第7話 冒瀆者とケモノ

繰り返し、繰り返し

靴の底は減っていく

この宇宙に時の砂ふり積もり

この僕の時の砂は減りゆく


言の葉を積み上げて高みを目指した

けれど天賦の才はなくバベルの塔は

傲慢さの重みにあっけなくも崩れた


時の砂ふりつもり、ふりつもり

残されたチップはあまりに少ない


繰り返し、繰り返し

靴の底を減らしたとしても

砂塵の彼方にまた幻をみるだけかもしれない


ひとつの季節が死んでいくとして

共に死ねないことは冒瀆だろうか


桜が満開になるころ

風に木蓮の花びらが

てん、てん、と地に落ちて白い足跡となり

導かれるように歩み山のケモノに出会った

それは生きるためのカタチ

ケモノの瞳に僕は映らない


生まれついた生を歪めてしまった冒瀆者


渡り鳥が自ずと航路を知りえるように

山のケモノが親から自然と学ぶように

産まれ落ちた赤子が産ぶ声を挙げるように


有り得ていたはずのカタチは

振り返ったとしてもないのだ


満開の桜も散り行く桜も

眼に止めもせず繰り返し

靴底は減り、砂は積もり


僕のカタチにふりつもり

それは少しだけケモノの

カタチに似ているはずだ


気がつけば春がまた死んでゆき

季節をまた生き延びてしまった


夏からの熱い風に僕は一匹のケモノとなり

残されたチップを熱に変え燃え尽きるまで

駆けるのだ

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