第2話

俺の祖母は、戦後まもなく駐日アメリカ軍の祖父と結婚した。

戦後の日本にはまだ「鬼畜米兵」という考え方が残っており、祖母は世間の白い目に晒されながら生きてきたらしい。特に、俺の母親が小さい頃に祖父がアメリカに帰国してからは、苦労も大きかったという。

その後、祖母は再婚して多くの家族を設けたが、俺の母には申し訳ない気持ちを抱いていたと伝え聞く。


因果なことに母も見た目は「外人」顔だったから、風当たりは強かった。

そんな母が結婚相手に日本人を選ばず、日本在住だったアメリカ人の父と結婚したことは必然だったかもしれない。


俺は、1/4日本人で3/4アメリカ人という血を持って生まれ、当然見た目は「外人」。

名前は日本でも海外でも通用するようにと、「タイガ=Tiger」と名付けられた。


母は俺が「外人」として扱われることに恐れを抱くように、俺が5歳の時に家族で渡米する。


俺の5歳までにある記憶は、田舎町で「外人」という好奇の目で見る大人たちと、唯一、他の孫たちと変わらず接してくれた祖母の温かさだ。


冬の季節が長い田舎町では、暖房器具が欠かせない。エアコン、ガスヒーター、灯油ストーブ、こたつ…。

時と場合によって使い分け、辛い寒さに耐えていた。


祖母がことさら愛したのは、こたつだ。


「こたつはな、みんなが集まり、お互いのぬくもりを感じられるからいいんじゃ。」


それが祖母の口癖だった。


両親の日常語が英語だったから、俺もほとんど英語しか分からず、祖母の言葉は「音」として記憶されている。


「タイガ、家族はな、普段会えんでも、集まれば家族になれる。また一緒にこたつに入ろう。」


俺が渡米する時、祖母が日本語の言葉に英語の訳を付けてくれたメモ用紙は、俺の宝物になった。


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