第34話 神帝暦645年 8月22日 その18

 チリンチリン。カランコローーーン。ズギュウウウウウン!


 ん? この音はジョウさんの防具店の扉が開かれる時に鳴る音だよな? 誰か、こんな邪悪なジョウさんのお店に客としてやってきたのだろうか?


「あれーーー? 店主のジョウさんが居ませんねえ? 困りましたよ? これでは、修繕に出した防具を引き取ることができませんねえ?」


 あ、あれ? なんで、【欲望の団デザイア・グループ】の団長がこんなこところに来ているんだ? ひやかしなら、お断りだぞ? ジョウさんの店では。って、どこの店でもお断りか。


「いらっしゃいませデュフ! これはこれはノブナガ殿。修繕に出していただいた、防具を引き取りにきたのデュフ?」


 ジョウさんがぐへへと頬を緩ませ、手もみをしながら、うちの一門クランの団長のもとへと歩みよっていくのである。てか、俺が客の時にも同じ態度を示せってんだ、この店長さんはさ!


「そうですよ? まったく、他の防具店だと、こんなにボロボロにした鎧なんか、修繕に出すんじゃねえってんだよおおお! って怒られて、泣く泣く、どんなにボロボロになった鎧でも修繕できるほどの腕前のジョウくんに頼んでおいた、あのヒヒイロカネ製の鎧ですよ。もちろん、新品同様に直っていますよね?」


「中古品程度には直しておいたのデュフよ? さすがに新品同様は無茶な要望すぎるのデュフ!」


 なんか、このやりとり、俺とジョウさんで先ほどおこなったよな?


「って、あれ? あれれ? ツキトくんにアマノさんじゃないですか? なんで、こんないかがわしい防具店に二人そろっているんですか?」


「ああ。俺とアマノはいっつもこのジョウさんの店で鎧の修繕を頼んでいるんだよ。ジョウさんは邪悪だけど、腕は一流一歩手前と、俺みたいなC級冒険者のお財布には優しいってわけよ」


「ほうほう。なるほど。ツキトくんが愛用しているお店ならば、先生もここに頼んで安心だったというわけですね? では、ジョウくん。早速ですが、先生の鎧を持って来てくれませんか?」


 団長に促されて、ジョウさんは店の奥へと引っ込んでいくのであった。しっかし、俺は団長とバンパイア・ロードとの戦いを近くで焼肉大会をしながら観戦していたわけなので知っているんだが、あそこまでボロボロになった団長の鎧を修繕させられるなんて、ジョウさんもたまったもんじゃねえなあ?


「ん? ツキトくんたち以外にもお客さんが居たんですね? これはあまり騒がしくしないほうが良いですね?」


 団長が視線を黒髪ロングの少女に向けて、そう言うのである。あっ、そうだ。この少女がユーリだってことを団長は知っているわけがないんだったわ。うーーーん、どうしようかなあ? この少女の正体がユーリだってバレたら、面倒くさい事態に発展しそうなんだが?


「団長ー。あたしだよー、あたしー。もしかして、団長はあたしが誰かわかっていないのー?」


「んん? 先生、あなたのような美少女には出会った記憶はありませんよ? 先生がいつの間にか作った新しい嫁たちのひとりですか?」


 いつの間にか作った新しい嫁ってなんだよとツッコミを入れたいが、さっきは面倒だと思っていたが、訂正だ。これはこれで面白いので、放っておくことにする。


「ひどい、ひどいよーーー。いつも、あたしのことをおもちゃにしているくせに、まるで用済みになったら、顔すら覚えてない、お前なんて知らないって言い出すようなチャラ男だったなんてー。団長は鬼畜すぎるよーーー、ふえええん」


「ちょっ、ちょっと!? こんなところで泣きださないでくださいよ!? 先生、本当に記憶の中であなたに該当する女性が見当たらないんですが!? 先生、いくら酒を飲みすぎたからといって、自分と寝た女性の顔は覚えていますよ!?」


「おい、ユーリ。嘘泣きまでするんじゃねえよ。後々、団長にこってりしぼられることになるぞ?」


「うふふっ。私は毎晩、ツキトをこってり絞りあげているのですわ?」


 アマノさん? そこで下ネタをぶっこんでこないでくださいね?


「えっ? えっ? えええっ!? この黒髪ロングのDカップの美少女が、あのユーリくんなんですか!? さすがにそれは嘘でしょう!? 先生、ちょっと、いちもつがぴくぴくと軽く反応しているってのに、ユーリくんだと知ったら、罪悪感で心がいっぱいになってしまいますよ!?」


「団長。俺の娘を前にして、いちもつをぴくぴく反応させるのはやめてくれないか? 俺、団長を1発ぶん殴らなきゃならなくなるからさ?」


 というわけで、ネタバラシも終わったところで、今までのいきさつを団長に説明するのであった。


「ふむふむ。見慣れない形の水着だとは思ってはいましたけれど、これがあの伝説のスクール水着だったというわけですか。いやあしかし、ツキトくんの前でこう言ってはなんですが、特殊性癖を刺激させられてしまう水着ですねえ?」


「ウキキッ。団長もそう思ってしまうのですね? ウキキッ。かくいう、わたくしも嫁に水着を着させてイチャイチャしたくなってしまうのですよウキキッ!」


 団長のハーレム部屋には大人のおもちゃが多数転がっているので、今更、あの部屋に汚れた水着が増えるだけだろうと、気にはしないんだけど、ヒデヨシまでもが、水着着用プレイをしたがるってのは不思議だよな。


「うふふっ? ちなみに水着に白い体液が付着すると、お洗濯が大変なのですわ? 衣服なら落ちやすいのですが、水着はやはり水泳用なので、水に対する耐性が強いので如何としがたいのですわ?」


 へーーー。水着にはそんな効果が備わっていたのか。道理で素っ裸で湖に飛び込んだ時と、水着着用とでは、泳ぎに若干、違いが出るから、昔から不思議だとは思っていだんだよなあ?


「うふふっ。水着の柄には意味があるのですわ? そうでもなければ、あんな1シーズンにしか着用しないような布きれに銀貨5枚(※日本円で約5000円)も支払うわけがないのですわ?」


「あれ? ツキトくんは知らなかったのですか? 水着には泳ぎやすくなる効果と、異性をその気にさせる魅了チャームが施されているんですよ。水着の生地をよおおおく観察してみると良いですよ? 生地の色とはまた別の色の糸で紋様を施されていますから」


「マジでーーー!? 俺、40年間、生きてきたけど、それは初耳だったわーーー。びわ湖ビワッコの一斉浄化の時に、団長が着ていた、あの気色悪い赤白のシマシマ水着にもそれが施されてたってわけか?」


「はい、そうです。それともうひとつ、ついでに言うと、男性用水着の場合は魅了チャームを施されているものは、ほとんどありません。だから、男モノは安く手にはいるんですよ。先生が着ていたあの水着が高かったのは、そういうわけも含めてなんですよ」


「そんな無駄知識、どこで仕入れてきてんだ? 団長はよ」


「そんなの、うちの女房連中からに決まっています。これは女性たちの秘密事なので、あまり、言いふらさないでくださいね? 女性から男性を誘うなんて、そんなの男たちの夢をぶち壊しなんですから」


「それもそうだな。異性を誘う言葉を口から出さないといけないのは男性の義務であり、権利だしな」


「そういうことです。まあ、知らぬ顔を貫くことをお勧めしますよ?」


「なるほどなのだゴマー。自分が嫁ちゃんの水着姿にいちもつがビッキビキになってしまうのはそんなことがあったからだったのかゴマー」


 ゴマさんがうんうんと頷いているのである。まあ、そんな細工を水着にしなくても、惚れた女性があんな薄布1枚で大事な部分を隠していたら、男なら誰だって、ビッキビキになって、びわ湖ビワッコから出てこれなくなるもんだけどな?


「話は変わるんだけどー? 団長ー。金貨60枚(※日本円で約600万円)をあたしに投資してくれるつもりはないのかなー?」


「ん? 金貨60枚? いったいぜんたい、どこから、そんな大金の話になるのですか?」


「いや、それがねー? ジョウさんが金貨60枚でこの伝説のスクール水着を売ってくれるって話になっているわけー。だけど、団長にこの前、立て替えてもらってた魔力回路の開放代を支払ったから、お金がなくてー」


「あれはもともと、ユーリくんに投資するつもりで返していただくつもりはなかったのですが? あと、夏も終わりだというのに、伝説のスクール水着なんて、金貨60枚も出して買う必要性なんてあるんですか?」


「そう正論をずばりと言われると厳しいものがあるんだけど、魅了チャームっていう部分がひかかってねー? どれくらいの効果があるのか、ちょっと気になるって言うかー?」

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