第29話 神帝暦645年 8月16日
「いやあ。アレをひとりで倒すのは無理ですね。ツキトくんたちは、よくアレ相手に五体満足で撃退できましたね?」
「てか、団長。最後のアレはさすがにダメだろ。バンパイア・ロードの奴、ケツを抑えて悶絶してたじゃん!?」
「うふふっ。さすがに浣腸をするのはどうかと思うのですわ? しかも、あれ、秘技・三年殺しでしたわよ?」
「うわー。団長はさすがにえげつないよー。あたしもさすがにモンスター相手でもアレをするのはニンゲン以下の所業だと思うよー?」
神帝暦645年 8月16日。お盆進行も無事終わり、俺たち【
「ガハハッ!
「そんなこと言われても、男がタイマン勝負を挑まれたら、受けるのが当然でしょう? あちらだって、そのつもりでひとりのこのこと現れたわけですし。本当なら、配下を引き連れてきても問題無いのですからね?」
まあ、カツイエ殿は暇だからと言って、バンパイア・ロードに頼み込んで、
「ああ、ユーリくん、そこそこ。そこをもっと治療してください」
「団長の身体を癒してー。
ユーリが不満気な表情を顔に浮かべて、団長の治療を行っている。しかし、ユーリからはまったくもって、やる気を感じられないのである。
「そこはしょうがないだろ。秘技・3年殺しを団長に喰らったバンパイア・ロードが本気で合成魔法の数々を繰り出してきて、アマノは
アマノはバンパイア・ロードの繰り出す合成魔法を防ぎ切った代わりに、魔力切れを起こしてしまったのであった。こうなると、アマノは明日の昼頃辺りまで、魔法が使えない状態になってしまうのである。そいうったわけもあり、ユーリには残業が課せられたというわけなのだ。
「あと昔から不思議なのですが、何故、男性と言うのは水の魔法を使えるひとが少ないんでしょう? 私の知り合いでは、ヒデヨシさんと例外的なカツイエさんくらいなのですわ?」
魔力切れにより起きる片頭痛を成分の半分がやらしさで出来ているお薬で押さえているアマノが、そういった質問を皆に投げかけるのであった。
「ウキキッ。基本、ニンゲン族の男は火の魔法が得意で、女性は水の魔法が得意な方が多いんですよねウキキッ。エルフとなると、男女ともに風の魔法が得意で、土の魔法が得意と言うエルフはほとんど見たことも聞いたこともないのですウキキッ」
「ヒデヨシくんってもしかして、将来、A級冒険者になれる素質があるのかもですね? 今は、水の魔力がD級しかありませんが、魔力B級まで化けるかもですよ?」
「団長、それはさすがに種族的な問題で無理があるんじゃねえの? ニンゲン族の男で水の魔法を使えるだけでもすごいのに、水の魔力B級まで上がったっての、俺が知る限りでは、あのひとだけじゃねえの?」
「えー? お父さんー。男で水の魔力がB級まで上がったヒトなんているのー? なんて名前のヒトなのー?」
「んっとな。リキュウってひとだよ。チャノユの中興の祖って言われてるひとだよ。知らないか?」
「チャノユ? あー、茶の湯のことだねー。あたし、その辺りは全く興味がないから、知らないー」
ユーリから急に興味が薄れていくのが、俺の眼から見てもはっきりとわかる。まあ、仕方が無いと言えば仕方が無いのだがなあ? しかし、そこまであからさまに興味を失くすのは、どうかと思うのだが?
「茶の湯は100年ほど前は男女ともに必須の教養とまで言われていたのですが、今では男性だけの趣味となり果てましたのですわ。だから、リキュウさんは、今の世の女性にはあまり名の知れたヒトではないのですわ?」
アマノの言う通り、茶の湯は男の道と言われていて、老後の楽しみのひとつと化しているんだよなー。今の世だと。なんで、女性には茶の湯は合わなかったんだろうなあ?
「まあ、ニンゲン族の謎のひとつとも言われていますね。何故、ニンゲン族の女性は茶の湯を好まなくなってしまったのかは。本来なら、水の魔法が得意な女性にはうってつけのような気がするのですがね?」
「ガハハッ!
「ふひっ。茶器の中でも、特に茶碗は高いものは眼玉が飛び出るほどの値段なのでございます。女性と言うモノは実利に共わない出費をすごく嫌がるモノでございます。はっきり言って、無駄だと思っているモノでございます。僕も嫁のヒロコに、僕のコレクションの数々を見せても、あっそうとしか言われないのでございます……」
ミツヒデの唯一の趣味である茶の湯は、いくら、未だにあっつあつの仲である奥さんのヒロコさんでも理解を示してくれないのかあ。
「うふふっ。その通りですわ? 銅貨2枚(※日本円で約200円)や3枚で買える湯飲み茶碗で充分だというのに、金貨1枚(※日本円で約10万円)や、まして、金貨10枚で茶碗を買うなんて、気が狂っているとしか思えないのですわ?」
「うーーーん。あののっぺりとして、それでいて優美なのに。あの茶碗から出るワビ・サビを感じられないのは損な気がするんですがねえ? 女性から視たら、高価なおもちゃ程度にしか視えないんでしょうか?」
「俺も、老後は金貨1枚くらいの茶碗を使いたいって思っているんだけどなあ? 団長。今度、俺にも良い茶碗の見分け方を教えてくれよ?」
「うふふっ。それに見合った茶葉で飲むのなら良いのですが、どうせ、40パックで銅貨5枚のお茶しか飲まないのですわ? 無駄だと思わないのかしら?」
うわっ。アマノがすごく冷ややかな視線で俺を視てくるんだけど?
「ユ、ユーリは金貨1枚の茶碗で飲むお茶は美味そうだと思わないか?」
「あたし、そんな無駄遣いする気はないかなー?」
くっ! うちの家庭には俺の味方がいませんぞ!?
「ウキキッ。ツキト殿、高価な茶碗は諦めたほうが良いですよ? ウキキッ」
「ふひっ。せっかく、茶の湯仲間が増えそうなのに、残念至極なのでございます。ツキト殿? 諦めずにアマノ殿を説き伏せてみることをお勧めするのでございますよ?」
うーーーん。俺がアマノを説得ねえ? まずは、タバコをやめろって言われそうだなあ? タバコをやめて浮いたお金で買えばいいのですわ? と言われたら、なかなかにきついなあ?
☆☆★☆☆
「ふう。かなり傷が癒えてきましたよ。ユーリくん、ありがとうございます。あと、足のほうもお願いできますかね?」
「いい加減、疲れてきたよー。誰か、代わってよー」
「ユーリ、良いか? そろそろ、お前は魔力を使い切った状態を学ぶ必要があるんだ。それで、団長はユーリに治療魔法を使い続けさせてるってわけよ」
「えーーー? なんで、そんなことしないといけないわけなのー? 納得できる理由を教えてほしいよー」
「ガハハッ! それは、【魔法酔い】に関係しているからでもうす」
「魔法酔いー? カツイエさん。魔法って使いすぎると、あたし、酔っぱらっちゃったのー? 変なことしたらダメよー? 状態になるってことー?」
「ウキキッ。その認識で大体あっているのです。ウキキッ。魔力を底まで使い切ると、そういう症状が出るのです。ウキキッ」
「ふひっ。ひとによっては、魔力の回復力が著しく低下し、下手をすると三日ほどベッドで寝込むことになるのでございます。まあ、大抵のひとはまさにユーリ殿の言うように酩酊状態に陥るのでございます」
「なるほどー。どちらにしても、クエスト中なら危険な状態に陥るってことだねー? それを知っているか知ってないかだと雲泥の差になるってことねー?」
「その酩酊状態がひどいやつだと三日ほどベッドで寝込むってことさ。だから、この訓練期間の内に何度か魔力切れを起こしておいて、自分がどうなるかを知っておくことが大事になるんだよ」
「そっかー。ちなみにお父さんとかアマノさんはどうなるのー?」
「俺か? 俺は、すっごい頭痛に襲われるな。半日は活動が不可能になるくらいのやつ。とてもじゃないが、戦闘続行は無理だな」
「私は、ほろ酔い気分とあと片頭痛持ちになるのですわ? 戦闘可能かどうか問われれば、可能なのですが、弓矢の命中率が半分くらいに低下しますのですわ?」
「うっわー。アマノさんの弓矢の命中率が半分以下って、とんでもないことだよー。間違って、お父さんのお尻に命中させそうだよー」
「まあ、実際、アマノが魔力切れを起こしたときは、危なっかしくて、弓矢を射させないんだけどな? 一回、カツイエ殿の尻にクリーンヒットして、大変だったからなあ?」
「ガハハッ! 魔力切れを起こしていたから、
「ふひっ。普通、矢って、当たり所によっては人体を軽々貫通するはずでございますよね? カツイエ殿の筋肉は鋼鉄か何かなのでございますか?」
「まあ、カツイエ殿はニンゲンをやめてるA級冒険者だからな。ニンゲン族の常識を当てはめること自体が間違ってると思うぜ? ミツヒデ」
とまあ、お盆進行を終えた俺たちは、毎年、【
俺たちは談笑後、館の敷地内にある訓練用広場で、盛大に打ち上げパーティを開くことになる。そこで、酔っぱらったカツイエ殿が、隠し業を披露ししたために、訓練用広場に大穴が開いてしまうことになる。
団長はカツイエ殿を正座させ、叱り飛ばした。さらに訓練用広場の復旧には2週間近くかかることになり、訓練用広場で行っていたユーリの訓練は強制的に中止となったのだった。
さて、ユーリの訓練ができないからと言って、のんびり休暇をもらっているわけにもいかないな。ここは、冒険者ギルドにでも行って、クエストを受注してきますかね。
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