簡単に言うとそうですね。今回の富士きゅんハイランドも前回来たのが一昨年なので」


 「ということは去年の分は」


 「買っただけで終わりましたね。少し勿体ないことしました」




 そうは言うがその勿体ないの考えは僕達と少し違った感覚なのだろうなと思ってしまう。




 「あっ、先生の分もご用意しましょうか? 今回みたいに急に出掛けようってなるかもしれないので。それに持っておくと色々便利ですよ♪」


 「え、あ、えーっと……そうだなぁ……」




 そんな電車の回数券とか定期を買うくらいの感覚で言われたけど、どうしよう……。


 愛莉の事だから愛莉と全く同じくらい用意するに違いない。嬉しいし有難いんだけど、果たして僕よりかなり歳下の幼女にそんなものを用意して貰って良いのだろうか? いや自分の立場を考えればそんな事言える立場ではないのはわかっていても、やはり歳下の彼女に全部買ってもらうのはなぁ。


 あれこれ悩んでいると、愛莉はどんどん申し訳なさそうな顔になり。




 「あの……もしご迷惑でしたら無理に頷かなくても……」


 「あ、いや! 折角愛莉からの申し入れなんだからありがたく受けるよ!!」




 僕は反射的にそう答えていた。


 男ロリコンなら仕方ない、だって女の子にあんな顔されたら……ね、わかるだろ?




 「では明日にでもご用意しますね♪」


 「う、うん。ありがとう愛莉」




 愛莉はぱあっと世界一の笑顔を僕に見せた。


 それを見てると「まあ、この笑顔が見られたのだから多少のプライドなんて……」と、思わずにはいられなかった。






 カフェを後にした僕達は富士急きゅんハイランドの名物の一つの『良いじゃないか』や回る回るメリーゴーランド、コーヒーカップなどデートっぽいアトラクションを中心に楽しんだ。


 そして一通り回ると、辺りは茜色に染まってきた頃……僕達はどちらから言ったというわけでもなく自然と観覧車へと足を進めていた。




 「えへへ、なんだかこうして二人きりで観覧車に乗ると本当にデートっぽいですね」


 「確かにそうだね」




 観覧車に乗り、扉が閉まると完全に密室状態になる。


 そんな空間がよりソレを強くしているのだろう、愛莉の頬が夕焼け色になっているのはきっと今日の夕焼けがいつもより綺麗に見えるからというわけではなさそうだ。




 「一周したらデートも終わりなんですね……」




 名残惜しそうに窓から園内を見る。


 そこには最初に行ったお化け屋敷や、休憩したカフェ、コーヒーカップなど今日行ったところ全てが見渡せる。


 移動だけで少し時間がかかるほどに大きいところなのだが、こうしてみると園内はちっぽけに見えてしまう。


 だけどそのちっぽけな園内にあるもっと小さい一つ一つのアトラクションは夕日に照らされてキラキラと自分達の事を知らせるように輝いていた。




 「愛莉は楽しかった? 僕は多分今まで生きてきた中で一番楽しかった」


 「はい。私も一番楽しかったです。憧れのたくみな先生と出会って、婚約者として恋人になって……今日だけではなく今までもとても楽しい時間でした、でも今日は今までの事がここから見えるアトラクションのよう、ちっぽけに思えてしまうくらい今日は楽しかったです」


 「僕も愛莉と出会って本当に楽しかった。最初……というか今でも金銭感覚とか世界の違いとかに驚かされっぱなしだけど」


 「そうだったんですか?」


 「うん。さっきの年間フリーパスの時もかなり驚いてたよ」


 「全然気が付きませんでした」




 そんな今日あった実はの話をしていると、いつしか僕達の乗っているゴンドラはテッペンの近くまできていた。


 ふと空を見れば一番星が見え始めている。




 「もうすぐで半分ですね」


 「もう半分なんだね。なんだかあっという間だった気がする」


 「ふふっ、そうですね。デートも最後……なんですね」


 「デートの最後だね……」




 これ以上は何も言わない。


 何故ならデートの終わり、観覧車……ここまで来れば作家でなくても、読者でなくてもわかる。


 僕達は目を瞑り、そのまま顔を近づけ唇と唇を重ねる……はずだった。




 「──ッ!」


 「きゃっ!?」




 しかし物事は上手くいかない、愛莉が目を瞑ったからといって僕も目を瞑りそのままバカ正直に愛莉の方へと顔を近付けたのだが距離感を誤ってしまいそのまま前方へバランスを崩し、顔は当初の予定の方ではなくそれよりやや下……愛莉の育ち始めのちっぱいへ。


 どしん! という音と共に揺れるゴンドラ、しかし音の割には身体へのダメージは少なかった。


 いくら育ち始めのちっぱいとは言え柔らかさはあるので、僕の顔は上手くそれにキャッチされた。




 「……やっぱり中々上手くいかないものだね」




 最後くらいカッコよく締めたかったが、やっぱり僕達はこうなる運命のようだ。


 顔を上げるとそこには僕と同じように困った顔の愛莉がいて、




 「本当にそうですね。漫画や小説みたいにはいかないです。……でも」




 ──ちゅっ。


 その直後、唇に柔らかい感触が伝わりそこから体全体に熱が広がっていった。


 僕は今どんな顔をしているのだろう、愛莉のように夕日のように顔を赤らめながらも幸せそうにしているのだろうか。


 ……いや考えるのはやめよう。例え僕がどんな顔をしていても今はただこの幸せと感じる時間を大切にしよう。






 「二人ともおっそーい!」




 集合場所に近付くと僕達を呼ぶ紗々ちゃんの声がした。


 声がするほうを見ると、そこには既に僕達以外みんな揃っているようで手を振りながら僕達の合流を待っていた。


 集合場所に戻る頃には辺りも暗くなり、昼や夕方とはまた違った風に見える。




 「お二人ともハメを外すのはいいですが、ハメるのもほどほどに」


 「え、そうなんですか湊先生?」


 「そんなわけないでしょ! というかこんな場所でそんな事言わないでくださいっ!!」




 いつものようにいたずらっぽい笑みを浮かべながら僕をからかう愛優さん。


 しかしその顔はいつもより年相応の女の子……という感じがしていつにも増して魅力的に感じた。


 きっと姉妹水入らずで最高の一日を過ごせたのだろう、紗奈さんも前に見た時よりずっとずっと楽しそうに見えたのだから。


 それはほかの人も同じ事で……。




 「──って、あれ? 充はどうしたんだ?」




 女子小学生と擬似デートできて一番はしゃいでいてもおかしくないやつの姿が見えず辺りをきょろきょろ。


 するとみんなの横で一人体育座りで丸まっている謎の生き物を見つける。


 声をかけようとしたが、そこで柿本に止められ小声で耳打ちをされる。




 「星川君……どうやら最後に奈穂ちゃんと入った廃病院でかっこ悪いところ見せちゃったみたいで……」




 そこで充をチラリと見る。先程まではわからなかったが、小声で少し泣いているのが確認できた。




 「……そんなにヤバかったのかあそこ?」


 「うん。奈穂ちゃんはわからないけど星川君変に霊感とかいいから……」


 「なるほど」




 ここ富士きゅんハイランドの廃病院は従業員と本物の幽霊が人を驚かせに来るというので有名で、実際働いている人でもお客様以外で知らない人とすれ違ったりすることもあるらしいし、そういったのがある人には地獄なのだろう。


 とはいえ親友がこのままなのもアレなので励ましに肩を叩く。




 「まあ、なんだ。元気出せよ」


 「たーくーみぃぃぃっ!!」


 「うわっ! よせ、こんなところで抱きつくなっ!!」


 「だっでええぇぇっ!! あそこの中で小学生くらいの女の子が泣いていたと思って近付いたら顔がないし、小学生くらいの女の子に「こっちに来て、助けて」と言われてついて行ったら金縛りにあうしで散々だったんだよおおおおお!!」


 「わかった、わかったから落ち着け落ち着けって!」


 「その上怖すぎて泣いちゃったところを奈穂ちゃんに見られちゃったし俺もう生きていけないいいいいいい」


 「だからって抱きつくなっ! それにまだ挽回のチャンスもあるかもだ、ここから頑張ればいいから!」


 「ほんとうに?」


 「ああ、それに天海さんだって幻滅したとは限らないだろ?」




 そう言って僕は天海さんに助けを求めるように目で合図を送る。


 天海さんは僕の合図に気付いてくれたのかこちらに歩み寄り、そっと丸まっている充の頭の上に手を置く。




 「私は星川さんの事、幻滅したりもかっこ悪いとも思ってませんよ」


 「……本当に?」


 「はい、本当にです。確かにあの時の星川さんの行動はわからなくて少し怖いと思いましたが、今の話を聞いて星川さんも湊さんと同じ#変態紳士__ロリコン__#なのだとわかってホッとしました」




 天海さんの優しさに触れて、涙でぐちゃぐちゃになっていたイケメン顔はもっとぐちゃぐちゃになってしまう。


 しかし天海さんはその手を離さず追撃という名の説得を続ける。




 「女の子のために恐怖なんかに怖気ず助けに行く……私はそんな星川さん大好きですよ」




 そう言いながらフィニッシュを決めるかのように優しく微笑みながらまるでお母さんが泣いている子供を安心させるかのように充を抱きしめた。


 泣きじゃくる男子高校生を優しく抱きしめる女子小学生……周りからの視線が物凄く痛い。


 できる事なら僕達もそのギャラリーに混ざりたいくらいだ。




 「はい、おしまいです」




 そう言って天海さんは充から離れる。


 抱きしめていた時間は一分か二分くらいなはずなのに一時間くらいに感じてしまったのはどうしてだろうか。


 それを見ていた愛莉は他の人には聞こえないようにそっと小声で。




 「天海さん凄いですね……私にはあんな事出来そうにないです」


 「そうかな?」




 僕は軽く今の光景を自分と愛莉に置き換えて想像してみる。


 あの位置からするときっと顔は愛莉の小さなちっぱいに埋めることになるだろうから…………そこで先ほどの観覧車の事、僕がバランスを崩してからキス……そしてその先に至るまでの事を思い出してしまう。




 「「──ッ!!?」」




 しかし置き換えて想像し、先程のことを思い出したのは愛莉も同じだったみたいで、二人して顔を真っ赤にしてしまう。




 「ん? おやおや~二人とも顔が赤くなってますなぁ~。もしかして星川君のを見てあれが自分だったらって想像しちゃった?」


 「ばっ、そんな事……ないであるよ?」


 「そ、そうですよ。そんな事……ないです」


 「あはは! お兄ちゃん達語尾がおかしいよー」




 二人からの総ツッコミを受け、何も言ってこないが生暖かい目でメイド姉妹から見られ更に顔を赤くする。


 ……キスしかしてないのにここまで恥ずかしいと思ってしまうのは僕が童貞だからなのかな? とさえ思ってしまう。




 「みなさんそれよりも観覧車に行かなくてもいいんですか?」


 「あっ! そうだった!」


 「そういえばそんな話でしたね」


 「さっきの事ですっかり忘れてた」


 「いや~私もだよ~」


 「ということで……急げー!!」




 速すぎる展開についていけず僕と愛莉はその場で取り残される。


 そして僕達は顔を合わせると、自然と笑みが零れる。




 「やっぱりみんな考える事は同じなんですね」


 「まあ僕の親友だからね」


 「なら私達も」


 「行こうか」


 「はいっ!」




 僕が手を伸ばすと、愛莉はその小さな手でしっかりと握りしめる。


 それを合図に僕達はみんなの後を走りながら追いかけた。


 この高校二年生の夏。僕達ロリコンと三人のロリによるこの先も失うことのない輝きに満ちた掛け替えのない日常が動き出した事を感じながら、みんなは初めてのこの夜景を、僕と愛莉はさっきとは違った夜景を眺めていた。

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