第3話

それから数年、俺はアメリカで過ごした。

「宝物」はボロボロになっていたが、いつか祖母に会えて集まれれば、また家族の一員に迎えられるような気がして、どうしても捨てられないままだ。

祖母に会いたい一心で、日本語も猛勉強した。


俺が二十歳を迎える少し前、日本から祖母がガンだと言うこと、認知症が進んでいることが知らされた。


俺はどうしても祖母に会いたくなり、両親の反対を押し切って、日本に渡ることにした。



くしくも季節は冬で、昔より更に寂れた田舎町は、寒さを一層厳しくさせている。


住所のメモを頼りに、人に尋ねながら、祖母の家を目指す。

一心不乱な俺は、「外人」に向けられる視線なんて全く気にならない。


やっと辿り着いた祖母の家のインターホンを、生唾を飲み込んで鳴らす。


♪ピンポン

軽いインターホンを押してしばらく、中から中年女性が出てきた。


「スミマセン。連絡ヲシタ、タイガデス。」


考えていた挨拶を、片言の日本語で必死に伝える。


「どうぞ。」短く伝えた女性は、中へと案内してくれた。


家の中央に位置する居間に設置されていたのは…こたつ。


そのこたつに座る1人の老女。


直感だった。

「オバアサン、タイガデス。」

声はきっと少し震えていただろう。


返ってきた言葉は、胸に突き刺さる。


「どちら様かな?外人さんは珍しいの。」


祖母ではないのだろうか?

そんな疑問は、先程の女性が払ってくれた。

「認知症が進んで家族がわからないんです。」


再会の抱擁すら考えていた俺は、こぼれそうになる涙をなんとか飲み込む。


「コレ、オ土産デス。」

やっと振り絞った言葉は、それだけ。

祖母はにっこりも微笑んで、こう言った。

「土産はいいの。旅先におっても、その人のことを忘れとらんゆう証拠や。」

「オバアサンヲ、忘レタコト、アリマセン。」


「おやまあ」

少し驚いた表情の祖母は、にこりと笑って続けた。

「外は寒かったろう。お入り。こたつは互いのぬくもりを感じられて、一番温かい。」


促されて、戸惑いながら、期待に胸を膨らまて、こたつに足を入れる。



こたつは、温かく……なかった。



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