第5話 薄情者のスープ

車に轢かれて潰れてしまった

小さな蟹たちが小川へと続く

小径で押し花みたいな遺骸になり

ぺらぺらと音もなく囁いています


わたしはそれを拾い集めて歩き

小さな蟹のスープにします


鍋で炊くとクツクツ、蟹ガラが笑い

玉ねぎ、生姜、人参、セロリをいれて

ゆるゆるとアクを取り続け耳を傾ける


どうか教えてください

蟹たちの味を気持ちを

夜にみた夢の在り処を


スープにお玉を差し込むとき

蟹たちの有るか無しかの眼が

溶けてぷくぷくとぷくぷくと

気体に変じ拡散していきます


どうか考えてください

声なき声の重たさを

浮かばれない無数の手を


悲しみのない日には

家々をまわり振る舞おう


なけなしの情を焚きつけて

理不尽に泣く人々を

いつか暖める種火に

なりますように


大気を震わすこともない

嘆きがあなたの胸を叩きますように


僕は小さな蟹たちを拾って歩く

薄情者のスープをつくるために

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