第22話 神帝暦645年 8月22日 その6

 俺たちは渋々ながら、ジョウさんに鎧の修繕費として銀貨50枚を支払うのである。ジョウさんは、いつもニヤニヤとした笑みを浮かべているくせに、銀貨の小山を視た瞬間に、ぶひいいい! と豚さんのように喜色ばる。


「労働には正しい対価が必要デュフ。今日もたくさん仕事をしたのデュフ。このお金で遊女の館にでも行ってくるデュフ!」


「別にジョウさんが風俗に行こうが構やしねえんだけど。従業員のゴマさんの給料はちゃんと支払ってやれよ?」


 ちなみに遊女の館、いわゆる娼館では、本番無しで銀貨15枚(※日本円で約1万5千円)。本番有りで銀貨25~30枚と言ったところである。ちなみに本番があろうがなかろうが、90分、じっくり楽しめるのだ。草津クサッツの街ではな!


「くっ! 痛いところをついてくるデュフ! 遊女の館に行くのはやめなのデュフ! どこかに僕ちんに入れてください、お願いします! って言ってくれる濡れ濡れの14歳の女子おなごが道端に転がっていないのデュフ!?」


「うふふっ? 【未成年との淫行禁止令】っていうものを知っていますか? 草津クサッツでも今年の春に、成年に達してない女性とイチャイチャをすれば、逮捕されるようになったのですわ?」


「そ、それは本当の話デュフ!? お金を払ってもダメなのデュフ!?」


「ウキキッ。残念ながら、16歳未満の女性は法で保護されるようになったのですウキキッ。遊女の館でも、女性を雇う時は16歳未満はダメになったのですよ? ジョウさんともあろうものが、知らなかったのですか? ウキキッ!」


「そんなあああデュフ。ぼくちん、これから何を楽しみにして仕事をすれば良いのデュフ? 16歳以上はババアデュフよおおお!?」


「でも、ジョウさん。この前は40歳でも全然オーケーって言ってたじゃん? あれは嘘だったのか?」


「あの時は40歳のババアを狙っていたからオーケーだったのデュフ。ちなみに今は14歳の少女を狙っているのデュフ」


「おーーーい! おまわりさーーーん! 性犯罪者がここにいまーーーす!」


「やめるのデュフ! 冗談に決まっているのデュフ! ツキト殿は、本気と冗談の区別もつかないのデュフ!?」


 なんだよ、冗談かよ。あやうく通報しかけたじゃねえか。まったく、ジョウさんには困ったもんだぜ? つか、ジョウさんって、周りがジョウさんに言ことは、全て本気に聞こえて、自分の言うことは冗談だって、ほざくんだよな。こいつ、頭がおかしいんじゃねえの? 良い医者を紹介してやろうか? って、いつものことだったわ。いらついてもしょうがない。ここは冷静にならないとな!


「うふふっ? では、今は何歳の女性を狙っているのですか? ジョウさん?」


「今は24歳のニンゲン族の女性を狙っているのデュフ。この前、店に買い物をしにきてくれたので、ぼくちんは一目惚れしてしまったのデュフ」


 まあた、始まったよ。これだから、ジョウさんは女性客を相手にしちゃダメなんだよ。


「おい。ゴマさん。いつも言ってるだろ? ジョウさんは、支払いの時に女性と手を触れただけで惚れられてるって勘違いするんだからさあ? ちゃんと、女性客相手の時は、ゴマさんが相手しないとダメだろ?」


「すまないのだゴマー。自分はその時、買い出しに行っていて、店を空けていたのだゴマー。そうしたら、すでに手遅れだったのだゴマー」


 ゴマさんがすごくすまなそうな顔つきで俺に謝ってくる。まったく、ジョウさんが女性問題を起こしたら、この店は閉店しちまうんだぞ? 俺の無茶な修繕依頼を聞いてくれる防具屋が潰れちまうのは困るんだよ。


「まあ、結果は火を視るより明らかだけど、ジョウさんが、その女性に連絡先を聞きだそうとしてたら、一発ぶん殴ってやりなよ? 本当に通報されたら、シャレにならないからな?」


「わかっているのだゴマー。謝罪と賠償を要求される前に、店長を縄で縛って、びわ湖ビワッコに沈めておくのだゴマー」


 よおし、よおし。よくわかっているじゃねえか。三日三晩ほど、びわ湖ビワッコに沈めておけば、ジョウさんも大人しくなるもんな?


「あれー? ジョウさんって、びわ湖ビワッコに沈めても呼吸ができるのー?」


「ジョウさんはドワーフ族だから、水とはえらい相性が悪いぜ? ユーリ、お前も知っている通り、ドワーフ族は水に嫌われているから、まったく泳げないだろ?」


「それなのに、びわ湖ビワッコに沈めたら、いくらなんでもジョウさんが死んじゃうんじゃないのー?」


 あれ? 言われてみればそうだな? ユーリって賢いな。って、俺が馬鹿なだけか? うーーーん!?


「ゴマさんよ? ジョウさんをびわ湖ビワッコに沈めるってのは本当の話なのか?」


「冗談に決まっているんだゴマー。店の倉庫に三日三晩、閉じ込めるだけだゴマー。自分もさすがにドワーフ族を水の中に入れるつもりはないんだゴマー」


「ウキキッ。ドワーフ族って大変ですよね? 水に嫌わているために、お風呂も満足に楽しめないのですウキキッ」


「なるほどー。だから、ジョウさんからは形容しがたい匂いが漂ってくるんだねー?」


「ユーリ。それは違うぞ? ジョウさんのはただのワキガーだ。風呂の湯船には浸かれないだけだからな? 身体を洗う分には支障はないからな?」


「ぶひひっ。水に嫌われているおかげで、肌はいつでも水をはじく張りなのデュフ」


 それは肌の張りとは別モノだと思うけどな?


「ウキキッ。ドワーフの娘と一晩楽しんだあと、一緒にお風呂に入ろうとした時は大変だったのですウキキッ。お肌が水を弾きすぎて、風呂場が大変なことになったのですよウキキッ!」


 さっすがヒデヨシだよな。普通、異種族同士でイチャイチャすることなんて、ほとんど無いっていうのに、あえてその種族の壁を越えてまで、楽しむものかねえ? まあ、ジョウさんは性別が女ならどの種族でも全然へっちゃらなわけなのだが?


「うふふっ。異種族同士では、子供ができる心配がほとんどありませんのですわ? ですから、ヒデヨシさんは、狙って異種族とイチャイチャしていると推測するのですわ?」


「ウキキッ。ドワーフ族や、エルフ族、そしてホビット族はニンゲン族と同じヒト型種族というのに、その間で子供ができないのが不思議なのですウキキッ。まあ、それのおかげでニンゲン族以外では不倫ではないとうちの嫁がそう思っているから、助かるのですよウキキッ!」


 本当、不思議だよな? その辺り。まあ、マレに異種族同士でも子供が産まれる例はあると聞いたことがあるんだが、実際にそいつを視たことがないので、俺としては存在を怪しんでいるわけだが。


 そういうこともあって、結婚するなら、自然と同種族同士となるわけなのだ。恋愛までなら、誰も文句は言わないけどな?


「うふふっ? 例え、もし、ツキトがエルフ族だったとしても、私はツキトと結婚したのですわ?」


「それはありがたい申し出だな? アマノ。俺がエルフ族だったら、俺たちの間に子供は望めないぜ?」


「ツキトと一緒になったのは、子供が欲しいとかではありませんもの? それは、子供はできたら嬉しいですが、ツキトと同じ屋根の下で一緒に歳を取りたいと思ったからなのですわ?」


「暑いー。暑いよー。ジョウさん、このお店、除湿器の効きが悪いんじゃないー?」


「ぶひひっ。やはり中古の除湿器はダメデュフね? 熱々の夫婦の熱は冷ませられないようなのデュフ!」


 まあ、ジョウさんのお店は工房も兼ね備えているからな? どうしても、店の中に熱がこもるもんだろ?


「ウキキッ。よくジョウさんとゴマさんは、夏場、蒸し暑くなるお店の中で1日中、働いていられるんですか? 不思議でたまらないですよ? ウキキッ!」


「自分は風の魔法を微力ながら使えるんだゴマー。だから、自分の体温はある程度、調整可能だゴマー。店長が何故、無事なのかはわからないのだゴマー」


「ぶひひっ。そんなの簡単なのデュフ。心頭滅却すれば、火もまた涼しなのデュフ。イニシエのサムライと呼ばれたモノたちの極意なのデュフ!」


「ああ、ジョウさん。それ、間違いな? 心頭滅却すれば、火もまた涼しって言ったのは坊さんだからな? サムライじゃないから、そこんとこ注意しろよ?」


「ま、マジデュフか!? ソースを提示してほしいのデュフ! ぼくちん、ソースが無ければ、信じないのデュフ!」


 ソースって言われてもなあ? 俺も、小さい頃に爺ちゃんに聞いた話だからなあ? 俺の歴史通は、爺ちゃんの影響が色濃く出てんだよなあ。まあ、どうしてもソースが欲しいって言うのであれば、自分で魔術師サロンにでも問い合わせてみるか、草津クサッツの街の帝立図書館にでも行けば良いんじゃね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る