カタストロフを望めばこそ

ゆうま

第0話 プロローグ

とっさに身をよじった俺はすぐに口から火を噴く。

「火炎!」

ゴオォォォ!と、噴いた炎が男を包む。

「水禍…」

ばしゃん!と音を立て水が飛び散ると、火がなくなった後に姿はなかった。

「傲慢なのはお前のようだ…」

俺の後ろから、声が聞こえた。

瞬間、腹部に身を裂く痛みを感じた。

「紫水」

「ぐあぁぁぁぁ!」

俺はまた一歩劣っている。




俺は生まれた時から、片目だけが青かった。火を噴く能力を持ち、全一族最強と謳われ、またその凶暴さや傲慢さから影の帝王とも呼ばれていた黒間一族は、この眼に目をつけた。



「きっとこの眼は、かつての一族の英雄である阿修羅と同じものだ。」

と言い出した一族は俺の眼を利用することを考えた。



しかし、一族のなかでも優しく、穏やかな両親は俺を守るために一族を抜けた。

抜けた俺たち家族は黒間一族の本拠地がある和歌山から少し離れた大阪で暮らしていた。


俺たち家族は幸せに、穏やかに暮らし、俺も、妹の真希も、一族の事など知らずに生きて

きた。


だが俺が小学校にあがった時、両親は一族の手によって殺された。


まだ幼稚園の年長だった妹は、嗚咽交じりで「おがぁざん!おどぉざぁん!」

と叫びながら泣いていた。

俺は涙さえも流せず、ただひたすらに妹を慰めた。




あれからもう8年が経った。



俺はもう中学2年を終えようとしている。


あの後は、家が隣だった宝条家の世話になり、幼馴染である宝条一果の両親に我が子のように扱われた。


俺と一果は小さい時から一緒で、あの事件を知っている一果は俺にやたら優しかった。



小学三年くらいの頃、

「おい弾、お前黒間一族なんだってな!おとーちゃんが言っていたけど、黒間一族ってのは強いのをいい事に悪いことをしまくるクズ一族なんだってな!」

と言ったクラスメイトのせいで、今までアウトローな生き方をしてきた。


俺は疎外され、話しかけてくれるのは一果を含む数人だけだった。


まだそれだけならいい。


問題は、妹が虐められたことだ。


俺はクラスメイトの件以降は、むかつけば暴力を振るい、まさに黒間、という不良な生き方をした。


だが純真な真希は歯向かうことなく、ただ虐められていた。


そのことを知った俺はブチ切れて、学校を崩壊させる程暴れた。小学生は愚か、一般の大人でさえ能力を使えないこの世界では、火こそ噴かぬものの黒間が本気で暴れれば、大騒ぎとなった。


その時、俺をなだめた校長が、俺と真希と一果、それに入学以降仲の良かった阿部遼太、杉田達也を呼び出し、全員の前で黒間一族の話や、事件の真相などを話した。


小三にして真実を知った俺は、この時に復讐を決意した。


とはいえまだ小学生の俺が小学校黒間の束に勝てるわけも無く、俺はただひたすらに強さを求めた。


そして俺と一果、真希に遼太、竜也は全国でも有数の進学校である



「大阪私立明王院学園」



に入学した。



能力の使えるこの世界では、喧嘩になれば命を落とすこともあるので、この学校では勉強はもちろん、強さも磨くことを校訓としていた。


小学校でもう既に地区最強と呼ばれていた俺は、いや皆、必死で勉強して合格を勝ち取った。


またこの学校では、一番強い者に



「明王」



という称号が与えられ、この明王になれば様々な権限を手に入れ、この学園を率いる義務を背負う。


中学2年にして明王になった俺は黒間に対して威嚇を始めていた。

俺の計画では中学3年になればその冬に、黒間を潰す予定だった。


「ねぇ、早く行こうよ学校。遅れちゃうよ?」


明王となった俺は学校では人気者となったが、一果は昔と変わらず、やけに優しかった。


「同情ならやめろよ、気持ち悪りぃ。」


本心から思った。


俺は黒間を虐殺する。


そうなれば世間からの批判は免れない。

俺は一果を大切に思っているので、やはり傷つけたくはない。

そうなればとるべき行動は一つだった。


深くは関わらない。


真希も、阿部も、杉田も。

皆んな、俺が守る。


そう考えていた俺はクールを装い過ごした。


「もう、そんなんじゃないし!相変わらず卑屈なんだから…」

と、一果は顔を赤くして言った。

「ならなんな…」

と言いかけた俺を遮るように

「ほら、もう行くよ!」

と笑顔で言った。


その笑顔は数年後に曇ることになる。

またしても、黒間によって。

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