第33話 神帝暦645年 8月22日 その17

 さて、目の前にいる黒髪ロングでDカップの少女が、ユーリ本人であることを認めた俺たちではあるが、問題はまだ残っていたのである。


 伝説のスクール水着のネーム・タグには、はっきりと【悠里】と刻まれており、それは【ユーリ】の名を表すものであろうことは察することができるのであった。


「おい、ジョウさん。ユーリが着ている水着は【伝説のスクール水着】であることはユーリの姿が変わったことからも判断できるな? ジョウさんから聞いた伝承はあながち間違っていないってことになるわけだが、この着用者の姿が変わるってことがこの防具の【加護】ってことになるのか?」


「ぶひっ。この防具の【加護】はまた別で言い伝えられているのデュフ。装着者の水の魔力を跳ね上げるのがひとつ。そして、水の精霊に愛されることにより、水難に会うことは無くなるというモノがあるのデュフ」


 ふむふむ。なるほど、なるほど。伝説のスクール水着らしいといえばらしい【加護】だな。水の事故ってのは怖いもんだしな。いくら、水練を積んでいようが、ちょっとした油断で溺れかけるなんて、よくある話だからなあ。


「うーーーん。水の魔力が跳ね上がるのは、実際に水の魔法でも使ってみれば、その効果のほどはわかるけれど、問題は、ここがジョウ・ジョウ防具店の中だってことだよな。ジョウさんの不浄とともに、店内全てを洗い流すのも悪くない手ではあるんだが?」


「やめてくれデュフ! 店内を水だらけにされたら、商品が傷むのデュフ! その損害は計り知れないものになってしまうのデュフ!」


 やっぱり、ダメだよな? じゃあ、どうしたものかなあ? 俺は興味心からも、この伝説のスクール水着の【加護】がどれほどのものか実際にこの眼で視てみたいんだけどなあ?


「うふふっ。私の魔力探査からでも、ユーリの魔力が底上げされているように感じるのですわ? はっきりとしたことは言えませんが、これは魔力B級に近しいモノを感じるのですわ?」


「ほう。それなら、ますます実際にユーリに水の魔法を使ってみてほしいところだなあ。なあ、ジョウさん? この伝説のスクール水着を譲ってくれないか? もちろん無料ただでさ?」


「ちょっと待ってほしいのデュフ! これは金貨30枚で手に入れたものデュフよ!? 店の利益も考えれば、最低でも金貨60枚(※日本円で約600万円)は欲しいことろなのデュフよ!?」


 金貨60枚かあ。ユーリがこの前、バンパイア・ロード・マダムを討伐した金を使えば、支払うことは可能なのだが、それだと、ユーリだけでなく、あの団長に何かを嗅ぎつけられる可能性が出てくるな。


 あの1件は俺とアマノの間で、団長にだけは教えてはならないと決めてある。そもそもとして、ユーリがニンゲンには具現化不可能な【神鳴り】と思われるモノでバンパイア・ロード・マダムを討伐したからだ。それをあの欲望の塊である団長に知られるわけにはいかないのである。


「金貨60枚かあ。C級冒険者の俺だと支払うのには、なかなかに骨が折れるなあ? おい、ユーリ。お前のおっぱいを1揉み金貨1枚で、ジョウさんに揉ませてやれよ?」


「そんなの嫌すぎるーーー! ジョウさんにおっぱいを揉まれたら、あたしのお腹に赤ちゃんができちゃうーーー!」


 まあ、おっぱいを揉まれただけで孕むことは決してないけどな? いや、待てよ? ジョウさんなら、もしかしたら、それが可能なのか? だって、女性の眼を1分見続けるだけで、犯される! って女性に恐怖心を抱かせるジョウさんだもんな!?


 ジョウさんが俺の義理の息子になるのはなんとかして回避するためにも、ユーリのDカップに成長したおっぱいを揉ませる案は廃止とする。


 じゃあ、代案はどうするのか? 俺の年収は約金貨36枚だ。もちろん、これは日々の生活でほとんどが消えてしまうか、残ったとしても銀行に預けることになる。と、なるとだ。この前のバンパイア・ロードの撃退で手に入った金貨80枚から捻出する手もあるわけなんだが……。


 でも、これを切り崩すのはきついものがあるなあ。マイホームをアマノと結婚する時に購入したが、そもそも中古物件なのだ。中古物件ってのは手に入れることはなんとかできるが、その後の修繕費で金がかかるって言われているんだよなあ。


 それを考慮すると、いくらアマノも俺と同じく金貨80枚を手に入れてても、そちらはそちらで、将来、産まれてくるであろう俺とアマノとの間の子供の養育費につぎ込む必要がある。


 ちなみに、ユーリが手に入れた分のほとんどは、団長に肩代わりしてもらった魔力検査と魔力回路の開放代の返済にすでにあてがってしまったわけである。


 早い話が、今の俺たち3人では、伝説のスクール水着をジョウさんから【殺してでも奪い取る】しか選択肢は残されていないわけなのだ。


「ジョウさん。長いようで短い付き合いだったな……。俺、ジョウさんの墓石には【ここに世界の半分の敵が眠る】って刻んでおくからさ?」


「いったい、何の話をしているのデュフ!? 僕ちん、身体のどこも悪くないデュフよ!? この先、100年は生きて生きて、生き続けて、ハーレムを形成するつもりデュフよ!?」


 うーーーん。ジョウさんがこの先、100年生きても、ハーレムを形成するのは不可能だと思うんだが? ゴマさんのほうがよっぽど、ハーレムを形成できそうな気がするなあ?


「ちょっと、待ってほしいのだゴマー。自分は今は嫁一筋なのだゴマー。誤解を招くような発言は控えてほしいところだゴマー」


 【今は】ってところにすっごく引っかかるモノを覚えるのだが、まあ、そこはツッコむと面倒くさい事態を招きそうなので、俺は何も言わずにおくのであった。


「どうしたもんかなあ? 伝説のスクール水着の使用権はユーリにあるわけだし。かといって、ジョウさんから買い取る金を今すぐ準備できるわけでもないし」


「うふふっ。使用権がユーリにあるわけですから、いっそ、トオヤマのゴールドさんに裁可をいただきますか?」


「ウキキッ。それはお勧めしないのです。あのひとの裁可は敗れたほうが死罪となるのです。もし、万が一にもツキト殿がジョウ殿に敗れた場合は、磔刑に処されるのですよ? ウキキッ!」


「そうだよなあ。ゴールドさんは名前の通り、金貨が大好きなひとだからなあ。袖の下をどれほど渡せるかで裁可が決定するって噂だもんなあ。ってか、とんでもない役人だよな。トオヤマのゴールドさんってさ?」


「そもそも、役人は世を忍ぶ仮の姿と言われているのデュフ。本性はただの遊び人のクズ野郎なのデュフ」


 ジョウさんにクズ野郎と言われるって、これ以上ないくらいのひどい話だよな。


「なんでそんなやつがお堅い役人仕事を続けられるんだろうな? そもそも、そこが謎で仕方がないんだけどさあ?」


「うふふっ。マツダイラ幕府の闇を感じる事案なのですわ? いっそ、冒険者ギルドでトオヤマのゴールドさんをモンスターとして登録してもらうっていうのはどうかしら?」


「それは良い案だねー。トオヤマのゴールドなだけあって、たくさんの金目のモノを所持してそうだよねー。そいつを倒して身ぐるみを剥げば、この伝説のスクール水着の購入資金も貯められるし、世の中のためにもなるしで、まさに一石二鳥だよー?」


「ウキキッ。しかし、モンスターとして登録されたとしても、アレが居る城に無策で飛び込んでいくのはかなり危険を伴いそうな気がしますねウキキッ!」


「ぶひひっ。やっぱり冒険者というのは、ならず者の集まりなのデュフ。いくら悪徳役人と言えども、モンスター登録をして、それで討伐するとか、やることがえげつないのデュフ」


「ちなみにうちの店主をモンスター登録できないのか? ゴマー。そしたら、自分はジョウさんを堂々と殺すことができるゴマーよね?」


「ん? ダメだぞ。ゴマさん。いくらニンゲンをモンスター登録したところで、冒険者以外がそいつを殺すと、立派な殺人罪を問われることになるからな? まあ、そもそもとして、ジョウさん程度がモンスター登録されるわけではないけどな?」


 てか、ゴマさんはジョウさんを堂々と殺したいって、いったい、何をされたんだ? ジョウさんは女好きではあるが、男の尻の穴には興味がないはずなんだが? うーーーん。ジョウ・ジョウ防具店における知ってはいけない謎のひとつなんだろうな。ゴマさんのジョウさんへの殺意は。

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