第3話 両手にロリでもひとロリ余る
「先生、起きてください。せーんせーいっ」
「ん、んん……」
天使のような優しい声と共に、不意に自分の身体が揺らされ夢の世界から現実の世界へと引き戻される。
「おはようございます、先生っ」
「うん……おはよう、愛莉」
まだ重いまぶたをこすりながら目を開けると、そこにはピンク色を基調とし、スカートや腕の裾には白のレースが付いており、胸元の小さな白いリボンが可愛さを際立てているワンピースを着た愛莉がいた。
開かれたカーテンから差し込む朝の日差しは天使のような愛莉と重なる。
その重なった日差しは、まるで愛莉に天使の翼が生えたようにも見え、本当に天使が降臨したのかと思ってしまうほどだ。
というか愛莉、本当は天使じゃないのか?
「……天使、だよな」
心の中で自問自答するつもりだったのだが、気が付けば僕の口は自然とそう答えていた。
いきなりそんなおかしな事を言うのだから、愛莉は目を丸くしてこちらを見ていた。
「天使、ですか?」
「あ、いや。なんでもない……ちょっと寝ぼけてただけだよ」
「ふふ、寝ぼけてしまうのも仕方ないですが、 早めにお着替えをすませてくださいね」
僕の失言に愛莉は楽しそうに笑う。
「そうか……今日は愛莉の友達が来るんだっけ」
そう言いながらいい加減体を起こし、背伸びをする。
「そうですよ先生。私はいつもの先生も好きですが……その、いつもと違う先生も見てみたい、なんて」
どこでそんなのを覚えたのかわからないが、愛莉はいじらしくその純粋な眼差しで上目遣いをしてきた。
僕は断言しよう。この仕草と愛莉の天使のような笑みにはどんな事をしても勝てないと。
ということで、僕は愛優さんに用意してもらった服に着替えた。
ピシッとしていて、シワ一つない服。これはアイロン……じゃないだろうな、きっと僕には想像もつかないことをしているんだろう。
一応言っておくけれど着替える時はみんな外に出てもらった。
いくら年下で小学生、その上結婚の約束をしたとあっても、見られるのも恥ずかしいのだ。
丁度着替えが終わり、僕が愛莉達を呼ぼうとした瞬間、タイミングを見計らったように外から声がかけられる。
「湊様。お着替えが終わったようなので失礼します」
「あ、は、はい」
声と共に開かれる扉。と言うかなんで着替えが終わったって知ってんだよこのメイド……。
「私は超一流のメイドですから」
「何も言ってないよ?」
「失礼しました。湊様の着替えが終わったのをどうしてわかったのか、みたいなお顔をされていたので」
「…………」
この人ただの変態キャラだと思ってたけど、やっぱり愛莉の専属ってだけあって凄いな。
愛優さんに関心をしていると、家に近付く車の音が聞こえてきた。
僕は窓から音のするほうを確認すると、家の前に黒いワゴン車が止まった。
「来たようですね。それでは行きましょうか先生っ」
いつの間にか隣にいる愛莉は嬉しそうに僕の手を取り、玄関へとかけていく。
玄関には既に愛優さんがお出迎えのスタンバイをしていた。
というかこの人僕達よりも後に部屋を出た気がしたんだけどな……。
僕達が玄関へとたどり着くと同時に、扉が開かれる。
「やっほー! 愛莉約束通り遊びに来たわよ」
「愛莉さん、おはようございます。結局予定を全部蹴って来ちゃいました」
そう言いながら入ってきたロングストレートの茶髪と黒髪のサイドテールが特徴のふたりのロリだった。
ふたりとも愛莉のが着ているワンピースで色違いで茶髪の子が白、黒髪の子がライトグリーンを基調とした同じデザインのものを着ている事から余程愛莉と仲がいいのだとわかる。
「天海さん、兼元さんようこそですっ」
「うん、おじゃまするねーっ!」
「愛莉さんおじゃまします」
ふたりのロリはそう言うと、こちらの方へとやってくる。
「愛優お姉ちゃんおはよー!」
「愛優さんおはようございます」
「はい、紗々様に奈穂様ようこそいらっしゃいました」
僕はこの光景に対し、素直に驚いていた。お嬢様……とかはやっぱりメイドに厳しい印象を持っていたのだが、どうやら愛莉やその友達はそうではないらしい。
まったく、愛莉に着いてきてから僕の偏見で固められたお嬢様の世界の見方がかなり変えられていくな……。
とかそんな事を思っていると、ふたりのロリの視線がこちらに向いていた。
「えーっと……初めまして……でいいん、だよね奈穂?」と、黒髪の子。
「はい、私も見たことないので……こちらはどなたですか、愛莉さん?」と、奈穂と呼ばれた茶髪の子。
僕は二人の方へ向き、優しくほほ笑みかける。
「僕は湊拓海と言います、今後ともよろしくお願いします」
僕がそう言いながら頭を軽く下げると、二人のロリから「カッコイイ……」「なるほど、このお方なら納得ですね」と、中々の高評価を得られた。
すると、今度は愛莉が僕の隣に来て、胸を張りながら。
「そして、この方があのたくみな先生なのですっ!」
「えっ!? この紳士だけど、見た目は地味なお兄さんがあのロリコンで有名なたくみな先生なんだ」
「確かに見た目は地味ですが、あの素晴らしい本を書いていることには変わりないんですから、余りストレートに言ってはダメですよ紗々さん」
「はぁーい」
「あはは……」
僕は苦笑いを浮かべる。
確かに自分のことをイケメンだと思っているわけでもないし、ロリコンなのも認めるけれどこうもはっきり言われるとなんとも言えない気持ちになるよね。
「ふふっ、先生は魅力的なお方ですよ。それにとてもお優しいですし、その上あのような作品を生み出せる……これだけあれば私にはほかには何もいらないですよ」
まったく、この子は言われたら嬉しいことを影一つないとても輝いた笑顔で言ってくれるよこんちくしょう……。
「ひゃう!? せ、先生?」
「ありがとう、愛莉……」
溢れ出る気持ちを抑えきれなくなり、僕は思わず愛莉の頭を撫でる。
「そんな、お礼だなんて……えへ……えへへ…………」
「それでも嬉しかったから、ありがとう」
「先生が喜んでくれるなら私は何回でも先生のいいところを見つけますよ」
「愛莉ぃ……」
「ひゃっ!? 先生、そんなにはげしくしたらくすぐったいですよぅ」
それでも僕はこの溢れ出る気持ちを隠すように愛莉の小さな頭を撫で続ける。
そんな光景を見て、ふたりのロリは口を開けたまま固まっていた。
「ん? どうかしたの?」
僕は手を止めて二人の方へ向く。
「あ、ううん。愛莉が、男の人にここまで心を許しているのは珍しいなって……」
「はい……私の知る限りでは愛莉さんが家族以外の殿方でここまで心をお許しになっているのは、初めて見ました。あなたは一体……」
「僕? 僕はただの高校生だよ。小説を書いていること以外はどこにでもいるような普通のね」
僕はそう答えるものの、「信じられない」とでもいいだけな顔でこちらを見てくるふたり。
「それでさ、僕もふたりの事を知りたぃだけどいいかな?」
「そういえばまだ自己紹介してなかったね、えへへ」
そう言いながら前に出てきたのはサイドテールの子だった。
「ボクの名前は
「お兄ちゃん……? ま、まぁとにかくこちらこそよろしくね兼元さん」
「むー、お兄ちゃん!」
「は、はい!?」
「ボクの事は呼び捨てでいいよ、お兄ちゃんのが年上なんだからさ」
「分かった。では紗々ちゃん、改めてよろしくね」
「うんっ!」
僕が握手しようと手を伸ばすと、紗々ちゃんは嬉しそうに小さくて柔らかい手で僕の大きな手を握る。
子供特有の高い体温が僕の手を包み込む。
「次は私ですね」
今度は茶髪の子が前に出る。
「私は
「へぇ、天海さんのお父さんはゲーム会社の社長なんだ……って、TENKAI!?」
「はい。そうですが……もしかして湊さんご存知なのですか?」
「もちろんだよ! と、言っても僕はあんまりやったことなくて、親友がやってるのを見せてもらったり、貸してもらったりしてるくらいだけどね」
「それでも光栄なことです! まさかこの家に二人ものエロゲーマーがいたなんて……」
「……ん? ふたり?」
話の流れ的に一人は僕は確定だとしてもう一人は?
「紗奈の事ですよ」
「ッ!?」
いきなり愛優さんに耳元で囁かれ、驚いた僕は思わず後ろにジャンプする。
「み、愛優さん……いきなりは勘弁してくださいよ。それで、紗奈さん……がどうかされたんですか?」
僕は姿勢を戻しながら問いかける。
「今のエロゲーマーの話ですよ。湊様と……紗奈がこの家の中でエロゲーを趣味ではなく、生き様としているのは」
「あの、そこにしれっと僕の名前を加えるのやめてくれません? 僕はやったことあるレベルで持ってはいないんですが?」
「そうでしたか……では、こちらはどう説明するおつもりで?」
そう言って愛優さんは一つのゲームを取り出した。
そのタイトルは……。
「み、美優さんそれは!?」
「『ロリのために僕は抜く』ですが?」
「まぁ!」
ぱぁっと笑顔を咲かせる天海さん。
ちなみな『ロリのために僕は抜く』とは、天海さんのお父さんの会社TENKAIが去年の夏発売したエロゲーである。
内容としては、ひょんなことから主人公、瀬間颯太は夢を叶えるために魔法幼女となった女子小学生……鈴里菜々と出会う。
夢を叶えるために活動していた菜々達、魔法幼女に悲劇が襲う。
魔法幼女は人の幸せのエネルギーを糧に魔法を使っていたのだが、突然その幸せのエネルギーがあまり取れなくなってしまったのだ。
そこから色々と試した結果、セックスをすると前以上に魔法が使えるように判明したのはいいものの、菜々の周りには他にも魔法幼女がいてその子達にもバレてしまい、幼女と願いを叶えるためにセックスする。
と、言ったゲームだ。
ちなみにネットでの評価は最大評価の5.0と大好評だが、ぼくの中では10.0を付けたいくらいだった。
ちなみに十八歳になっていない僕がどうしてエロゲーを持っているかと言うと、僕は他のサークル仲間とも遊びに行くことがあったので、その時に譲り受けたものだ。
だから良い子のみんなはエロゲを買うのは十八歳になってからにしようね。僕とのお約束だよ。
「ど、どどどどどうしてそれを!?」
「先日湊様の部屋にお邪魔した際、偶然にもクローゼットの壁が二重になっている事に気付き、剥がしてみたところこれの他にもいくつかのゲームと本が少々……」
「わーっ! わーーーっ!!」
僕は愛優さんの言葉をかき消すように声を上げる。
と、そんな僕に誰かがしがみついた感覚を覚え、振り向くとそこには天海さんが僕に抱きついていた。
「流石湊さんですっ! 我社でもかなりの名作となった作品をプレイしているなんて!」
「あはは…………ん?」
僕はその時、あることに気がついた。
抱きつかれたところがなんかむにゅっとむにゅっとしたのだ。一言で簡単に言い表すのなら、柔らかかった。
それはロリ特有のもちもちした肌とは違った、もっとしっかりとしたまるでマシュマロみたいな柔らかさなのだ。
……つまり、これが示す答えはひとつしかない。
天海さんは……見た目は朝武さん達と同じAAだと思っていたのに実際にはそのワンランク上のAだったのだ!!
しかし、僕は変態ではなく、ロリコンと言うなの紳士。
こんな事では発情などしない。なので僕はあくまで冷静に対応する。
「あ、あの、天海ひゃん! は、離れて貰っても大丈夫れすか!?」
「? 湊さん……噛み噛みですが、どうかされましたか?」
その言葉で完全に我に返った僕は今度こそ落ち着いて「大丈夫だから」と言って離れてもらった。
その際、天海さんは僕の下半身を見て、くすりと笑い耳元で「小学生に胸を当てられて興奮するだなんて……とんだ変態さんですねっ」と言われてしまった。
もちろんロリにそんな事を言われたら抑えが効かなくなるわけで……。
「ご、ごめんみんなっ! ちょっとやらなきゃいけないこと思い出したから部屋に戻ってるね!」
と、言って暴走した僕のアレを見られぬよう逃げるようにこの場から立ち去った。
その光景を愛優さんは頭を抱えながら、天海さんはくすくすと笑いながら、愛莉と紗々ちゃんは何が起こったのかさっぱりという表情で見守っていた。
それから数分が経ち、僕の暴走も収まった頃、みんながいるリビングへと足を伸ばす。
リビングに入ると、天海さんと紗々ちゃんが隣同士で座り、その正面に愛莉が座っていた。
「みんなさっきはいきなり抜け出してごめんね」
そう言いながら僕は空いている愛莉の横の席に座る。
すると愛優さんは僕の前にみんなと同じ紅茶の入ったコップを置く。
「それではみなさん揃ったことですし、さっき言っていたゲームをやりましょう!」
手を合わせ、とても楽しそうに笑顔を見せる愛莉。
「ちなみにどんなゲームをするの?」
「よくぞ聞いてくださいました先生! やるゲームは……こちらです!」
「ッ!?!?」「まぁまぁ〜」「何それー?」「…………」
朝武さんの取り出したゲーム……それはさっき愛優さんが出した『ロリのために僕は抜く』だった。
それに愛優さんは言葉を失い、天海さんは満面の笑みを浮かべ、紗々ちゃんは興味津々に食いつき、僕は部屋の隅で頭を抱えていた。
ここは地獄か……。
まぁ僕達がこんな反応になるのも当然なわけで。
「愛莉……本当に、ソレ、やるの?」
「はいっ! 先生がやったゲームであるなら私もやっておきたいのと、魔法幼女というのがとても気になりますっ!」
目をキラキラさせながら言われてもなぁ……。魔法幼女は簡単に言うと魔法少女が少女になる前……つまりロリの時になった感じなのだ。
まぁそこまではいい。問題があるとしたら、話を進める際どんな√に進んでも必ず性行為のシーンはあるのだ。
流石に愛優さんや紗奈さんとならまだしも、何も知らない愛莉達と一緒にやるのはどうなのだろうか…………完全にアウトだな。
とかなんとか考えていると、僕は肩を叩かれる。そのほうを見ると、愛優さんが一枚のディスクを渡してきた。
僕はみんなに気付かれないように小声で尋ねる。
「愛優さん、これは?」
「ロリのために僕は抜くの体験版です。先ほど紗奈に落としてもらいました」
「なるほど、確に体験版ならセーフゾーンまでしか出来ませんね。流石紗奈さんです」
「えぇ、こういった時本当に助かります…………。では、湊様あとはお願いしますね」
「わかりました。任せてください」
僕は愛優さんから体験版のディスクを受け取ると、僕達はプレイするために僕の部屋へ。
僕の部屋に入り、自分のパソコン(と言いつつも愛莉に用意してもらったもの)にさっき愛優さんから受け取った体験版をこっそり入れて、ゲームを開始する。
「私、こういったゲームは初めてなのでわくわくしますっ!」
「ボクもこの手のゲームは初めてだから少し緊張してきたよ」
「ふふっ、我社の最高傑作を楽しんでくださいねっ」
『はーいっ!』
僕は愛莉達がそっちに気を取られているうちにサッとゲームをスタートさせる。
何故ならば、タイトル画面に体験版の文字が出てしまうからである。
ちなみにスタートさせた後、天海さんは僕にウインクをした辺りきっと体験版をやろうとしているのはバレているんだろうな。
「さっ、みんなもう始まるからね」
僕の合図でみんな僕の周りにくる……のはいいのだが、そこで問題が発生した。
PCはノートなので低い机の方でみんなが座りながら見れるようにしたのはいいのだが、僕が主に動かすために正面に座る。
しかし初めてのエロゲーということで愛莉と紗々ちゃんも正面から見てみたい、ということになり…………。
「どうして……こうなった」
僕の膝の上に愛莉も紗々ちゃんのふたりが座り、僕の背中に天海さんが抱きついた形になっていた。
天海さんが言うには「座るよりこっちの方が楽なのでこのままでお願いします」との事。
最初こそ戸惑ったものの、僕はロリコンであり、紳士だ。ロリのお願いを断るわけがなく、このままエロゲをやることにした。
エロゲをスタートさせると、まずは主人公瀬間颯太が最初に出会う魔法幼女、鈴里菜々が魔法幼女に変身するところを目撃するところから始まる。
「わーっ! 変身、変身しましたよ先生っ!」
「うん、これからいっぱい変身するから楽しみだね」
「この衣装可愛いな〜。ボクも着てみたいよ」
「あはは、そうだね。きっと似合うと思うよ」
そんなこんなで最初のCGから盛り上がって始まった『ロリのために僕は抜く』なのだが、盛り上がっていたところあるシーンでみんな一斉に黙り込んでしまう。
その画面には、魔力切れで発情してしまい頬を赤く染め、呼吸を荒らげながら、主人公のうえに馬乗りになった菜々と主人公が映っていた。
「はぁ、はぁ……瀬間……さん。私、もぅ……」
「あぁ、わかっている……今楽にしてあげるからな」
「んッ」
主人公の言葉を最後にCGは移り……画面には菜々と主人公の魔力補給のための濃厚なキスシーンが映し出された。
何故だろうか、一人でやる時は恥ずかしいとは思わないのにみんなでやるとこうも恥ずかしくなるのは…………。
恥ずかしいのは僕だけではないらしく、愛莉や紗々ちゃんは小さな手で顔を隠しながらも気になるようでチラチラ見て、それでいて「ひゃ〜」と小さく叫びながらまた顔を隠し、またチラリと見て……を繰り返していた。
そんな中、こんな空気を慣れているのか抱きついている天海さんがふたりに聞こえないようにそっと耳打ちをしてくる。
「湊さんも……愛莉さんともうこんなことしているのですか?」
「なっ!?」
僕は首がもげるのではないかと思うくらいの勢いで振り返る。
すぐ近くに天海さんの顔があることを忘れて振り返った僕の顔はあと数センチ近付くだけで、天海さんに触れてしまいそうなくらいの場所にあった。
慣れていると思っていた天海さんの顔は耳まで赤く染まり、びっくりしたのか目を大きく開いていた。
僕の吐息が天海さんに、天海さんの吐息が僕の顔に当たる。
画面では菜々と主人公の濃厚なキスが続いている。
そのせいか、僕の意識は天海さんの柔らかく甘そうな唇へ。
「…………」
「湊さん?」
「ッ!?」
不意に天海さんに声を掛けられた僕は飛び退くように離れる。
「湊さん顔がとても赤くなってますがどうかされました?」
「あ、いや。こんな風にみんなでやるのは初めてだから少し緊張しちゃって……」
「ふふっ、そうなんですね」
笑う天海さん。それと同時にキスシーンは終わり、みんなの意識がこちらへと向く。
「先生も緊張していたんですね……よかったです、私達だけじゃなくて……」
「お兄ちゃんて意外と恥ずかしがり屋さんだったんだね」
「実はそうなんだよねあはは」
頭に手を当て誤魔化すように笑う。
それからは特に過激なシーンも無く、ロリ達との初エロゲーはこうして無事に幕を閉じた。
それからみんなで夕飯を食べたり、折角なら普段できない遊びをということで、(僕は慣れているけれど、お嬢様はそうでもないらしい)トランプをしたりと色々遊び、疲れた僕は先にお風呂をいただくことにした。
「ふぅー」
僕はゆったりとお湯に浸かると、溜まっていた疲れが一気に来たのか、思わず深いため息をつく。
「今日は久しぶりに疲れたな……」
まぶたを閉じると今日の忙しくも楽しかった出来事が蘇る。
その一つ一つが全部輝いていて、自分にとっても幸せな時間を過ごせたと確信できるほどに。
「どこかのゲームで言ってた『ゴールデンタイム』ってのが今、みんなといるこの瞬間なのかな……」
再びまぶたを閉じる。そこには初めての体験をして、緊張しながらもワクワクしているみんなの姿。
小学生には過激なシーンを見て、恥ずかしがる可愛い姿。
どれもこれも僕にとって、最も輝いている時間……言うなればゴールデンタイムなのだ。
「……よし。書こう」
もし、これが本当にもっとも輝いている時間ならばこれを自分だけの物にするのは勿体ない。
なんだかんだ言ってずっと止まっていた原稿が進む。これはきっとたくみな先生にとって今までで一番の作品に……いや、きっとこれ以上の作品は出せないかもしれない。そう思わずにはいられないくらいやる気に満ちていた。
「そうと決まったら早速────」
そう言って立ち上がろうとしたその瞬間、脱衣所の方が騒がしくなっている事に気がつく。
「何か脱衣所の方で話し声が聞こえて──え?」
「せんせ──ひゃっ!?」
扉に近付き、耳を当てて外の音を聞こうとしたまさにその瞬間だった。
急に扉が開き、扉に重心を預けていた僕は、たまたま正面にいた人を巻き込みながら倒れ込む。
ドシンッ! と音を立てて倒れ込む……顔から落ちたらしく、目を開けても目の前は真っ暗のままだった。が、顔から落ちたはずなのに不思議と痛みはなかった。
そればかりか、むしろ何か柔らかいものが僕を助けてくれたような…………。
「うぅ〜痛いです。それに、重いです……」
不意に頭の方から声が聞こえる。
この声、間違えるはずがない。
「愛莉?」
「は、はい。朝武愛莉で……ひゃん! せ、先生く、くすぐった……ひゃうぅ〜」
やっぱり愛莉だったか。僕は声だけで判断し、それを間違えずに当てられたことに安堵しながら今の現状を考えつつ、これからどうするかも考えなければならない。
というのも、何故か愛莉にがっちりと頭と背中を腕と足でがっちり固定されているので、離れようにも全く動けないのだ。
それにしても…………良い香りだ。
甘くミルクのような匂い……まるで僕を丸ごと包んでくれるような優しい香り。
言うなれば母の温もりに包まれているような感覚だ。
僕は思わず息を思い切り吸ってしまう。
「ひゃあぁぁっ!」
肺から体全体へと温もりが伝わると同時に、愛莉の悲鳴も聞こえる。
「あ、愛莉!?」
「せん、せい……お願い、ですから……息を、しないで……ひゃあああ」
「ええぇぇぇぇっ!!?」
息をするな!? まさか愛莉からリアルな死刑宣告をされるとは思っていなかったので、思わずその場で声を荒らげる。
「だ、からっ……先生、声を……息を…………しないでぇ……」
「死んじゃう! 愛莉、それしたら僕死んじゃうから!」
そう必死に説得するも、愛莉の耳には届いていないようで。
「愛莉さん、先生を離れさせるにはまずご自分の腕と足を解かないと」
すぐ隣で天海さんの声もする。
「そうだよ愛莉。それにこのままだと先生、本当に死んじゃうよ?」
そして反対側からは紗々ちゃんの声が……と言うかふたりとも見てないで助けて! 超助けて!!
しかし、その願いも、ふたりの友人の声も愛莉には届いていないみたいで……。
「ダメ、です。本当に……息をしちゃ……」
「息を、するなと、言われても……」
「先生、本当にダメ、なんです。お願いですから、何もしないで……ひゃうぅ!」
「そ、そんなこと……言わ、れても……」
気が付けば自然と鼓動も早くなり、頭もくらくらしてきて…………あれ?
「もしかして、これ、本当に……やば、い?」
そう思った時には既に遅く甘いミルクの香り包み込む中、僕の意識はこの桃源郷とは違う場所へと飛んでいった。
「ん、んぅ……」
次に目を覚ますと、僕は自分の部屋のベッドで寝ていた。
外は既に暗く、時計を見ると時刻は十時を回っていた。
お風呂に入ったのが、確か八時くらいなので僕は知らない間に二時間も無駄にしていたことになる。
「はぁ……二時間も無駄にしてしまったのか……と言うか、僕はなにがどうなってここにいるんだ」
お風呂に入って、アイディアが降りてきて、お風呂を出ようとした所までは覚えているが、そこから今までの二時間近く何が起きたのか全く覚えていないのだ。
「うーん、本当にどうしたのだろう……ん?」
僕が頭を悩ませていると、ベッドの横に二つの影があることに気がつく。
「愛莉? それに、紗々ちゃんも?」
ふたりはとても気持ちよさそうに可愛い寝顔を見せつつ、寝息を立てていた。
よく見ると、ふたりの肩にはタオルケットがかけられていた。
すると、僕の部屋の扉が開かれる。
「あっ、湊さん。目を覚まされたんですね」
「天海さん?」
そこには小さい桶とタオルを持った天海さんの姿があった。
天海さんは僕の机の上に桶とタオルを置くと、僕の隣に来て腰を下ろす。
「湊さん体調はもうよろしいのですか?」
「うん、なんとかね」
「それはよかったです。ふたりが一生懸命看病してくれたお陰ですね」
「看病?」
「先生、のぼせて倒れられたんですよ。それで心配した愛莉さんと紗々さんはずっと付きっきりで看病を」
そう言いながら天海さんは朝武さんと紗々ちゃんの方へと視線を向ける。
そうか……彼女達が僕を看病してくれたのか。
「ありがとうふたりとも」
僕はふたりの頭を優しく撫でる。
ふたりは心地よさそうに柔らかい笑みを浮かべる。
「それから……天海さんもありがとう」
「えっ? ど、どうして私も撫でられて……」
いきなり撫でられて困惑している天海さんに僕は変わらず笑顔で話す。
「だって看病してくれたのは天海さんも同じでしょ? それに、ふたりにかかっているタオルケット……これも天海さんがやってくれたんだよね?」
「うっ……ち、違います。それは愛優さんが……」
「違うの? それなら僕は撫でるのをやめないといけないんだけど……「
いたずらっぽく天海さんに問いかける。
天海さんは屈したように少し頬を膨らませながら。
「わ、私です。私がやりました……なので、その。やめないでください……」
「うん、わかったよ。本当にありがとう天海さん」
「……はい」
僕は天海さんのさらさらの髪をかき分けながら感謝の意を込めて腕を動かす。
そのふたりの姿はまるで仲の良い兄妹にさえ思えるほど絵になっていた。
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