第8話 神帝暦645年 8月21日 その4
とりあえず、ネズミのこっしろーの家族が増えるよ! は、なんとかなりそうな雰囲気がするので、次の話題に移ることにする俺たちである。
「ネズミのこっしろーが魔法を使えるってのは良いんだけど、どの系統を使えるんだ? オスみたいだから、やっぱり、火か土あたりになるのか?」
「こっしろーくんの言い分が本当であるなら、風と水の魔法を使えるみたいですよ? まあ、魔力検査をしてみるのが一番なんですけど、そんなことしたら、魔術師サロンがひっくり返るほどの大騒ぎを起こすでしょうしね?」
うん。団長、それは間違いない。ネズミのこっしろーがそのまま、魔術師サロンにさらわれて、実験体として、とてもではないが、口では言えないようなことをされるだろうな。しっかし、ニンゲン族の社会において魔力検査を一手に引き受けているのが、魔術師サロンと宮廷魔術師会なんだよなあ。他に抜け道とかないものなのか? エルフ族かドワーフ族の集落に頼みに行く手もあるか? うーーーん、まあ、それは良いか。今は、こっしろーが本当に魔法が使えるかどうかを確認するほうが先決だな。
「おっし。こっしろー。とりあえず、風と水の魔法で使えるのは何だ?」
「えっとでッチュウネ。大抵のモノなら使いこなせるでッチュウ。ただ、魔力の量に関しては期待しないでほしいところでッチュウ」
「へーーー。こっしろーくん、すごいねー? じゃあ、
ユーリの催促に、こっしろーが後ろ足の二本で立ち上がり、えっへんと胸を張る。こいつ、本当にネズミなのか? ちょっと、中に小さいおっさんが入っているのではないか? と疑念が湧いてきたぞ?
そうこう考えているうちに、こっしろーが魔法詠唱を始めるのである。うおっ! マジかよ! ちゃんと共通言語を使って、魔法詠唱してんぞ、このネズミ野郎!
「風よ、眼の前の女性を優しく包むのでッチュウ!
ネズミのこっしろーがそう発言したと同時に、ユーリの周りに魔法防御力を上げる
「うおーーー。本当に魔法が使えるんだねー! こっしろーくん、すごいよーーー!」
すげえな、このネズミ野郎。精々、自分の身を護る程度の
「なあ、こっしろー。
「
ちなみに
それをこのネズミのこっしろーが使えば、体重の軽さも手伝って、魔力切れになるまで、宙に浮きっぱなしになるのではないかという俺の推測なのである。しかし、宙を飛ぶネズミは果たして、もうネズミなのであろうか?
「ツキトくん。こっしろーくんをまだ檻から出してはいけませんよ? 使い魔としての契約を果たしたあとでないと、どこかに逃げる可能性がありますからね?」
「ああ、そうだな。あと、ネーム・タグも準備しないとな。飼いネズミってわからないと、駆除されたら大変だもんな」
「駆除はやめてほしいでッチュウ! それと、契約ってどういうことをやるのでッチュウ? 僕、痛いのは嫌でッチュウよ?」
「こっしろーくん、安心してください? 使い魔が主人との魔力と繋がるためにちょっとした儀式をするだけですから? まあ、痛いのはユーリくんだけですよ」
「ううう。確か、針で人差し指をㇷ゚スッと指して、その血で魔法陣を描くんだったよねー。その魔法陣の中にわんちゃんなら、前足を入れてもらって、主人と使い魔との契約の文言を唱えるんだったよねー?」
「そうそう。まあ、こっしろーのサイズなら、身体がすっぽり入りそうだけどな? それとネーム・タグはどうしようかな? ネズミサイズとなると、小鳥用ので良いのかなあ?」
術者の中には、スズメやツバメ、それにムクドリなどを使い魔にしているモノも居り、そのため、小鳥用のネーム・タグもペットショップに置いてある。まあ、わかりやすく言うと、飼い主が居ますよっていう首輪と、それについている小さな金属板なんだがな?
その金属板の表には、使い魔の名前。そして、裏には所有者の名前を書くのである。もし、迷い使い魔となっても、そのネーム・タグを確認したひとが、迷い使い魔を預かっていますと街の掲示板に貼り紙をしてくれたり、冒険者ギルドに連絡がくるってわけだ。
アマノが飼っている使い魔の鳩のまるちゃんときたら、伝書鳩を兼ねているのだが、1年に1回の割合で道に迷ったあげく、冒険者ギルドのお世話になったりするのである。
「じゃあ、さっそく、ユーリと、こっしろーの主従の契約を済ませちまおうぜ? 団長、針を持って来てくれよ?」
「はいはい。ちょっと待っていてくださいね? あと、魔法陣を描くための紙も準備しないと」
団長はそう言うと、応接間から一旦退出し、5分後、再び戻ってきて、針と紙をテーブルの上に置くのである。
「ううう。契約のためとはいえ、自分で自分の指に針を突き刺すのって、嫌な気分だよー」
「じゃあ、俺がㇷ゚スッと刺してやろうか? それなら、少しは気分的にはマシだろ?」
「うん、お父さんー、お願いー。なるべく痛くしないでねー?」
ほいほい。じゃあ、ちょっとチクッとするかもしれないが、大声を張り上げるんじゃねえぞ? まるで、俺がユーリをいじめているように思われるからな?
俺は、針を右手に持って、左手でユーリの右手を持つ。ユーリはぎゅっと眼を閉じて、少し震えるのである。まあ、痛いってわかってるんだから、この反応は当たり前だよなと思いながら、俺はユーリの右手の人差し指に針をㇷ゚スッと刺すのである。
ユーリがいたっ! と言い、少し涙眼になりながらも、次は団長が用意した紙に、人差し指をこすりつけ、直径10センチメートルの魔法陣を描いていくのである。
「よっし、できたー。団長ー。この紙をこっしろーくんの檻に入れてー? こっしろーくんが逃げ出さないように注意してねー?」
「はははっ。大丈夫ですよ。こっしろーくんが逃げ出したら、必ず見つけ出して、釜茹でにしますんで。ねえ? こっしろーくんんん~~~?」
「か、釜茹ではやめてほしいでッチュウ! 逃げないから、そんなことしないでほしいでッチュウ!」
「おい、こっしろー。絶対に逃げるなよ? この団長は言ったことは、必ずやり遂げようとするからな? それで俺たちの
「まったく、こっしろーくんを脅かさないでやってくださいよ。はい、こっしろーくん、今、檻の蓋を開けますからね? 逃げ出したら、釜茹でですよ~~~?」
こっしろーががくがくぶるぶると震えてやがる。可哀想に。こんな団長にとっ捕まった時点で、己の運命を嘆くんだな?
こっしろーが入っている檻に団長が魔法陣の描かれた紙を敷く。そして、また蓋を閉じて、檻を机の上に置くのである。
「この魔法陣の中に入れば良いのでッチュウ?」
「そうそう。んで、ユーリが契約の文言を唱えるから、それが終わるまで、じっとしてるんだぞ? ユーリ、契約の文言は覚えているか?」
「ちょっと、自信が無いかなー? この文言って、間違えたら、こっしろーくんがあたしの魔力でズタボロになっちゃうんでしょー?」
「ひいいいいいでッチュウ! 間違えないように注意してほしいでッチュウ!」
こっしろーがまたもや、がくがくぶるぶると震えてやがる。まあ、普通は契約の文言が書かれた紙を読み上げるから、ほとんど失敗しないんだけどな? たまに、滑舌が悪いやつが、噛みまくって失敗をする例もあるらしいが……。
「じゃあ、こっしろーくん。契約を始めるよー? うむむむむー。こっしろーくんとあたしが健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときもー……」
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