第9話 神帝暦645年 8月23日 その9
ようやくアマノとユーリによる館の見取り図の写し書きが完成し、1セットは俺が、もう1セットをユーリに持たせる。ユーリにそれを持たせる理由はお察しの通り、訓練の一環だからだ。
「あたしもいよいよクエスト初体験なんだねー! これはワクワクしてきたよー!」
ちょっと、ユーリが興奮気味だが、まあいいだろう。ここからが地味な仕事の始まりでもある。周辺調査は文字通りそのままで、戦闘行為自体は想定してないのだが、突発的な何かが無い限りはつまらんのである。
「さて、アマノとユーリは魔力探査を駆使して、館周辺に罠が仕掛けられてないか調べてくれ。俺とヒデヨシは目視で確認な?」
「ウキキッ。魔力探査に頼りすぎると普通に設置してある獣取り用の罠にひっかかってしまいますよねウキキッ!」
「うふふっ。トラバサミとかにバシッと足を挟まれてしまったりしますわよね。アレは大人のニンゲンでも足の骨がぽっきり折れてしまうので、充分に気をつけないといけませんわ?」
「えええーーー!? 館周辺にそんな罠を仕掛けるなんて、
「いや、さすがにトラバサミは置いてないだろうけど、獣避けの何かは仕掛けてあるかもしれないから充分注意しとけって、ヒデヨシとアマノは言いたいのさ。さて、あんまり危険なシロモノが無いことを祈るけどな。館うんぬんより、そんなもんで怪我をしたら大損こいちまうわ」
そんな会話をしながら、俺たち4人は
しっかし何というか……
「俺でも、門の時点で、館に
「うふふっ。
ふっつう、建物の中が寒くて、窓の外側が結露するなんてないんだけどなあ。こりゃあ、
「ウキキッ。もしかして、防寒具をもってくれば良かったかもしれないのですよ。中は
「うおおおーーー。
まあ、ユーリの考えも悪くはないかもな。でも、本来は領主さまが寝泊まり用にしてたんだ。いくら、こんな大きさの
「よっし、館から一定距離を空けて、周辺調査を始めるぞ。お盆進行が終わった今、
俺の注意喚起に、皆がこくりと首を縦に振って、同意をしたという意思を示すのである。
アマノとユーリが魔力を高めて、魔力探査を開始する。俺とヒデヨシは魔力探査に集中している2人を守りつつ、目視で何か物騒なモノがないかを確認していく。
門から館の入り口に通じる道はだいたい15メートルから20メートルであり、その広場の道の両脇を花壇が設けられている。さすがに金持ちの道楽としての噴水までは設置されておらず、馬車が通過しやすいようにと、石畳となっているのであった。
「おおおーーー。館の入り口の扉の前まできたけど、これは中にうようよと
「うふふっ。さすが、感覚がするどいユーリなのですわ。私もかなりの数が存在するのは感じるのですわ? これは全部を駆逐するのは大変なのですわ? いっそ、館の周辺にいくつもの魔法陣を描いて、
「うーーーん。その提案は魅力的なんだけど、討ち漏らした
「ウキキッ。では、館を中心として、ひとつの巨大な魔法陣を描くのはどうです?
「そうなると、アマノがその魔法陣に魔力を注ぎ込むために、外で待機になっちまって、館に潜入するメンバーが減って、戦力ダウンになっちまうな……。もし、もう一人、水の魔力がC級以上のニンゲンが居たら、そうしているんだけどなあ?」
「うふふっ。もし、ツキトが予想している通りに、リッチが館に住みこんでいるとなれば、館を中心に巨大な魔法陣を描くのも悪い手ではないのですわ? 私ひとりが魔力を魔法陣に注ぎ込み続けることによって、リッチが弱体化するのであれば、充分にお釣りがくるのですわ?」
なるほど。アマノとしては、弱体化したリッチならば、俺とユーリ、ヒデヨシでも充分に戦えるって計算なんだな?
「よっし。アマノとヒデヨシの策を採用させてもらうぜ。だが、魔法陣でうんぬんは、館内部の探索もだいたい終えたあとに実行に移すか検討するぞ? それで良いか?」
「ウキキッ。ツキト殿に従うのですよ。せっかく、そんな手間暇をかけて、ただの
「わかりましたわ。私もツキトにその辺りの判断は任せますわ? さて、館の外側の横から裏手に回ってみるのですわ?」
館の見取り図を視る限りでは、館の裏手には少し広めの庭があり、そこに小さい池があるんだよな。まさか、その池に水死体が浮かんでいるオチとかないよな?
「いくら、良い感じに怪しげな池があるからって、そこに水死体が浮かんでいたら、出落ち感が半端ない気がするよー?」
うむ。ユーリの言う通りだな。
とこんなことを考えながら、まさかそんなことはないよな? と疑問に思いながら、俺たちは壁と館の間を通り、館の裏へと行くわけである。
「あちゃあああ。水死体はないけど、アンデッド・ドッグが水場に使ってやがんな。館に
「うふふっ。当然といえば当然の帰結なのですわ。
おっし。
「アマノ、ユーリ、そしてヒデヨシ。いつでも水の魔法を使えるように構えておいてくれ。俺があのアンデッド・ドッグを引き寄せてくるから、ささっと、
俺は3人にそう声をかけて、ヒノキの棒を右手に、皮製の丸盾を左手に構えて、池にたむろうアンデッド・ドッグの群れに近づいていくのであった。
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