第30話 神帝暦645年 8月18日 お昼過ぎ

 8月18日。午後1時半。あたしことユーリは、団長に肩代わりしてもらっていた魔力回路の開放代を返すために、【欲望の団デザイア・グループ】の館にやってきていたわけー。革袋の中いっぱいに、金貨60枚を詰め込んで、いざ、団長が仕事をしている書斎の前までやってきたのは良いんだけどー。


 うーーーん。金貨60枚を手放すのかーーー。こんな、大金、一度になかなか手に入らないのは、冒険者稼業を20年も続けているお父さんを近くで視てきたから、わかっていることなんだよねー。でも、団長のハーレムの一員にも、なりたくないしー?


「あらら? あらら? ユーリちゃんじゃないデスカ? 団長の書斎の前で、どうしたんデスカ? 何か、お悩み相談でもしに行くんデスカ?」


 あっ。団長のハーレム所属のひとりである、おっぱいが大きすぎるヒト。じゃなくて、ヨシノさんだー。うーーーん。まずいところで出会っちゃったなー。これは、もう、引き返せなくなっちゃったよー?


「あっ、こんにちわー、ヨシノさん。えっとですねー。今日は団長にお金を返しにきたんですよー」


「ん? 団長にお金を返しニ? ユーリちゃんって、ノブナガちゃんに身売りしていましタッケ?」


 身売りって、どういうことなのー? ヨシノさんは、あたし以上に、おつむのネジが緩いのかなー? でも、おっぱいがEカップもあると、そっちのほうにアタマに回るはずの栄養を取られるのかなー? あたしの友達のランカちゃんも、最近、アタマの栄養を胸に取れてる気がするのですわっ! って言ってたしなー。


 ランカちゃんもヨシノさんと同じく、おっぱいのサイズがEカップだし、あたしの推測は間違っていない気がするよー?


「えっ、えっとー。多分、あたしは団長に身売りしてないはずだと思いますー。多分ですけどー」


 うーーーん。あんまり、ヨシノさんと交流を深めていないせいで、他人行儀な返答になっちゃうなー?


「あらら? あらら? じゃあ、なんでノブナガちゃんにお金を返す必要があるんデスカ? ノブナガちゃんが女性のためにお金を使うのは趣味デスヨ? 女性は殿方から奢ってもらったら、ありがとうゴザイマス! って言っておいたほうが、良いワヨ?」


 それはそれで、どうなんだろー? って、あたしは思っちゃうわけー。団長は以前から魔力回路の開放のお金を返さなくても良いって、言ってくれているけど、それを真に受けたら、将来、あたしは団長のお嫁さんのひとりにされちゃうぞって、お父さんが口すっぱく言うんだよねー。


「ヨシノさんの言う通り、男のヒトにご飯とか、お茶とかを奢ってもらうのは、嬉しい気分になるかもしれないけどー。あたしは、その気になれない男性に奢ってもらうのは、嫌って言うかー?」


「あらら? あらら? ノブナガちゃんはそこらのずっこんばっこんしか考えてない、獣たちと一緒にしてほしくないワヨ?」


 ずっこんばっこんって、はっきり言っちゃってるよー、ヨシノさん。お父さんやアマノさんも言っていたけど、やっぱり、男って、ごはんを奢るイコールずっこんばっこんしたいってのは、世の中の共通認識なのかなー?


「ヨシノさんは、団長に、ごはんを奢ってもらったあと、あの、その、ずっこんばっこんはされなかったのー?」


「ええ。もちろん、されマシタワ? それも、一晩に何度デモヨ?」


 結局、団長も男なんだねー。これは、何としてでも、金貨60枚を団長の横っ面に叩きつけなきゃダメだよー。


「でも、ユーリちゃんが勘違いしないように言っておきマスガ。ノブナガちゃんは何度も、ボクとデートを重ねたあとで、じっくりねっとりと、草津クサッツの愛が溢れる宿、通称:愛し合う宿アイラブユー・ホテルで、ずっこんばっこんをしたノヨ?」


 あっ。一度目のデートで、ずっこんばっこんしたわけじゃないんだー。意外と団長って紳士だねー? これは雀の涙ほどだけど、団長に対する評価が上がったよー?


「あたし、団長のことを勘違いしてたかもー」


「あらら? もしかすると、そう思っていること自体、勘違いかもしれませんワヨ? 男と女は同じ寝室で1年ほどお突き合いをしなければ、本当のことなど、わからないワヨ?」


 なんか、お突き合いとか言っちゃってるよー!? あたし、話す相手をもしかして根本的に間違っている気がするよー!?


「えっ、えっとー。そろそろ、団長の書斎に入ろうかなー? ヨシノさん、また、団長のことを教えてねー?」


「ええっ。もちろんデスヨ。ユーリちゃんにはノブナガちゃんの魅力をたっぷりと教え込むワヨ。なんたって、ノブナガちゃんが将来を見込んだ相手ですモノ。ボクとしても、個人的にユーリちゃんとは仲良くなりタイワ。じゃあ、頑張ッテネ? ユーリちゃん?」


 な、何を頑張るのかなー? もしかして、団長のハーレムの一員になれるようにってことじゃないよねー? あたしとしては、これから、団長にハーレムの一員になりたくないと宣言しに行くのになー?


 ヨシノさんが金髪の2本の縦ロールとEカップのおっぱいをユッサユッサ揺らしながら、この場から立ち去っていくんだよー? ふーーー。あたしらしくないなー。ヨシノさんに話のペースを握られぱなしだったよー。アマノさんもそうだけど、やっぱり大人の女性相手だと、あたしが子供じみているのを痛感されちゃうなー?


 よっし、気を取り直して、団長に直談判しないとーーー!



 ☆☆★☆☆



 コンコンコン!


「はい。どなたですか? 鍵はかけていませんので、入ってきて構いませんよ?」


 うっ。書斎の扉越しに団長の声が届くんだよー。なんだか、緊張してきたなー。昔、同年代の男の子がお付き合いしてくださいって、告白してきたのを断った時以上の緊張感だよーーー。


 あたしは意を決して、書斎の扉を開いて、部屋の中に入るんだよー。そしたら、団長と筋肉だるまのカツイエさんが中に居たんだよー。雰囲気から察するに、何かの相談をしていたみたいだねー。


「おや。ユーリくんじゃないですか。ツキトくんとアマノくんのラブラブ昼食タイムに嫌気がさして、あの2人を何とかしてくれって、直談判してきたのですか?」


「ガハハッ! 結婚2年目というのに、あの2人は熱々でもうすな! 我輩も、早く嫁が欲しいでもうす!」


「あははっ! カツイエくん。それって、何の冗談ですか? カツイエくんの筋肉に耐えきれる女性なんて、それこそ、ドワーフか豚ニンゲンオークの女性くらいですよ?」


 あっ。カツイエさんが、書斎の床に四つん這いになって、両眼からボロボロと大粒の涙を流し始めちゃったよーーー!?


「ぐううう! いくら異種族と言えども、出来るなら、エルフ族が良いのでもうすっ! ドワーフとか、豚ニンゲンオークの女性は嫌なのでもうすっ!」


 な、何か、嫌な過去が、カツイエさんにあったのかなー?


「ああ、ユーリくん。気にしないでくださいね? カツイエくんは昔、ドワーフ族や豚ニンゲンオークの娘にもてまくった経歴持ちなだけですので。しっかし、先生にはあの2種族の女性は無理ですね」


「えっ? 団長だったら、性別が女性なら、大丈夫だって思っていたよー?」


「失礼ですね。ドワーフ族も豚ニンゲンオークも、妙齢の女性はヒゲを伸ばす風習があるのですよ。先生は、ヒゲがもっさり生えた女性相手に、いちもつはさすがに起ちません。ヒデヨシくんくらいですよ。ヒゲがもじゃもじゃのドワーフ族の女性とずっこんばっこんできるのは」


 うわーーー。なんかすっごくひどいことを言っているよー? この団長はー。これは、大減点ものだよーーー? 同じ女性として許せない発言だよーーー!?


「ん? ユーリくん。なんで、そんなに先生を睨んでいるんですか? もしかして、ツキトくんみたいに鼻毛が鼻の穴から飛び出しています?」


「お父さんの鼻毛はよく飛び出しているけど、団長みたいに、ヒゲの有り無しで女性をえり好みしないよーーー!? あたしは、そこに怒っているんだよーーー!?」


「ガハハッ! 団長、ざまあああ! なのでもうす。ほれ、ユーリ殿。もっと、団長を叱り飛ばしてやるのでもうす!」

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