三江線回顧録

正保院 左京

第1話 一筋の光

 真っ暗闇の中を一筋の光が駆け抜けて行く。静かな山間の田舎町を通り、ゆっくりと流れる川に沿って緩やかなカーブを描き、風に揺れる桜並木の下をくぐり抜けて行く。それは一両の汽車であった。

 時に悪天候に悩まされ、雨風にさらされ、橋を流されても、何度も復活を遂げて来た。

乗客の減少から空気を運ぶ列車と皮肉を云われようが、この先に必要としている人が居ると信じて毎日この道をただ只管に前に進み続けた。何よりも必要としている人の為に走り続けたその列車は何時も沿線の人々の心の中にあっただろう。

 広島県の三次と、島根県の江津を結ぶこの山間部の単線区間は三江線と名付けられ、一九三〇年の開業から凡そ九〇年にわたって多くの人々の足となって走って来た。片道およそ一〇八粁キロメートル。幾度となく困難にぶつかって来たこの路線が此処まで愛され、運行出来たのはその一〇八と云う数字の縁起の良さの力もあったのかもしれない。

 しかし、三江線は経営不振を抜け出す事は出来なかった。地元住民と国鉄の協議が行われた結果、平成三十年三月三十一日その長い歴史に幕を閉じる事となった。

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